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手紙・メール・チャットの文章は誰のもの?法的権利について弁護士が解説

『コトニ弁護士カフェ』2023年11月17日放送分

誰かに宛てた手紙,今ならメールやチャットなどが主流ですが,そういった言葉のやり取りで生まれる文章は「誰のものになるのか」について考えたことはありませんか?
今回は,手紙やチャットなどの言葉のやり取りに関わる法的権利について解説します。

手紙やメールの文章には著作権が発生する

一般的に,手紙やメールは,仕事上でのやり取りを除き,個人の考えや想いを伝えるために使われることが多いです。
たとえば,何十年も前に私が誰かに手紙を書いて送っていたとします。
ある日その手紙の内容が引用され,小説などに使用されていた場合,その文章の「持ち主」は誰になるのでしょうか?
ここでまず,「著作権」について復習したいと思います。

◾️著作権とは

著作権法第2条1項1号では,著作物とは,(1)思想又は感情を(2)創作的に(3)表現したものであって(4)文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものと定義されています。
そうなると,たとえ小説のようにあらたまって文学作品として書かれていなかったと文章だとしても,「手紙」の内容がその人の思想や感情を書き綴った創作的なものである場合は,「著作物」と認められる可能性が高いでしょう。
そのため,このような内容の手紙の場合,誰かから受け取った手紙を許可なく公開することは「著作権侵害」になる恐れがあるのです。

実際に起こった「三島由紀夫手紙事件」

手紙に関する権利について争った判例として有名なのが,「三島由紀夫手紙事件」です(第一審 東京地方裁判所平成11年10月18日)。
ある小説家が書いた小説の中で,三島由紀夫さんが個人的に宛てた未公表の手紙の内容を公開したことで,相続人らが発行差止等の請求を求めて訴えを起こしたものです。

具体的には,すでに三島由紀夫さん本人は亡くなっていますので,原告である相続人は,著作権法60条に基き,その手紙の「複製権」「公表権」が侵害されたということで,すでに書籍となっていた本の出版差し止め,損害賠償請求,謝罪広告などを求めて訴訟になりました。
そして判決では,未公表の手紙であってもその内容について著作権性が認められました。
そのうえで,出版差止め,手紙の原版等の破棄,損害賠償,及び謝罪広告も認められました。
なお,この判決に対する控訴審も棄却され第一審が維持されています。

この事件はもちろん三島由紀夫さんという有名な小説家が書いた手紙であり,一般人の方が書いた手紙よりも社会的な価値があるとも考えられますが,「ある人物の思想や感情を創作的に表現したものはその人の著作物である」という点では,事件の大きさに関わらず認められる事実であるべきです。

手紙そのものの所有権は?

手紙という有形物自体には,すでに差出人から受取人が受け取った時点で「贈与契約」というものが成立していることになり,その所有権は受取人のものになります。
つまり,文章という無体物の著作権は書いた人のもの,手紙という有体物の所有権は受け取った人のものになるのです。

ただし,その手紙に記載された文章を受取人が勝手に公開することは著作権侵害になり得ますが,有形物であるその手紙自体の取り扱いについては受取人の自由です。
たとえば,差出人に手紙を「返してほしい」と言われても返さなければならないという理由はありませんし,受け取った側が読まずに捨てたいのであれば,捨てても問題ありません。

一方で,いわゆるインターネット上のメールやチャットなどのテキストメッセージの場合,「紙」という媒体がありませんので有体物を贈与していることにはなりません。
テキストデータを送って,相手の端末で表示されている状態なので,そのテキスト自体に著作権が発生する場合はあっても,所有権は発生しないということになります。
そのため,送った側から「削除してほしい」と言われたからといって,絶対に削除しなければならない,という法的根拠もありません。

一部,送信を取り消したり,送った側が削除したりできるシステムもありますが,基本的には一度送って相手に届いたものは,送った側の意思で消してもらう権利はないと思ってください。
この点については手紙も同じことが言えます。

プライバシーの侵害の恐れも

現代では手紙よりも,リアルタイムでやり取りできるチャットやメールが主流でしょう。

たとえば誰かと誰かが話しているトークルームを第三者やSNSなどに公開する行為は,内容によっては著作権侵害にくわえて「プライバシーの侵害」という側面が強くなります。
プライベートな内容が書かれていたり,たとえば第三者の悪口を言っていたり,「誰にも言わないで」など秘匿性の高い話題について話していたりなど,そういった内容を知られたくない相手やSNSなどに公開するだけでなく,実は他人のスマートフォンやパソコン画面を覗き見て書いている内容を読むこと自体もプライバシーの侵害にあたる可能性があります。

最近では,週刊誌などで,どこで入手したのか分からないような芸能人のLINEのトークルームや,ラブレターが公開されるということもありました。手紙やチャットの内容というのは,通常他人に公表するものではないため,これを本人の許可なく公表するのは「プライバシーの侵害」になるのです。

LINEなどは今や誰もが気軽に使っているツールですが,1対1のプライベートでやり取りする前提である以上,そのトークルーム自体がもうプライバシーが守られるべき場所という認識でいなければなりません。

さらには,他人の手紙やチャットの内容を公開することによって,晒された当人の名誉を傷付けたり,侮辱するような内容であったりした場合は,名誉毀損や侮辱などに該当する恐れもあります。

手紙やチャットの内容,取り扱いに気を付けよう

紙として残る手紙と,電子テキストとして残るメールやチャットのメッセージを比較すると,その重みや価値が違うような感覚もあるのですが,基本的には著作物についての考え方などは同じです。
LINEやチャットなどの場合,手紙よりも気軽に,何気なく送ってしまうこともあるでしょう。

しかし,一度送ったものは,その内容についての著作権を主張することは出来ても,その処分権については相手方に委ねてしまうことになることを知っておきましょう。
手紙やメールを受け取った側としても,自分に宛てられたものとはいえ,その手紙やメッセージを無断で誰かに見せたり公開したりした場合,そういった行為が手紙を書いた人の著作権やプライバシー権の侵害など,思わぬ自体につながるケースもあります。
受け取ったメッセージについても,取り扱いには気を付けましょう。

ラジオ番組『コトニ弁護士カフェ』
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隔週で長友隆典護士&アシスタントの加藤がお送りしています。
身近な法律のお話から国際問題・時事問題,環境や海洋のお話まで,様々なテーマで約15分間トークしています。
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