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自然との共生を考える②

『コトニ弁護士カフェ』2020年7月17日放送分

全国的に大雨が続き,長友弁護士の地元である熊本県では記録的な豪雨のため球磨川(くまがわ)が氾濫し,県内各地で土砂崩れや浸水被害が発生しました。
大きな被害を受けたことにより, 10年以上前に建設中止になったダム計画について,現在再び注目が集まっています。

日本三大急流の球磨川と川辺川ダム建設計画

球磨川は「日本三大急流」とも呼ばれていて,古くから「球磨川くだり」も有名な急流が続く川です。
北海道の石狩川や関東の利根川のように広い平野をゆったり流れる川とは違って,山と山に挟まれた谷や盆地を流ている特徴があって,大雨が降ると頻繁に増水してしまう洪水の多発地帯です。

1963年から3年連続で大きな水害が起こり,球磨川の洪水を防ぐために球磨川で一番大きな支流である川辺川に,巨大な川辺川ダムを建設する計画が1966年に持ち上がりました。
完成していれば九州最大規模のダムになる予定でした。
川辺川ダムの建設計画が出たのが1966年で,最終的に国が中止を決めたのが2009年です。
この40年以上,何があったのでしょうか。
当初は計画から10年後の1976年に完成予定だったのが,事業がどんどん変更していって,完成予定もどんどん延期になっていきました。その間に,事業会社が撤退していったり,反対運動が膠着化していったり,問題が複雑になっていきました。
最終的には2008年に熊本県の蒲島県知事が就任後すぐに反対声明を出し,翌年に国も中止を決めたのです。

水没予定だった五木村をはじめとする反対運動の膠着化

川辺川は日本最後の清流とも言われていて(少なくとも熊本県民はそう思っています!)アユやヤマメなどの綺麗な川に住む魚がたくさんいます。
上流には平家の隠れ家があった五家荘集落があり,本当に秘境のような場所でした。
計画では五木村をほとんど全て水没させることもあり,当初からダムの反対運動が起きて,ダム建設は遅々として進みませんでした。
実際にダムが建設されるのは相良村という村で,ダム完成後の固定資産税なども相良村に支払われることになっていたので,水没する五木村には大きなメリットはありませんでした。
そこで五木村は反対する姿勢を強くしていましたが,政府,熊本県,相良村,五木村での補償交渉が長年続き,やっと合意に至ったのは計画開始から30年も経った後でした。

私も高校生の頃にヤマメを釣るために,その場所をバイクで走り回ったことがあります。
深い谷の下に澄み切った水が流れていて,自然の素晴らしさを実感できる本当に美しい場所でした。
ちょうどまだ補償交渉が続いていた頃だと思いますが,ダムの建設サイトも見に行きました。
こんな深い谷に巨大なダムをつくって,この美しい渓谷を沈めてしまうのかと思うと自然に涙が出てきた記憶があります。
大学生になり,ヤマメの研究のために再びこの場所を訪れました。
皮肉にも,ダムの発電所を受け持つ電力会社からの依頼でヤマメの生息状況をくまなく調査したこともありますが,驚くほどたくさんのヤマメがいたことにびっくりしました。

ただし,ダム計画が始まってから地域にとって良かったこともあったと思います。
ダムの建設予定地の周辺は本当に秘境のような場所で,道も狭くて車が離合することもできず,舗装もボロボロでした。
ダム計画のおかげで道は片側一車線に舗装されたり,道の駅ができたり,観光客もたくさん来るようになりました。

ダムは洪水対策の決定打にはならない

球磨川の写真(photoAC

球磨川の洪水について「ダムが建設されていれば水害の被害はもっと小さくて済んだのでは?」と議論が再燃していますが,川辺川ダムが建設されていたからといって洪水を防止する決定打にはならなかったと私は思います。
今回の熊本の洪水は,10年以上前にダムの建設中止を決めたにもかかわらず,それに代わる洪水防止策を早急に講ずることがなかったことが原因だと思います。
川辺川ダムの建設中止が決まったあと「ダムによらない治水の検討」として,堤防の整備や遊水地の設置,放水路の建設など,様々な案が長年検討されていたのですが,どれもメリット・デメリットが大きく,引き続き市民の反対運動も根強くあったこともあり,なかなか案がまとまらず,結局ダムの代替となる対策がしっかりとできないまま現在に至ってしまいました。

ダムに代わる洪水防止策を

ダムは,私たちの暮らしにとってメリットもあって,環境負荷や建設コストなどのデメリットもあって,それらを天秤にかけながら議論され決定され建設に至ります。
私はやっぱり魚が大好きなので,魚が上流と下流を行き来できるような自然の状態を残したいと思っています。
ヤマメやイワナやサケは,海からずっと上ってきて,そこで産卵して,子どもたちが海に下って大きくなってまた戻ってくるのですが,ダムの建設によってそれが断ち切れてしまったら,もう元に戻ることは出来ません。
生き物が絶滅することもあるでしょうし,水質が悪化して元々いなかった生物がダムに住むようになるかもしれませんし,生態系への影響は計り知れません。

私は,ダムは不要だと考えています。
ダムは水害対策のひとつではありますが,ダムである必要はないと考えていて,ダム以外の方法でも洪水防止はできると思います。そのためには,環境に配慮しながら,ダムの代替となる有効な洪水防止策を講ずる必要があります。

―ありがとうございました。

『コトニ弁護士カフェ』次回の長友隆典弁護士の担当回は, 2020年7月31日放送です!

ラジオ番組『コトニ弁護士カフェ』
毎週金曜日10時30分から三角山放送局で放送中!
隔週で長友隆典護士&アシスタントの加藤がお送りしています。
身近な法律のお話から国際問題・時事問題,環境や海洋のお話まで,様々なテーマで約15分間トークしています。
皆様からの身近なお悩み,ご相談などのリクエストもお待ちしております。
三角山放送局 reqest@sankakuyama.co.jp または当事務所のお問い合わせフォームでも受け付けております。

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