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サンタクロースの行為は「住居侵入罪」になる?|弁護士が解説

『コトニ弁護士カフェ』2022年12月16日放送分

12月といえば,一大イベントなのがクリスマス。
プレゼントを交換したり,ごちそうやケーキを囲んだり,特に子どもたちにとっては年に一度サンタ・クロースにプレゼントをもらえるという、うれしいイベントです。
誰もが当たり前のように知っている「サンタ・クロース」の行為について,疑問を感じたことはありませんか?

サンタクロースがこっそり家に入ると不法侵入にあたるのか?

サンタさんといえば,夜中にプレゼントを届けに来てくれます。
もともとは煙突から入ってくるといわれていますが、現代の日本の住宅をみると,マンションのような集合住宅も増え,煙突がある家はとても少なくなっています。
そうなると,サンタクロースはどこから入ってくるのでしょうか?

現実的に考えると「玄関のドアや窓から入ってくる」ことになるでしょう。
そもそもカギがかかっているのにどうやって家に入るのでしょうか?
「サンタさんは世界中の子どもたちの家のカギを開けられる魔法のカギを持っている」という説もあります。
しかしよく考えてみると,深夜にこっそり他人の家に無許可で立ち入るという行為は,不法侵入にならないのでしょうか?
もちろんサンタさんはプレゼントを届けに来てくれる、すごくありがたい存在です。
しかし,目的はなんであれ「他人の家に勝手に入る」というのは、サンタさんでも許されることなんでしょうか?

不法侵入とは?「住居侵入罪」について

まずは「不法侵入」についてみていきましょう。
不法侵入は正式には「住居侵入罪」という罪になり、刑法130条前段で定められています。

正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

刑法第130条

130条前段というのは,このうちの「人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し」というところです。
ちなみに,後段は要求を受けたにもかかわらず退去しなかったという「不退去罪」といいます。

仮にサンタクロースの行為に住居侵入罪が成立するとして,逮捕できるのかという話になりますが、まずは「現行犯逮捕」です。
サンタクロースが侵入した現場を押さえなければなりません。
仮に現行犯逮捕ができなかったとしても,防犯カメラなどで証拠の映像を残しておいて、後日逮捕ということもあり得ます。

「侵入」=住居の権威者の意思に反して立ち入ること

そもそもサンタクロースがプレゼントを届けるために家に来ることは「侵入」にあたるのでしょうか?
侵入とは、住居等の権利者の意思に反して立ち入ることを指します。
友達を招待したり、引っ越し屋さんに荷物を運んでもらったり、それは侵入にはなりません。なぜなら,それは許可を与えた上で立ち入っているからです。

住居侵入罪が何を保護している法律なのかというと,「保護法益」というもので,さまざまな学説がありますが,現代では住居や建造物についての個人の法益であるといわれています。その根拠となる権利が「住居に誰を立ち入らせ誰の滞留を許すかを決める自由」という権利。すなわち,その住宅の権利者が,「あなたは入っていいよ」と言えば犯罪は成立しませんが,入って欲しくない人が無断で入ったら住居侵入罪が成立するということです。

そうなると、サンタクロースの来宅についても、立ち入りを許可しているともいえるかもしれません。子どもはサンタクロースからプレゼントをもらうために「〇〇が欲しい」といったお手紙を事前に書く家庭も多いのではないでしょうか?「プレゼントをください」と先にこちらが意思表示をしている場合、それに応えて来てくれることになるので、これは意思に反していません。また、届けに来てくれる日時もあらかじめ予測のうえで、来宅を待っているともいえます。
つまりこちらから先にリクエストをして、12月24日の深夜に届けに来ることを推定しているわけですから、これは「侵入」にあたらないといえます。

推定同意という考えもあり

プレゼントをくれる、つまり「贈与」の約束を事前にしているとしても,具体的にはっきり許可をしているわけではないので,「推定同意」が与えられていると考えられます。
推定同意とは、ある行為が行われたときに、現実として同意がむずかしい場合でも、その行為を許容または同意していたことが認められる場合に、犯罪の成立が否定されるというものです。

サンタクロースのケースでは、来宅したときにインターホンを鳴らして許可を得て家に入るわけではありません。
むしろ立場上,居住者たちが寝ている間にこっそり入らなければならないわけです。
しかし、サンタクロースがプレゼントを届けるという目的である以上、「それを住居権利者が知っていた場合でも許可しただろう」と推定されるのです。

航空法違反に不法入国?サンタの法律違反の可能性いろいろ

それ以外にも、実はサンタクロースの行為にはいろいろと法的問題が潜んでいます。

たとえば,サンタクロースはトナカイにそりを引かせて空を移動しています。
「人を乗せて飛ぶ乗り物」としてサンタクロースのソリを航空機と同じ扱いとして考えてみると、日本の上空を飛行する場合、あらかじめ飛行計画を提出し,国土交通大臣から承認を得なければならないことが,航空法97条に定められています。
いまはドローンの飛行もいろいろと規制が増えてきていますので、勝手に空を飛んではいけないわけです。

それから、サンタクロースはフィンランドに住んでいることはよく知られていますよね。
そこから世界中の子どもたちにプレゼントを配りに行くわけですが、当然国境を越えることになります。
空を飛んで移動して国境を行き来しているわけなので,いちいち入国手続きなんてしていないでしょう。
そうなるとこれは「不法入国」ということになってしまいます。

第70条  次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役若しくは禁錮若しくは300万円以下の罰金に処し、又はその懲役若しくは禁錮及び罰金を併科する。
二  入国審査官から上陸の許可等を受けないで本邦に上陸した者入国審査官から上陸の許可等を受けないで本邦に上陸した者

入国管理及び難民認定法

さきほどの住居侵入罪は成立しなかったとしても,こちらの不法入国についてはちょっとあやしいかもしれません!
こうして当たり前のことも法律の側面から見てみると、おもしろい発見がたくさんあります。

ラジオ番組『コトニ弁護士カフェ』
毎週金曜日10時30分から三角山放送局で放送中!
隔週で長友隆典護士&アシスタントの加藤がお送りしています。
身近な法律のお話から国際問題・時事問題,環境や海洋のお話まで,様々なテーマで約15分間トークしています。
皆様からの身近なお悩み,ご相談などのリクエストもお待ちしております。
三角山放送局 reqest@sankakuyama.co.jp または当事務所のお問い合わせフォームでも受け付けております。

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