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ワクチンパスポートの申請受付開始、国内での活用はどうなる?

『コトニ弁護士カフェ』2021年7月30日放送分

7月26日から日本国内でも新型コロナウイルスの「ワクチンパスポート」の申請受付が開始しました。
ワクチンの接種を公的に証明する証明書であり,海外渡航の際の検査や隔離期間の緩和を目指しています。
今後は個人消費の回復を目指し,ワクチンパスポート所有者への割引や優待なども期待されていますが,国内での利用はまだ未定です。ワクチン接種は個人の選択であるものの,接種者への優遇が目立つようになれば.接種していない/できない方々が不公平に感じるのではと懸念されています。

ワクチンパスポートとは?海外での導入事例

新型コロナウイルスのワクチンパスポートとは,海外に渡航する人のためにワクチン接種の履歴を公的に証明する証明書のことです。
すでに海外でも一部導入されており,日本国内では7月26日から各市町村で申請受付が始まっています。

海外ではすでにドイツ,イタリア,ギリシャなどのヨーロッパ各国ではワクチンパスポートの導入が始まっており,EU域内共通で使用できる「デジタルコロナ証明書」の運用も,すでに7月1日から始まっています。
ワクチンパスポートの効果は各国で少し異なりますが,たとえば入国後の隔離期間が緩和されるとか,入国時に義務づけられているPCR検査が免除されるなど,国と国の移動をスムーズにすることで,コロナの影響で大きな打撃を受けた観光業を立て直すことがひとつの目的です。

日本国内での需要は?EU諸国と単純に比較できない

日本国内での申請は,接種を受けた市町村に申請するのに,接種券や接種済みという証明書,パスポートなどが必要になるようです。
いまのところ海外渡航する人のためであり,国内で使用することは想定されていないようですが,はたしてヨーロッパ諸国ほどの効果が期待できるのでしょうか?

ヨーロッパと日本を比べたときに,ヨーロッパというのは小さな国がたくさん連なっており,EUという共同組織もあります。
特にEU加盟国間では,共通の通貨があったり,加盟国間の移動では検問が緩和されていたりと,もともと国家間を行き来することに関してすごくハードルが低いのです。
ちょっと極端な例かもしれませんが,「東京に住んでいる人が連休に車で軽井沢に遊びに行く」みたいな距離感とノリで外国に行けてしまうわけです。

それに比べて日本はご覧の通り完全に島国ですので、海外に行くとなると当然、飛行機や船を使って海を超えていかなければなりません。
現代では誰もが海外へ行くのが珍しくなくなったとはいえ、日本人にとっては物理的にも心理的にも「海外に行く」というのは、わりと一大事なのです。
そのため,ヨーロッパと同じように日本にもワクチンパスポートを導入したからといって,海外への渡航が急激に活発になるとは,単純にはいかないでしょう。

ワクチンパスポート、国内活用の可能性

いまのところこのワクチンパスポートを日本国内で使う予定はないようですが,国内経済の活性化のためにも,今後うまく活用されることが期待されています。

経団連がワクチンパスポートについて提言をまとめているのでご紹介します。
まずは,現在は紙での証明書発行なので,それをデジタル化してスマートフォンなどでも提示できるようにすることが求められています。
そして,ワクチンパスポートの国内活用に関して四つの方向性を示しています。
一つ目は,飲食店やいろいろな施設の利用に際して,ワクチンパスポートを持っている人には飲食代や入場料などの料金を割引したり,ポイントで還元したりする案です。
二つ目は,海外への渡航だけでなく国内での移動でもワクチンパスポートを活用しようというものです。
たとえばツアーなどの参加や,移動の自粛を緩和するような対策です。
自分がワクチン接種済みだった場合,ワクチン接種済みの人しか参加できない国内旅行のツアーであれば,少し安心感があります。
それから,イベントなどの入場緩和も考えられています。
今回のオリンピックはすべて無観客となってしまいましたが,ある程度ワクチン接種が進んで簡単に証明できるようなシステムが整っていれば,ワクチンパスポートがある人は観戦できるとか,そういったことも考えられたかもしれません。
そして最後に,医療機関や介護施設への面会などの緩和も挙げられています。

このように国内でもワクチンパスポートの導入が広がれば,ワクチンの接種率も上がるでしょうし,経済の活性化にもつながるのではないかと考えます。

非接種者への圧力にならないよう注意を

実際にいまアメリカでも議論されているようなのですが,本来はワクチンの接種というのは個人の選択であって強制されるものではないものの,ワクチンパスポートの導入などによってワクチンを接種した人だけが優遇されるような機会が増えると,打った人と打っていない人で不公平になってしまうのではないかという声があります。
さらには「あの人は打っていないから」といった差別的な対応にもつながってしまうのではないかと懸念されています。

コロナワクチンを接種するかしないかは,あくまでも個人の選択によるものであり,強制力はありません。
しかし,ワクチン接種がある程度広がってきたときに,打った人と打っていない人で世間の目や対応が大きく異なってきてしまうと,結果的に同調圧力のようなものを与えてしまうことになりかねません。

ここで気をつけなければならないのは、「優遇」と「差別」の違いです。
優遇されない=差別とはならない、ということです。
たとえば現在もすでに高齢者への割引,小さなお子さんがいるご家族にだけのサービス,映画館などのレディースデーなど,ある特定の属性の方への優遇というのはいろんな場面で見られます。
それはメインとなるサービスや商品とは別に,プラスアルファのおまけのような価値提供なわけで,「高齢者じゃないから入場できません」「お子様連れの方にしか売れません」といったように,それ以外の人を拒絶しているわけではありません。
ワクチンパスポートを持っている人への優遇というのも,同じ原理だと考えます。

憲法14条から見る「合理的な区別」と「不合理な差別」の違い

憲法14条で禁止されている差別というのは,不合理な差別を禁止するもので,合理的な区別は許容されるということを理解しておきましょう。
不合理な差別とは,憲法14条に明記されいてるものでは,人種,性別などによる差別はこれにあたるとされています。
たとえば,女性の定年は50歳で男性は60歳だとか,白人の方は入店してもいいけれどそれ以外の人種の方はダメだとか,こういうものです。

一方で,合理的な区別とは「ものの性質や状態を見極めて区分けをすること」となります。
たとえば,男女で更衣室を分けるとか,子供や高齢者に対するレストランや航空運賃などでの優遇,収入によって税率を変えるなど,私たちの身のまわりにもたくさんあります。

そこで,ワクチンを接種した方への優遇はどうなるかというと,ワクチン接種が義務ではない以上,ワクチン接種をしていない方に出入りを拒否するなど「不利益」を課すことは差別となる可能性があると思います。
仮にワクチン接種が法律で義務になっていたとすると,それを拒否する方に一定の不利益を課すことは差別ではないと言えるでしょう。
ワクチンを接種した方にディスカウントなどの特典をつけるのは入店を拒否しているものではないため,不合理ではなく,またビジネスでお客様を増やすという観点からも合理的だと考えます。

何が不合理で何が合理的なのかの判断基準は難しいですが,もし,このような優遇や特典などを導入しようとされる場合は,やはり弁護士などの専門家に相談されるのがいいかもしれません。

『コトニ弁護士カフェ』次回の長友隆典弁護士の担当回は, 2021年8月20日放送です!

ラジオ番組『コトニ弁護士カフェ』
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隔週で長友隆典護士&アシスタントの加藤がお送りしています。
身近な法律のお話から国際問題・時事問題,環境や海洋のお話まで,様々なテーマで約15分間トークしています。
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