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民法の共有制度はどう変わった?改正後の共有制度について解説

『コトニ弁護士カフェ』2023年5月12日放送分

今年の4月1日に,改正された民法の共有制度が施行されました。
この改正によって「空き家問題」の解決に大きく貢献することが期待されています。
北海道の田舎などでは,放置された古い空き家をよく見かけますが,今後はそういった現状に変化が起こるかもしれません。
今回は,改正された共有制度について詳しくお話しをしたいと思います。

改正後の共有制度とは?

この度施行された共有制度は,主に所有者不明の放置された空き家問題に焦点を当てて改正が行われたものです。
令和3年の民法改正で,国内で大きな社会問題となっている所有者不明土地問題,特に北海道をはじめとした地方部で空き家が多く放置されている問題の解決を目的として行われた改正案でした。

■空き家のほとんどは「遺産共有物」

所有者不明で空き家のまま放置されている物件は,遺産分割ができていない「遺産共有」の状態がほとんどです。
放置された空き家については,倒壊や虫,雑草による被害などで困っているなどといった近隣からの声は多く聞きます。
以前までは共有者全員の同意がなければ手続きを行うことができませんでした。
しかし,共有制度の見直しによって,以前までは困難であった共有財産の変更や売却が可能になったため,空き家の倒壊・虫や雑草などの被害も改善されていくのではないかと考えられています。

共有物の管理者について

今回の共有制度の改正で大きく変わったのは民法252条の部分です。
改正前は,管理者を特定する要件や権限が明確ではなかったため,問題が解決できない状況でした。
また,共有物の管理に関する事項は,持分の過半数によって決定することとなっていました。

しかし,共有者の中に共有物を利用したり居住したりしている者がいる場合は,「管理」の範疇ではなく,民法251条の「変更」に該当するとして、全員の同意が必要と解釈されることもあり,管理ができない場合もあったのです。

ところが,今回の改正法では,民法252条第1項に「共有物を使用する共有者があるときも、同様とする」と明記されました。
つまり,共有物を利用する人がいても,管理者の選任や解任,その他共有物の管理に関する事項は,共有者の持分の過半数に基づいて決定できるようになったのです。

ただし,その使用者に特別な影響を及ぼす場合は、3項で明示されているように、その使用者の承諾を得る必要があります。これにより,使用者の保護も図られています。

■共有者に行方不明者がいる場合

さらに今回の改正法では,一部の共有者が特定できない場合や,意見を求めても反応がない場合でも,裁判所が代わりに決定をすることが可能となりました。
これが252条2項です。

また,一定の期間を超えない使用貸借や賃貸借の契約締結も管理行為として第4項に明記されたことも重要な変更点といえるでしょう。

改正後の空き家の管理について

改正前に大きな問題となっていたのが,誰も住んでいない空き家などの建替えや売却についてですが,こちらは先述した民法251条の共有物の変更の問題に該当します。

たとえば,空き家の所有者が亡くなり,空き家を三人の子どもに共有建物として残したとします。
数十年後,子どものうちの一人が土地を売って空き家を処分したいと考えているが,子ども三人のうち一人が行方不明となっている場合を考えてみましょう。

民法改正前まで,空き家となっている共有建物については,共有者全員の同意を得る必要があるため,共有者に行方不明者がいる場合は全員の同意を得ることはできず,放置するしかありませんでした。

しかし,改正後は,行方不明の共有者の所在や氏名が分からなくても,裁判所の決定を得れば,それ以外の共有者がその不動産の持分を取得や譲渡ができることになったのです(民法262条の2,262条の3)。

共有者(相続人)が複数人いる場合

先述のとおり,多くの所有者不明土地や建物が「遺産共有」状態となっており,共有者(相続人)が複数いるケースが多いのが現状です。このような場合の共有物の持分の算定方法について,これまで明確ではなかったこともひとつの問題でした。

相続の場合の共有の持分に関しては,民法898条の問題に該当しますが,改正前の民法898条は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」という規定のみでした。
今回の改正法では第2項が追加され,遺産共有状態にある共有物に関する規定を適用するときは,法定相続分または指定相続分によって,算定した持分を基準とすることになっています。

また,共有者の中に行方不明者がいる場合の管理についても改正され,民法898条2項により対応ができることになりました。
以前は,所在不明の共有者がいる場合,すべての共有者を当事者として訴えを起こす必要があったため,手続き上の負担が大きいものでした。

しかし、改正された898条2項により持分の基準が明確になったため,不明者がいてもその持分によって,民法252条に基づき管理をすることが可能となったのです。

また,民法251条の共有物の変更についても相続に適用されますので,共有者は裁判所の決定を得られれば,所在や名前が分からない共有者の不動産の持分を取得できるようにもなりました。
これにより,空き家問題が解決する可能性が高まったといえるでしょう。

■共有者以外を管理者にすることも可能

今回の共有制度改正によって,相続人である共有者以外でも管理者になることが可能となりました。
改正前は,行方不明者の共有者がいると手の施しようがなく,行き場のない空き家が増えていく一方でした。
しかし,今回からは共有者が申し立てをして裁判所から不動産の持分を譲渡できる権限を与えられる制度ができました。
この場合,所在等不明共有者以外のすべての共有者が持分すべてを譲渡することを条件とし,不動産すべてを第三者に譲渡する場合でのみ適用されます。
そのため,一人でも共有者が持分の譲渡に反対する場合には条件を満たさないため,譲渡はできないことも知っておきましょう。

改正後の共有制度,空き家問題の大きな節目となるか

今回の改正は,所有者不明土地の円滑な利用や管理ができるように改正されました。
不動産の共有者に所在不明者がいる場合には,必ず裁判を申し立てる必要があることを知っておきましょう。こういった空き家問題にはまだまだ課題が残りますが,こうして改正を重ねることで,よりよい街づくりに繋がることを願っています。

 

参考 法務所「民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について」

 

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