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日露漁業協定停止、漁業者への影響は?|弁護士が解説

『コトニ弁護士カフェ』2022年7月1日放送分

現在,ロシアとウクライナの問題に続き,6月7日に北海道の漁業に大きく影響を与えるニュースが発表されました。
皆さんもご存知かと思いますが,ロシアの外務省が,日本漁船に対して北方領土周辺での操業を認めている「日露漁業協定」を停止すると発表しました。
理由としては,日本側が定められた入漁料・漁をするために支払う料金を支払わなかったためとのことです。
今回はロシアに関する話題で、お話ししていきたいと思います。

「日露漁業協定」とは

現在はロシア連邦共和国との間に,政府間で3つの漁業協定が締結されています。

条約名締結日対象海域対象魚条約の概要
「日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の両国の地先沖合における漁業の分野の相互の関係に関する協定」(日ソ地先沖合漁業協定)1984年12月7日(1991年12月以降はロシア連邦との間でも有効)北西太平洋の両国地先沖合(お互いの200海里水域内)サンマ,イカ,スケトウダラ等北西太平洋におけるお互いの200海里水域内における相互入漁を認める。 入漁の条件,魚種,操業区域等については毎年協議して決定する。
「漁業の分野における協力に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定」(日ソ漁業協力協定)1985年5月12日(1991年12月以降はロシア連邦との間でも有効)北西太平洋(200海水域内及び公海)溯河性魚種(サケ・マス類)サケ・マス類の漁業管理については母川国主義(生まれた川がある国に権利がある)を採用する。 ロシア200海里水域内でのサケ・マス漁業の原則禁止 漁業の条件等については毎年協議して決定する。
「日本国政府とロシア連邦政府との間の海洋生物資源についての操業の分野における協力の若干の事項に関する協定」(「日露漁業協定」又は「北方四島周辺水域操業枠組協定」という)1998年2月21日北方四島周辺海域(12海里内)スケトウダラ,ホッケ,タコ等北方四島周辺12海里内での海域での我が国漁業者の操業の安全を確保することが主目的 漁業の条件等については毎年協議して決定する。

この日露漁業協定は,北方四島の周辺12海里内での我が国漁船の操業に関する協定です。正式名称は,「日本国政府とロシア連邦政府との間の海洋生物資源についての操業の分野における協力の若干の事項に関する協定」と言いますが,「北方四島周辺水域操業枠組協定」とも呼ばれます。
注意すべき点としては,言うまでもなく北方四島は我が国国有の領土ですが,残念なことにロシアが事実上実効支配しているため,日本の漁船が自由に操業できないのです。
そのため,毎年実施される両国政府間の協議では,我が国漁船の漁獲量等の操業条件,例えば漁獲量のみならず,その対価である協力金や機材供与等についてロシア国と毎年協議をしたうえで取り決めをしています。

日露漁業協定、突然の停止宣言

北方領土周辺の海域では,日本側がロシア側に入漁料を支払うことで,日本漁船が安全に操業できることを約束されています。
この交渉は,ロシアによるウクライナ侵攻の影響で協議がずっと延期となっていましたが,サケマスに関する交渉や民間協議である昆布漁に関する交渉については,すでに合意に至っていました。
そのため,日本にとっては突然の「停止」宣言で,困惑が広がっているのです。

日本の漁業への影響は

今回の日露漁業協定の停止に関して,日本の漁業,とくに北海道の漁師さんたちには波紋が広がっていることでしょう。
これまで安全操業の水域での漁業をメインとしていた漁業者さんにとって影響は計り知れません。
昨年の協議で定められた安全操業の漁獲量は,スケトウダラ,ホッケ,タコなど合わせて2,177トンとされていました。
ホッケ漁が始まるのが9月なので,それまでに問題が長期化すると,やはり影響は避けられないでしょう。
一方で,コンブ漁に関しては今回の措置の対象にはなっていないため,これまでと変わらず漁をすることは可能です。
しかしながら,このような状況ですので,なにか理由をつけて拿捕されてしまうのはないか…という不安がつきまとってしまうと思います。

知っておきたい、北海道と北方領土との関係

当時ラジオでもご紹介しましたが,2018年に私はビザなし交流のメンバーとして北方領土を訪問しました。
現在はそういった交流もすべて中止になっています。
訪問した当時は,択捉島のロシア人の皆さんは日本からの訪問者をとても歓迎してくれて,択捉島には日本ではなかなか見られないような,巨大なサケマス孵化場や水産加工工場を見学しました。
このビザなし交流の再開については,現在はまだ目処がたっていません。
当時の訪問について記したブログはこちらです。

まさに先日,6月2日に岸田総理と鈴木直道知事がその件で話し合っていました。
鈴木知事がビザなし交流の重要性を訴えたものの,岸田総理としては,現在の状況では交流事業の展望を示すのは難しいとの回答だったようです。


背景としては,ウクライナ侵攻に伴う日本の制裁に対して,ロシアが3月に平和条約締結交渉の中断と,交流事業の停止を表明したことがあります。
従って、北方領土との交流事業も中止になったままとなっています。

実際に北方領土を訪れると,個人的な感想ですが,島民の皆さんはものすごく友好的で,親日で,それまでのイメージとは大きく違いました。
やはり実際に目で見て体験することが大切だと感じています。
国と国との関係とは別に,やはり人と人です。
個々の関係性を友好的に築く,という態度がすごく感じられました。
とはいえ,これまでも漁船が拿捕されるなどの,あの周辺ではロシアとのトラブルも多いため,本当に難しい問題だと思います。

ウクライナ侵攻の一刻も早い収束を願う


現在のようなピリピリした状況で,ロシアが管理する周辺の水域で漁をするのは大きいな不安があるでしょう。
現在は政治的な関係と経済的な関係が入り組んでしまって,国と国との関係性に私たち国民が翻弄されているような印象を受けます。

まずは,ウクライナ侵攻が一刻も早く終わるように願っています。
政治的な関係が平常に戻ることで,経済的な問題もはじめて協力して解決を目指せるのではないでしょうか。

いまのロシアは正直,経済的に豊かとはいえない状況だと思いますし,北方領土周辺の豊富な海産物をロシアの漁船だけでじゅうぶんに漁獲するのは物理的に不可能です。
そのため,日本から入漁料をもらって日本漁船に操業してもらうほうが,ロシアにとっても経済的なメリットになっていると考えます。

もうひとつ考えられるのが,これはわたしの憶測ですが,現在は中国や韓国の漁船もかなり日本の近くまで漁をしにくるようになりました。
もしかして日本よりも中国や韓国に安全操業を許可したほうが,高い入漁料を払ってもらえる,ということを考えている可能性もあるのではと思っています。

まずは,政治的な問題が一日でもはやく解決するのが一番です。
国と国との争いで,これは国籍に関係なく,一番に不利益を被るのは私たち国民なのです。

ラジオ番組『コトニ弁護士カフェ』
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隔週で長友隆典護士&アシスタントの加藤がお送りしています。
身近な法律のお話から国際問題・時事問題,環境や海洋のお話まで,様々なテーマで約15分間トークしています。
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