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選択的夫婦別姓の実現には法改正が必要か。最高裁判所の判決について解説

『コトニ弁護士カフェ』2021年7月2日放送分

選択的夫婦別姓とは、「婚姻する時に夫婦が同性か別姓を選べるようにしよう」という主張です。
2021年6月、夫婦別姓を訴える裁判に対して最高裁の判決が出されました。
夫婦別姓を認めない戸籍法は憲法に違反していると原告側が訴えた裁判では、最高裁がそれを棄却したのち、上告を退けるという判断となりました。
婚姻の際に夫婦どちらかの姓に改姓しなければならないのが現在の日本の法律ですが、姓を変えたくないという理由で事実婚を選択するカップルも増えています。
世論でも選択的夫婦別姓に賛成する声が増えている中、今後は違憲を訴えるよりも、法律そのものの改正を求めていく動きが求められるかもしれません。

日本の法律では、夫婦は同じ姓を名乗らなければならない

現在の日本の法律では、民法750条で次ように決められています。
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する。
つまり結婚する夫婦は、夫か妻どちらかの姓を名乗らなければならないと決められており、結婚した二人が姓を変えたくないと思っても、現在の法律では認められません。
現代では社会進出する女性もとても増えていますし、仕事の都合でそのまま旧姓を使いたい方、生まれた時からずっと使ってきて自分のアイデンティティとなっている姓を変えたくないという方は、男女問わずたくさんいらっしゃるわけです。
しかし、今の法律ではどちらかの姓を名乗らなければならないので、それは憲法14条の「法のもとの平等」、憲法24条「婚姻の自由」に反するのではないか、というのが今回の訴訟の内容です。

6年前の2015年にも同様の裁判で判決が出ましたが、その時も「夫婦同姓は違憲ではない」つまり憲法に違反していない、という判決で、結論だけを見ると今回も同じ結果となりました。

96%の女性が改姓。姓が変わることで生じる不利益とは?

厚生労働省の2015年の調査によると、婚姻時に改姓するのは96%が女性だそうです。
長年仕事をしてきている方、旧姓である程度の社会的認知度の高い方など、結婚して改姓しても仕事上では旧姓を名乗り続ける女性もたくさんいらっしゃいます。
しかし、戸籍上の名前、つまり本名は夫である人の姓ですので、知られている旧姓はビジネスネームのような扱いになるので、たとえば重要な契約を締結する際など、すでに知られている名前と戸籍上の名前が異なることについて、説明が必要になってきます。

また、慣れ親しんだ姓を手放す、アイデンティティを失う、築き上げてきた社会的な地位がリセットされてしまうなど、精神的な側面ももちろんありますが、現実的に、免許証やパスポート、クレジットカード、銀行口座など、改姓すると名義変更しなければならない手続きがたくさんあります。
そういった意味でも、改姓を強制するような現在の法律はおかしいのではないか、というのが原告側の訴えです

最高裁の判断は「国会で論じられ、判断されるべき」

先ほど、2015年の判決とは「結論だけを見ると同じ結果」と話しましたが、実は,裁判官の意見をよく読むと2015年とは少し変わってきていることがわかります。
前回2015年判決では、「夫婦同姓制度は、社会に定着しており、家族の姓を一つにまとめることは合理性がある」との判断をし、「国会で論じられ、判断されるべき」と結論を出しました。
今回は、裁判官の補足意見ではありますが、女性の就業率の上昇や選択的夫婦別姓を支持する人が増えている等の理由から、「選択的夫婦別姓制度の採否など夫婦の姓に関する法制度については、子の姓や戸籍の制度を含め、国民的議論、すなわち民主主義的なプロセスに委ねることで、合理的な仕組みのあり方を幅広く検討して決めるようにすることこそ、ふさわしい解決というべきだ。」と、国会で判断されれば選択的夫婦別姓はあり得ると意見しました。

つまり、これはもう裁判所が判断する問題ではなく、国会での法律改正の問題、すなわち皆様の世論や投票結果の問題になってきているのです。
いわゆる統治行為論とまではいかないとしても、もはや裁判所での判断できめられるものではなくなった、すなわち裁判所の司法審査の範囲を超えていると事実上述べたようなものだと感じます。
2015年から「国会で論じられ、判断されるべき」と言われてきましたが、今回の判決からもいまだに十分に議論されていないことがわかります。
このままでは同じように夫婦別姓を訴える訴訟があとを絶たないかもしれません。
最近のあるアンケート調査では選択的夫婦別姓に賛成・どちらかというと賛成という意見が8割になった結果もありました。
選択的夫婦別姓について積極的に国会で議論してもらうために私たちができることは、選択的夫婦別姓を支持する政党や国会議員を積極的に支持していくこともひとつの方法だと思います。

「別姓で家族の絆が薄くなる」は本当?

ここからは私の考えをお伝えします。
日本でまだ選択的夫婦別姓に反対の声が上がるのは、長く続いてきた慣習への「慣れ」だと思っています。
子どもができた時に両親の姓や親子の姓が違うと混乱するとか、家族の絆が薄くなるとか、それは単に「慣れていないものへの一時的な戸惑い」なのではないでしょうか。
もしそれが真実であれば、夫婦別姓が当たり前のように認められている文化の国では、果たして家族の絆は薄いのでしょうか?
また、先ほど述べたように96%の女性が婚姻の際に改姓しておりますが、そのことで実の両親や兄弟とは姓が変わってしまいます。
だからといって、絆が薄くなったり疎遠になったりすることは、ほとんどないでしょう。
(物理的に距離が遠くなって関係性や連絡頻度が変わることはあるかもしれません。この場合、あくまでも姓が変わったことによって絆が薄くなることはない、という意味です)
また、日本国内で日本人と外国人が婚姻した場合、基本は夫婦別姓です。
夫婦別姓が家族の関係を弱くするのであれば、国際結婚は日本人同士の結婚と比べ、「別姓」が原因で家族の関係性が変わるのでしょうか?

婚姻制度と戸籍制度を分けるのもひとつの案

日本人同士だからどちらかの姓に変えなければいけないというのは、昔ながらの「お嫁さんは家に入る」とか「婿養子に入る」といった家父長制の名残りともいえますし、もう今の時代にそぐわないのではないかと思います。
いまは離婚するカップルも多いですし、入籍せずに事実婚を選択するカップルも増えています。
事実婚を選択する理由のひとつして「改姓したくない」という理由があるのだとしたら、夫婦同姓の強制が日本の婚姻率を下げているひとつなのかもしれません。
また、現在の法律では、事実婚で子どもが生まれた場合、戸籍上は婚外子となってしまったり、認知をしないと法定相続人として認められないなど、実はそういった不利益があるのも事実です。
(※かつて婚外子の相続分は摘出子の2分の1という規定がありましたが、これは違憲であるとの平成25年最高裁判決の後に削除されました)
「事実婚では安心して子どもを産み育てられない」と考えるカップルが万が一いるのだとしたら、それが少子化のひとつの原因になっているといえないこともありません。

婚姻と入籍が一緒になっている今の制度を変えることで、戸籍制度はそのままにして選択的夫婦別姓は可能になると思っています。
憲法24条で規定してあるとおり、婚姻はあくまで両性の合意、つまり個人の問題です。
ところが、民法739条では戸籍法に基づいて入籍しないといけないとしたうえで、戸籍法74条で姓をひとつに決めて届出をしないといけないと規定してあります。
入籍は「家」の問題、つまり戸籍をひとつにするかどうかの問題で、厳密には婚姻とは無関係だと私は思います。
つまり、入籍しなくても婚姻が出来るような制度、例えば住民登録で婚姻登録をするようにして、同姓にしたい人=家を一緒にしたい人は入籍をするということで解決できるのではないでしょうか。
外国人と結婚する場合は姓を一緒にする必要がないということを考慮しても、現在の制度は公平とはいえないかもしれません。

『コトニ弁護士カフェ』次回の長友隆典弁護士の担当回は, 2021年7月16日放送です!

ラジオ番組『コトニ弁護士カフェ』
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隔週で長友隆典護士&アシスタントの加藤がお送りしています。
身近な法律のお話から国際問題・時事問題,環境や海洋のお話まで,様々なテーマで約15分間トークしています。
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