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北海道 朱鞠内湖の熊襲撃事件、その責任問題は?弁護士が解説

『コトニ弁護士カフェ』2023年6月9日放送分

最近では温かい日が続いており,北海道では熊の出没が相次いでいる状況です。
過去にも熊に関する話題を何度か取り上げましたが,今年は昨年よりも熊の目撃数が増えているようです。
先日は,北海道・上川管内幌加内町の朱鞠内湖湖岸で釣りをしていた男性が熊に襲撃され,命を落とすという悲しいニュースがありました。
この事件は非常に悲惨なものであり,まだ記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。
今回は,この事件について振り返り,責任の問題についてお話ししたいと思います。

朱鞠内湖で釣り人が襲われた事件の概要

2023年5月14日の朝,北海道上川管内幌加内町の朱鞠内湖の湖岸で釣りをしていた男性が行方不明になりました。
男性が釣りをしていた場所は,朱鞠内湖の東側に位置するナマコ沢の水辺付近で,この場所は事件の5日前に熊の目撃情報があった場所の付近でした。
警察や町の捜索活動が行われた結果,現場周辺で男性の遺体の一部と大量の血痕,釣りの毛針が見つかりました。
DNA鑑定により,遺体は行方不明になっていた男性のものであることが確認されました。
さらに,5月15日には,事件が起こったとされる現場周辺を徘徊していた熊1頭が駆除されました。
駆除された熊の体内からは人の体の一部が見つかっており,釣り人を襲ったのはこの熊であると考えられています。

私も過去に何度か朱鞠内湖に釣りに行ったことがあります。湖の周辺は森に囲まれており,船で島や対岸に渡ってもそれ以外の道が存在せず,何か危険があっても逃げる場所が限られています。
私自身は幸い朱鞠内湖で熊に出くわしたことはありませんが,今回の事件を受けて、不安が大きい方も多いのではないでしょうか。

管理会社の責任問題を問う声も

今回の事件が起きた朱鞠内湖の釣り場では,朝に渡し船で釣り人を連れて行き,午後に迎えに行くというサービスが提供されており,釣り人は迎えが来るまで帰ることができませんでした。
この点において,釣り人を連れて行った管理会社には責任があるのではないか,世間では議論になっていました。

別の報道によれば,周辺では事件が発生した5日前の9日にも熊の姿が確認されており,9日から事件が起きた前日の13日までは釣り客の上陸を中止していたようですが,14日には独自の判断で釣りを再開していました。
事件が起こったのは釣りを再開した日の14日であり,安全の観点からは,本来ならば引き続き営業を休止すべきだったのではないかという意見もありました。

通報義務なしの管理体制について

一般的に,熊は警戒心が強く,人に気がつくと先に逃げることが多く、積極的に人を襲うことは少ないとされていますが,今回の事件を引き起こした熊は,人を恐れない特異な個体であったと考えられます。
事件の5日前である5月9日に,朱鞠内湖で熊を目撃した男性は,「笛を鳴らしてもまったく反応せず,悠然と歩いてきた」と話してます。
彼は危険を感じ,管理会社であるNPO法人「朱鞠内湖ワールドセンター」に通報しましたが,熊出没に関する情報は,朱鞠内湖ワールドセンターから町や道,警察には連絡されていなかったようです。
朱鞠内湖は私有地ではなく,ワールドセンターがキャンプ場や釣りの管理を行っているに過ぎないので,行政機関や警察に対する報告などの規制がありません。
熊や動物による被害についての法的責任を問う法律もないため,管理側に罰則はありませんでした。

熊の襲撃によって課せられる「罰則」とは

企業や法人には「安全配慮義務」という責任があります。
この「安全配慮義務」とは,労働契約法第5条によって規定されており,雇用主(企業)が従業員の安全を考慮する義務を意味します。
この責任は,労働者だけでなく顧客に対しても認められる場合があるのです。

熊の襲撃とは異なる例ですが,2016年には札幌ドームで野球観戦をしていた一般観客がファウルボールに当たって失明するという事件がありました。
この事件では,観客に対しても安全配慮義務があることを認め,安全配慮を怠ったとして,球団に対し3,000万円を超える賠償金が請求されています。

その他,「不法行為責任」に問われる可能性もあります。
不法行為とは,故意または過失によって他人に損害を与える行為を指し,もしも,14日に熊が必ず出現することが分かっていたにもかかわらず,釣りに行かせた場合,この責任に該当する可能性も考えられます。

ただ,今回の朱鞠内湖の事件では,あくまで熊などの野生動物がいるエリアに,人が入っていくという環境であるため(人が活動するエリアに熊が入ってきたのではない),基本的には自己責任となりそうです。
そのため,釣り場自体の管理責任というよりも,熊が出没したエリアに熊の出没を知らせないまま渡し船でそのエリアに一人で下ろしたとか,熊が出没することがほぼわかっていたにもかかわらず,やはり渡し船で釣り人を下ろしたなどの事情があれば過失責任を問われる可能性はあると思います。

改めて認識した「熊対策の重要性」

釣り客が熊に襲撃された事件を受けて,渡し船を運航しているNPO法人「朱鞠内湖ワールドセンター」の代表は,「熊の出没に関する注意喚起はホームページや口頭で行っていたが,1人で行かせてしまった。対策を打つべきだった」と述べています。
2023年6月現在,朱鞠内湖ワールドセンターは,キャンプ場と遊覧船など一部営業を再開したものの,朱鞠内湖での釣りは引き続き自粛としています。

また,朱鞠内湖淡水漁業協同組合と警察の発表を受けて,今回の事故における問題点の洗い出し,再発防止策の検討を行うとして,今後の対策を見直すとしています。
今回の熊の襲撃事件は,「基本的に熊は人を襲わない」ということが一概にはいえないことを世間に知らしめた事件になりました。
そして,私たちが学んだことといえば,やはり熊などの野生動物に対する対策の重要性といえるでしょう。

アウトドアやレジャーでは熊対策を万全に

最近では,釣りやアウトドア活動が人気を集めていますが,自然の中での活動には熊などの野生動物と遭遇する可能性はゼロではありません。
そして、上述のとおり、釣り場などの自然環境での活動においては,人が積極的に管理をしている管理釣り場などを除いては自己責任が原則とされています。

これからの季節,釣りやアウトドアを楽しみたい方は,以下のことに気を付けましょう。

  • ルールやマナーを遵守し,立ち入り禁止地区には進入しない
  • 万が一に備え単独行動は避ける
  • 熊対策として熊撃退スプレーやナタなどの防御具も準備しておく

最も重要なのは熊との遭遇を避けることです。
まずは野生動物と近づかない,先に気付いてもらって近づかせないことが大事です。

私がやっているのは,爆竹やロケット花火を用意して,山奥で釣り場に入る前は必ず爆竹やロケット花火を鳴らすようにしています。
熊は聴覚や嗅覚が優れているので,鉄砲のような爆発音や火薬の匂いには気がつくと言われています。
そして,熊撃退スプレーは常に常備しています。

熊の出没は年々増加しており,都会でも遭遇することがあります。
最近は,札幌市の住宅地周辺でも熊の出没が相次いでおり,決して山奥に限った危険ではないと言えます。
なお,札幌市ではLINEやWebページで熊の出没情報を随時提供しています。
【公式】札幌市ヒグマ出没情報

外出する際は,あらかじめ熊の生息地や注意喚起情報を確認することが大切です。
出没情報があれば決して近づかないようにするなどし,適切な対策を行ったうえで自然を楽しんでください。

ラジオ番組『コトニ弁護士カフェ』
毎週金曜日10時30分から三角山放送局で放送中!
隔週で長友隆典護士&アシスタントの加藤がお送りしています。
身近な法律のお話から国際問題・時事問題,環境や海洋のお話まで,様々なテーマで約15分間トークしています。
皆様からの身近なお悩み,ご相談などのリクエストもお待ちしております。
三角山放送局 reqest@sankakuyama.co.jp または当事務所のお問い合わせフォームでも受け付けております。

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