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知床で発生した遊覧船沈没事故|安全規定の基準は?

『コトニ弁護士カフェ』2022年6月3日放送分

今年4月23日に知床で発生した遊覧船事故。発生して1ヶ月以上が経過しました。
亡くなられた方,いまだ行方不明の方が26人という,大変痛ましい事故です。
犠牲者の皆様には,心よりご冥福をお祈りいたします。

今回なぜこのような事故が起きてしまったのか,責任の所在はどこにあるのか。
遊覧船の同業者からも“今日はやめておいたほうがいい”という警告もあったのにも関わらず,なぜ出航してしまったのか,というところが論点のひとつになっています。

今回は,遊覧船などの安全規定がどのように定められているのか,そしてその規定が実際に守られているかどうか,管理体制はどうなっているのかなど,制度に注目して解説します。

知床遊覧船事故|運行基準と事故当時の状況

ニュースによると,これまでも運行体制については問題になっていたそうです。
そして当日は「海が荒れたら引き返す」という条件を設定して,運航に踏み切ったとのこと。
この会社の運航基準では「風速8メートル以上,波の高さ1メートル以上,視界は300m以下」の場合は出航しないと定められているそうです。
今回のように「荒れたら引き返す」というような条件があれば出航していい,という条件はどこにも書かれていませんでした。

そして事故当日,午前8時に条件付きでの出航を判断し,午前10時に船は出航しました。
出航時の波の高さは0.3mほどだったと言われています。
この観光クルーズは約3時間,予定ではその日は午後1時頃に戻ってくる予定でした。

しかしその後、漁師の方々や同業の方々の予測通り天候は荒れていき,午後1時には風速16.4mにもなっていたそうです。
カズワンが戻ってこないため,連絡を取ろうとするも,事務所の無線が繋がらない状況でした。
数軒隣の事務所から無線連絡をしたところ,すでに事態は深刻化しており,無線の先からは船が傾き始めてパニックになっている様子が伝わったようでした。

旅客船の安全管理規定はどのように定められているのか

先ほどの「荒れたら引き返す」という条件があった場合でも,荒れ方が急速だったり,予想を超えるような激しい荒れ方だったりする可能性もあります。
安全に戻って来られる保証はどこにもありません。
そもそも,この安全管理規定というのは,旅客船の運航事業者が海上運送法に基づいて安全管理規定を作成し、国交相に届け出る義務があります。
風速や波の高さなど,出航の可否の判断基準を規定に記す必要があるのです。
安全管理規程は,海上運送法で定められています。

海上運送法第10条の3 一般旅客定期航路事業者は,安全管理規程を定め,国土交通省令で定めるところにより,国土交通大臣に届け出なければならない。これを変更しようとするときも,同様とする。

e-Gov法令検索


一般旅客定期航路事業とは,港と港を定期的に結ぶ旅客船で,旅客定員13人以上の船を運航する事業のことです。
今回,事故が起きた遊覧船は港から別の港へ運航するわけではないため,旅客不定期航路事業という区分になります。

しかし,海上運送法第20条の2では,第10条の3の規定は人の運送をする不定期航路事業(特定の者の需要に応じ、特定の範囲の人の運送をする不定期航路事業を除く。)について準用する。とあります。

そして,この安全管理規定で,出港・輸送の安全を確保するための事業の実施及びその管理の体制や方法の策定,安全統括管理者や運行管理者の選定,などが求められています。
例えば,出港のための天候条件の基準や,事故が起こった時のコミュニケーション手段の策定なども含まれます。
当然,知床遊覧船の運行会社にも安全管理規程を作成する義務がありました。

その基準の一つが先ほどの「風速8メートル以上、波の高さ1メートル以上、視界は300m以下」の場合は出航しないというものでした。

ところが,それにも関わらず「条件付き出港」ということで出港してしまったのです。
これではせっかく安全管理規定を定めたのに意味がなくなっています。
また,事故が起こった時のコミュニケーションの方法が定められていても,携帯電話の圏外だったり,無線設備が壊れているという状態ではそもそも出港するべきではなかったと思います。

安全管理規定に従わなかった場合の罰則

また安全管理規程違反には罰則もあり,それは会場運送法に定められています。
安全管理規定を届け出ていたものの,従わないで事業を行った場合は100万円以下の罰金という罰則が法律第50条6号に定められています。

そして,今回事故を起こした会社は,通信体制の不備をはじめ,おもに安全マネジメントの管理ができていなかった点において,海上運送法に基づく安全管理規程の違反が17件確認されました。

さらに,運航管理者として選任されていた社長について,実務経験が全くなく国に対して虚偽の届け出を行っていたことも判明したとしています。
国土交通省は,こうした違反を踏まえ,事業を継続させれば再び重大な事故を起こすおそれがある判断し,海上運送法16条に基づき,旅客不定期航路事業許可を取消すべきであるとして,5月24日に国土交通省が決定をして取消の通知をしてあります。
そのため,有限会社 知床遊覧船は不定期航路事業の認可が取り消されましたので,もう観光船の事業をすることができなくなりました。

このように,法律に違反すると罰金や認可の取消などの罰則があります。

事故を繰り返さないためには

やはり,まずは事業者が現状の制度を確実に遵守することが求められます。
そして,安易な気持ちで運行をしないことです。
交通事故でもそうですが,「だろう運転」が一番危険ということを知っておきましょう。
「このくらいの風なら大丈夫だろう,多少波が高くでも大丈夫だろう,岸から近いから大丈夫だろう」ということが今回の事故につながっています。
きっと,この会社の社長や船長は,それまで多少波が高くても運行して大丈夫だったから,今回も大丈夫だろうと思ったのかもしれません。
無線がなくても携帯電話があるから大丈夫だろうとも思ったかもしれません。
お客様は,知床まで来たのだから何とかならないかと思うかもしれませんが,やはり安全管理が最も最優先されるのです。

その上で,安全規定や制度の見直し,管理規定の遵守の徹底をさせるということが求められると思います。

ラジオ番組『コトニ弁護士カフェ』
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隔週で長友隆典護士&アシスタントの加藤がお送りしています。
身近な法律のお話から国際問題・時事問題,環境や海洋のお話まで,様々なテーマで約15分間トークしています。
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