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もしも遺言書がなかったら?遺産分割協議と起こりうるトラブル

『コトニ弁護士カフェ』2024年2月16日放送分

遺言書は,残されたご家族が困らないために,きちんとした形で準備しておくことが大切です。遺言書は残された家族へ思いを伝えるものですが,遺言書がないケースも珍しくありません。
「どうやって書けばいいのか分からない」という人は多いのではないでしょうか。
長友国際法律事務所では,定期的に「遺言書の書き方セミナー」を開催しています。
遺言書で何かお困りのことがあれば,気軽にご参加ください。

今回は,もし遺言書がなかったら,親族たちにどのようなことが起こるのか,遺産分割協議と起こりうるトラブルについて解説します。

遺言書がなかった場合の相続の流れ

ご家族が亡くなられた際,残された遺産の相続は,まず相続人を特定することから始まります。
相続人が一人であればシンプルですが,子どもが複数いる場合や,行方不明や連絡が取れない子どもがいる場合,さらには前の配偶者との間に子どもがいることが判明するなど,複雑なケースもあります。

相続人を特定するためには,被相続人の生涯を辿るために、生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍を取り寄せる必要があります。
配偶者と子どもがいれば配偶者と子どもが相続人となり,配偶者がいない場合は子どもが相続人になります。
子どもがいない場合は配偶者と被相続人の親が相続人となり,被相続人の親がいない場合は配偶者と被相続人の兄弟,被相続人の親も兄弟もいない場合は配偶者が相続人となります。

このように被相続人の子どもを特定するだけではなく,場合によっては被相続人の親や兄弟まで探す必要が生じてきます。
それは,遺産分割協議は相続人全員の合意によりされないといけなと法律上決まっているからです(民法907条1項参照)。

被相続人の相続人を確定する場合,被相続人の戸籍の変動が少なければ難しくはないと思いますが,養子縁組や結婚・離婚の歴があったり,兄弟が多かったり,戸籍が複数の地域に分散していたりすると,全てを集めることは大変な作業になることもあります。
場合によっては調査に時間がかかることもありますし,残された家族が戸籍調査を弁護士に依頼すると,もちろん費用がかかります。

ところが,生前に遺言書で誰に相続又は遺贈をするか特定しておくことでこのような多くの問題を解決できます。
相続人が特定されたら,次は相続財産の特定です。
代表的な相続財産としては,預金や不動産が挙げられます。
また,車や宝飾品などの貴重品も相続財産とみなされます。
このような相続財産を探し出すのがとても難しいことがあります。

たとえば被相続人の預金口座がどの銀行にあるのか特定できない場合。
特に昨今では通帳が無い預金口座もあるので,「この銀行の通帳が無いので口座も無いはずだ」とはいかない場合があります。

さらに,不動産の場合はもっと深刻です。
不動産の場合は,登記や権利証を確認するのが一般的ですが,登記の確認も場所が特定されていないとわかりません。
その場合は,地方自治体で「名寄せ」というものを取得して特定することも可能ですが,被相続人の不動産があるだろう地方自治体を特定する必要もあるため,やはり難しい作業となります。

この場合も,生前に遺言書でご自身の財産を特定しておくことでこのような多くの問題を解決することが可能なのです。

最後に具体的な遺産分割協議ですが,上述のとおり遺産分割協議は相続人全員で行う必要があります。
後述の寄与分なども問題もありますが,遺言書が無い場合は原則として上記の法定相続分に従うことが多いと思われます。

なお,「この指輪は私がもらう約束をしていた!」や「車をあげると言われていた!」などと,自らのみの進言で勝手に資産を受け継ぐことはNGなので,注意が必要です。
このように遺言書が無い場合は,相続財産の分配は原則として法律の手続に基づいて行われるべきとされています。

分割が難しい財産の分け方

預貯金は単純に人数に従い相続分で分割できますが,家や土地といった不動産のように,分割が難しい財産もあります。
不動産の場合は,その価値を算出し,もし相続人の中にその不動産を相続したい人がいれば,土地と建物を相続する代わりに,他の相続人が相続すべき金額を支払うことで調整することができます。

仮に,1000万円の価値がある土地があり,相続人が4人いる場合を考えましょう。
その中の一人が土地を相続したいと言った場合,土地はその一人が相続し,残りの3人がそれぞれ250万円支払うことで,公平に分割されます。
これは代償分割と呼ばれ,実際に使われている方法です。

このような分割方法も,あらかじめ遺言書で決めておくことが可能ですし,遺言書があることで遺産分割がスムーズに進みます。
たとえば,遺言書には不動産を売却してその売却益を誰々と分けるという指示をする方法もあることを知っておくといいでしょう。

遺言書がない場合に起こりうるトラブル

では,実際に遺言書が存在しない場合,どのようなトラブルが発生する可能性があるのでしょうか?
よくあるのが,相続人同士の関係がもともと疎遠であったり,不仲であったりして,遺産分割について合意が得られないケースです。
その結果,遺産分割協議がまとまらず,家庭裁判所での調停や審判,場合によっては裁判に発展することもあります。
また,遺言書が無い場合は「寄与分」や「特別受益」といった分配方法に特殊なケースが絡んでくる場合も,比較的トラブルになりやすいケースといえます。

こうした複雑なケースでは,専門家である弁護士に相談する必要があり,費用と時間がかかります。

「寄与分」とは?

「寄与分」とは,簡単にいいますと特定の相続人が被相続人の財産の維持や増加に貢献した場合、その者の相続分が増えるという制度です。
たとえば,相続人が兄弟2人で,一人は遠くに住んで音信不通であった一方,もう一人は亡くなった親に近く,親の経営する店舗で貢献していたとします。
遺言書がない場合,財産は半分ずつ分けられるかもしれませんが,このようなケースでは,支援や援助をした兄弟が不公平を感じる可能性があります。
そこで,「寄与分」として,生前の援助や貢献を考慮して遺産分割時に認められることがあります。

「寄与分」として「特別の寄与」については過去のブログにまとめてありますので,こちらをご参照ください。

▼関連記事

相続のいろは第6回 特別の寄与|寄与分が認められる要件とは

遺産相続はお金の問題でもありますし,これまで仲が良かった家族や親戚同士が遺産相続で不仲になってしまうケースもあります。
これは,亡くなった方にとっては望ましくないことでしょう。

遺言書を用意しない方々の多くは,子どもたちが仲が良いし揉めないだろうと信頼しているか,「財産がそんなにないし大丈夫だろう」と考えてしまうかもしれませんが,実際には「なんとかなるだろう」という考えが問題を引き起こす原因になることもあります。

遺言書は残された家族への思いやり

私の事務所の遺言書のパンフレットにも記載されていますが,「遺言書は,残された家族への思いやり」です。
自分が残す遺産をしっかり把握し,トラブルを避けるためにも,遺言書の準備をおすすめしています。
自分の死後のことを考えるのは嫌なことかもしれませんが,遺言書を準備することで家族の安心や遺産相続でのトラブル回避が可能です。

遺言書でお悩みの方はぜひ「遺言書の書き方セミナー」へ

長友国際法律事務所では,定期的に「遺言書の書き方セミナー」を開催しています。
次回は2024年4月頃に開催予定ですので、決まり次第告知いたします。

「遺言書って必要なのかな?」「どんなタイミングで準備するべきなのかな?」など,そういった疑問がある方なども,気軽に参加していただけるセミナーです。
ぜひ西区近隣の皆さんで,遺言書について聞きたい,自分で書いてみたいという方は参加してくださるとうれしいです。

詳しくはこちら▶2月19日開催 遺言書の書き方セミナーのご案内

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