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空き家問題に解決の兆し?改正された共有制度の具体例

『コトニ弁護士カフェ』2023年5月26日放送分

前回、4月1日に改正された民法の共有制度についてお話しをしました。
共有制度が改正されたことで,社会問題になっている空き家問題が解決すれば,安全で過ごしやすい街づくりに繋がることでしょう。
では,改正された共有制度の施行で,私たちの生活にどのような変化が起こるのでしょうか。
今回は共有制度に関わる皆さんの身近なお悩みについて,具体的な事例を紹介します。

ケース①共有物である建物の外壁工事について

3人の子どもの共有物である建物に、そのうちの1人,Aさんが住んでいます。建物が老朽化して外壁にひび割れが目立ってきたので、外壁工事をしたいと考えていたところ、「まだしなくてもいい、お金がもったいない」と1人が反対しました。工事費用はAさんが全額出すと言っても、同意してくれません。

このケースだと,改正前であれば共有物の増改築など行う場合,共有者全員の同意が必要でした(改正前民法251条)。問題点としては,改正前の民法ではどのような場合が「変更」となるか法律上は不明確だったことが挙げられます。
しかし,今回の改正により,アスファルト舗装,建物の外壁・屋上防水等の修繕工事など,その形状又は効用の著しい変更を伴わないものについては,持分の過半数の同意があれば可能となりました(民法251条第1項かっこ書き及び252条第1項)。

また,共有物の管理者が決められていた場合は(252条第1項かっこ書き,民法252条の2第1項),共有者の過半数の合意を得なくても共有物の管理者の権限で形状や大きな変更を伴わない管理を行うことができます。

本件の場合,建物のひび割れ工事ですので,建物の形状に著しい変更を伴うものではありません。したがって,3人のうち2人が合意した場合はひび割れの修繕をすることができ,その費用は,3人のそれぞれの持分に応じて支払うことになります(民法253条第1項)。

さらに,Aさんが管理者として選任されている場合は,Aさんは他の共有者に相談することなくひび割れの修繕をすることができます。また,その費用を他の共有者に対し,共有割合に応じて請求することができます。

ケース②共有者(相続人)が行方不明である

空き家の所有者が亡くなり,空き家を3人の子どもに共有建物として残しました。
数年後,子どものうちの1人が土地を売って空き家を処分したいと考えましたが,子ども3人のうち1人が行方不明になっており、連絡が取れません。

改正前の民法では,相続の対象となっている建物に関して,遺言書がない場合は相続人全員の共有となりますので(改正前民法898条),その処分については相続人全員の合意が必要でした(改正前民法251条)。
そのため,共有者に行方不明者がいる場合は全員の同意を得ることはできず,放置するしかありませんでした。

裁判をするとしても,共有者である相続人全員を相手方として裁判する必要があり,行方不明の相続人を探し出す必要があるため,手間が多く負担がとても大きかったのです。
しかも,改正前の民法では相続人の共有割合について規定がないため,管理が難しいのが現実でした(改正前民法898条)。

しかし,民法898条が改正され,共有割合は法定相続分とすることが決められましたので(民法898条第2項),その共有割合に応じて,民法252条に従い修繕等の管理ができるようになりました。
さらに,行方不明の共有者の所在や氏名がわからなくても,裁判所の決定を得れば,それ以外の共有者がその不動産の持分を取得したり,売却したりすることができるようになりました(251条第2項)。

本件の場合,まず空き家の清掃や修繕などの管理については,それぞれの相続分が3分の1ずつですので,2人の合意があれば可能です。
そのため,1名が行方不明でも,裁判所の許可を得なくても管理することができます。

そして,売却などの変更については,どうしても1人が行方不明で見つからない場合は,裁判所に申し立てることで,裁判所の決定をもって売却することが可能です。

ケース③管理者を共有者以外に変更したい

2人の兄弟が共有者として所有している土地と建物があります。しかし、2人とも遠方に住んでいるため、その空き家は放置された状態でした。その空き家を有効活用するため、すぐ近くに住む親戚を管理者にすることはできますか?

これも民法252条及び252条の2の問題です。
改正前の民法では,管理者の選任に関する規定が不明確で,選任する要件や権限の内容がはっきりしていませんでした。

改正された民法では,民法252条第1項で,管理者の選任についても共有者の過半数で決することができるようになりました。
この管理者については,共有者でなければならないという規定はありません。

本件の場合,空き家の近くに住む親戚を管理者にすることは,法律上認められています。
問題は,どうやって決定するかです。

ご兄弟がお2人ですので,もしも持分が2分の1ずつでしたら,過半数を得ることができませんので,結果として,ご兄弟2人の合意により管理者を決定することになります。
仮にどちらか一方の持分が過半数以上であれば,事実上,その方お1人で管理者を決定することができますが,他方の共有者はお1人では何も決定することができなくなります。

したがって,まずお2人の共有割合がどうなっているかを確認し,もし2分の1ずつであれば,お2人の合意により,親戚の方を管理者にすることが可能となります。

ケース④いまにも倒壊しそうな近隣の空き家について

Aさんは,隣接する放置された空き家が、いまにも倒壊しそうで困っていました。所有者だった人はすでに亡くなっていて,相続人としてお子様が3名いたのですが,連絡先もわかりません。このような場合,まず自治体に相談すべきでしょうか?

これも改正された民法によって対応できるようになった事例です。
これまでは,隣家が他人の建物かつ共有物であった場合で,その共有者の居所がつかめない場合は,それに対応できる規定がなく,お手上げの状態でした。

新しい民法では,所有者を知ることができず,またはその所在を知ることができない建物について,管理の必要性があるときに,裁判所が,所有者不明建物管理人という管理人を選任し,その建物の管理を命令する処分をすることができる規定として民法264条の2から264条の8を新設しました。
これを,所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令といいます。

これまでも,所有者の所在が不明な建物等の管理・処分を行うための制度として,裁判所が,不在者財産管理人や相続財産管理人を選任して管理・処分する仕組みがありました。
しかしこの仕組みは,その対象者の財産全般を管理する仕組みであって,特定の建物等を管理する場合には利用できませんでした。
新しくできた所有者不明建物管理命令は,所有者不明建物の利害関係人の請求によって,裁判所が,以下の両方を認めた場合に決定することになります(民法264条の8第1項)。

i)調査を尽くしても所有者またはその所在を知ることができないこと
ii)管理状況等に照らし管理人による管理の必要性があること

そしてその効力は,所有者不明建物のほか,建物にある所有者の動産,管理人が得た金銭等の財産にも及びます(民法264条の8第2項)。
所有者不明建物管理人の権限により,保存行為や建物等の性質を変えない利用・改良行為は自身の判断で行うことができますが(264条の3第2項,民法264条の8第5項),これらの範囲を超える行為,例えば建物の取り壊しなどをするには,裁判所の許可が必要です。

本件の場合,まずは弁護士などの専門家に相談して,それぞれの相続人の子どもたちの居所を探してもらう必要があります。
3人兄弟ですので,2人を探し出せば252条の規定で共有者の過半数となりますので,Aさんを管理者として選任してもらうことで,空き家の修補などを相続人の負担で行うことができます。
また,1人だけでも見つけることができれば,251条第2項で裁判所の許可を得て取り壊すように要請することが可能です。
しかし,どうしても共有者である子どもたちが見つからない場合は,裁判所に申し立てることで所有者不明建物管理命令の決定を受けることが望ましいと考えます。
その上で,建物修補など所有者不明建物管理人の権限で行うことができます

どうしても補修ができない場合は,裁判所の許可を得て取り壊すことが可能な場合もあります。
このような管理について必要な費用は,裁判所が定める前払い・報酬を受けることができます。この建物の所有者である共有者に請求することができます(264条の7第2項)。

いずれにせよ,専門的な手続なので,弁護士に相談することを強くお勧めします。

 

ラジオ番組『コトニ弁護士カフェ』
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