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報道とプライバシーの侵害,マスコミの過剰報道の違法性|法的観点から弁護士が解説

『コトニ弁護士カフェ』2023年12月1日放送分

近年の週刊誌では,有名人や芸能人などの著名人に対して,プライバシーの侵害や名誉毀損となる恐れがある記事が当然のように公開されています。
執拗な取材やプライベートを晒すような記事により,私生活にまで影響を受けてしまう著名人も数多くいます。
このような報道はなぜなくならないのか,その理由について法的観点から考えてみましょう。

「名誉毀損」とは?

まず「名誉毀損」とは何かについておさらいします。
「名誉棄損罪」(刑法230条)とは「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」場合に成立する犯罪です。
そして,ここで問題となっているのは「名誉」とは何かということですね。
「名誉」とは,最高裁判所の判例によると「人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉を指す」とされています最判昭和45年12月18日)。
そのため,「名誉毀損」とは一般的には「事実を摘示すること」により「その人の社会的評価を低下させる」ことであると理解されています。
したがって,他人の名誉を棄損した場合は,刑法上の名誉棄損罪のみならず,民法上の不法行為(民法709条,710条,723条参照)に該当し損害賠償等の責任を負うことになります。

これまでも敗訴している週刊誌

実はこれまでも,有名人や芸能人が週刊誌を発行している出版社や,場合によってはその発行を許可した編集長を相手に数多くの訴訟を起こしています。
実際に週刊誌側は敗訴しているのですが,あまりそういったイメージがないのは,もちろん週刊誌やマスコミ側にとってそれをニュースにして報じるメリットはないため,大々的には報じられていないのが実情です。
政治家などの公の人物ではない芸能人であっても,社会的な影響力が強い人物という考え方で,無闇にプライバシーに関する報道をしていると考えられます。
芸能人や有名人の報道については,最高裁判所が「私人」であったとしても,社会的な影響力が強い人については,公人と同じように「公共の利害に関する事実」にあたる場合があると判断しています(最判昭和56年4月16日)

週刊誌での報道がなくならない理由

週刊誌側は「この記事を出したら訴えられて敗訴する可能性がある」と当然知っているのに,なぜ不法行為になりかねない記事を書き続けるかというと,仮に訴えられて負けたところで,残念ながら大きな痛手にはならないからでしょう。
それは,日本の名誉毀損やプライバシー侵害は,欧米諸国と比べて,認められる賠償額が大変低いことがひとつの理由になると思います。
過去にプライバシー侵害で有名人が訴えて週刊誌側が敗訴した判例を見ても,その賠償額は100〜200万円ほどであるケースが多いです。
私たち一般人にとっては大きな金額ですが,発行部数が数万部を超えるような大手の週刊誌にとっては,たとえ数百万円を支払うことになったとしても,有名人のプライバシーを晒すことで,それ以上の利益を得ているのです。
残念ながら,これが週刊誌の過剰な報道がなくならない理由です。
訴える側についても,すでに記事が出て多くの方に知られてしまったあとになっては,たとえ訴訟を起こして発行差し止めや賠償金を得られたとしても,経済的なメリットはほとんどありません。
精神的な苦痛や労力,周囲からのイメージダウンといったデメリットを考慮して,訴えを起こさないケースも多いでしょう。
週刊誌の出したもの勝ちで,出された側は泣き寝入り,という図式には心苦しさを感じます。

マスコミと世間のニーズ

そもそも,週刊誌などでそういった芸能ゴシップを喜んで見る人たちがいなくなれば,なくなっていくのではないかと考える方もいるでしょう。
現代では,皆さんネットやSNSで情報収集する方が増えていますが,まだまだ週刊誌やワイドショーなどのマスコミの力はとても強い影響力があります。
インターネットを使うのが苦手で,そういった雑誌やテレビを情報源にしている高齢者の方などもたくさんいらっしゃるので,簡単に現状は変えられないのかもしれません。
とはいえ,こういった週刊誌の発行部数は,やはりインターネットの普及によって年々減少傾向にあるようです。

週刊誌への情報提供は不法行為にあたる?

プライバシー侵害にあたるような記事では,芸能人が書いた手紙やチャットのやりとり,プライベートの写真などが,第三者によってリークされているケースもあります。
このように他人のプライバシーをこっそり週刊誌側に差し出すという行為は,不法行為ではないのか,という疑問を持つ方もいるでしょう。
そういった情報に対して謝礼を支払っているケースもあるかもしれません。
実際は,たとえ第三者が提供した情報だとしても,実際に記事を出すのは出版社側であるため,単に「情報提供した」という行為については,法的な責任は追求されません。
ただし,場合によっては「共同不法行為」とみなされるケースもあります。
たとえば,提供した情報がそのまま記事になる場合かつ提供者が記事になることを予見し得た場合,などといった条件が揃ったケースです。
とはいえ,出版社は情報提供者を公にすることはないですし,たとえ「リークしたのはあの人に違いない」と見当がついたとしても,その証拠を得るのは難しいでしょう。

■情報の入手方法によっては法的責任が発生する

しかし,その情報の入手の仕方によっては法的責任が発生する場合があります。
たとえば,誰かの自宅や会社にこっそり侵入して不正に仕入れたような場合は,住居侵入罪(刑法130条前段)になります。
たとえば,会社の社外秘のデータに不正にアクセスした場合は「不正アクセス禁止法」に違反する可能性もありますし,個人のメールやチャットのやりとりを盗み見たり,転送したりなどもプライバシー侵害になる可能性があります。

週刊誌の過剰報道がなくなるには

実際にプライバシーを侵害するような記事が書かれたとして,週刊誌側を訴えると同時に,その情報の提供元を調査してそちらにも法的責任を追求することもできますが,そこまでするにはかなりの労力が必要です。
こういった過剰な報道を減らすには,それぞれの「報道機関が報道倫理を順守する」というのが一番なのですが,なかなか守られていないのが現実です。
やはり有効なのは,プライバシー侵害や名誉毀損など,もっと損害賠償額を高く認めることではないかと考えます。

■パブリシティ権について

パブリテシティ権とは一般的に,著名人の肖像や氏名の持つ顧客吸引力(ネームバリュー)から生じる経済的な利益・価値を排他的に利用する権利と言われていますが,要するに個々の有名人が自分の名前や肖像を使って利益をあげる独占的に有しているという権利です(最判平成24年2月2日参照)。
そのため,週刊誌やテレビなどがある特定の芸能人のプライバシーや写真,ゴシップなどを利用してお金儲けしようとすると,パブリシティ権の侵害になる恐れがありますので,やはり不法行為に基づく損害賠償請求の対象となる可能性もあります(最判平成24年2月2日)。

以上,過剰報道の不法行為の可能性や報道倫理について触れてきましたが,「負けても数百万の損害だから」と,不法行為などをまったく恐れない一部のマスコミがいるのだとすれば,感情的・倫理的に訴えてもなかなか響かないでしょう。
過剰報道によって経済的な利益や社会的な立場を損なうこと明らかなとき,積極的に法的措置に訴えたり,世間に訴えたりすることで,報道機関にとって総合的に見てデメリットが大きいということがもっと明確になれば,過剰報道も減っていくのではないでしょうか。

ラジオ番組『コトニ弁護士カフェ』
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隔週で長友隆典護士&アシスタントの加藤がお送りしています。
身近な法律のお話から国際問題・時事問題,環境や海洋のお話まで,様々なテーマで約15分間トークしています。
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