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ロシアの「サハリン2」問題とは?|日本や日本企業に与える影響について国際弁護士が解説

『コトニ弁護士カフェ』2022年7月15日放送分

2022年6月30日,ロシアのプーチン大統領が「サハリン2」の運営をすべてロシアの新会社に移行すると発表しました。
「サハリン2」というワードについて,日本ではなかなか聞き馴染みがない方も多いでしょう。
今回は,話題の「サハリン2」について,そして今回の発表が日本や日本企業に与える影響について解説していきます。

「サハリン2」とは|ロシアの狙い

サハリン2とは,サハリンの天然ガス事業のプロジェクト名であり,ロシア極東での液化天然ガス(LNG)開発事業のことです。
「2」とあるように,「サハリン1」という事業もあります。これはサハリン2とは別の事業ですが,こちらも日本企業とアメリカの企業が参加しています。
サハリン2はロシア国内での事業ではありますが,元々はイギリスと日本の企業が合同で始めた事業で,ロシアの企業はプロジェクトに参加していませんでした。
当時のロシアは社会主義国だったソ連からロシ
アに移行したばかりでロシアにはこのようなプロジェクトに参加できる企業も無く,かつ外貨が欲しかったためです。

イギリスとオランダのロイヤルダッチシェル,日本の三井物産・三菱商事の合弁で,1994年に「サハリン・エナジー社」を設立しました。
当初のサハリン・エナジーへの出資比率はシェルが55%,三井物産25%,三菱商事20%で,総事業費は100億ドルとも言われていました。

ところが,プーチン大統領は2000年から大統領を務めたのですが,その頃から風向きが変わりました。
このような大きなプロジェクトですから,国益のためにロシア企業も参画させたいと考えたのでしょう。

ロシア「ガスプロム」参画、理不尽な大統領令

そこで2007年にロシアの「ガスプロム」という天然ガスの会社を強引に参画させ,サハリン・エナジーの株式の過半数(50%+1株)を取得させました。現在はガスプロムの株式は過半数をロシア国家が持っているので,もはや国営企業に近いといっても過言ではありません。

つまり,当初はシェル,日本の三井物産,三菱商事で設立した会社の株式を,途中からロシアのガスプロムという会社が過半数を持っていってしまったのです。
表向きの理由は,サハリン2の開発のためにサハリンの環境,例としては絶滅寸前のコククジラへの影響やパイプラインを通すためにサハリンの森林が伐採されているなど,環境への悪影響を防ぐためという名目だったのですが,要するにロシア企業を参加させてロシアの権益を守りたかったのでしょう。

さらに今回,生産物分与協定の内容を一部の外国企業が履行しなかったとして,ロシアが設立する新会社にすべての権利を無償で引き渡すように,大統領令(2022年6月30日付大統領令416号)を発効しました。

具体的にはロシア政府とサハリン2の運営主体であるサハリン・エナジー・インベストメント(以下、サハリン・エナジー)との間で1994年6月22日に締結された,生産物分与協定(PSA、注)の内容を一部の外国企業が履行しなかったとして
・ ロシア政府がサハリン・エナジーの全ての権利と義務を譲渡させる新会社を設立すること,
・PSAに基づくサハリン・エナジーの資産を直ちにロシア政府に移転させると同時に、新会社にはPSAに基づくサハリン2の無償使用権が譲渡されること,
・新会社における資本割合はサハリン・エナジーにおける株主の割合を引き継ぐが,正式な株式が決まるまではロシア政府が管理すること,
などが定められました。

https://www.jp-ru.org/wp/wp-content/uploads/2022/03/J_U_416_20220630.pdf

さらに,ロイター通信によると,2022年8月5日に「サハリン2」の権利・義務を移管するための新たなロシア法人である「サハリンスカヤ・エネルギヤ」の設立が登記され,同年8月19日に事業が開始されたことが確認されています。
この新会社に従前のサハリン2の権益を持つ三井物産や三菱商事などが参加を継続したい場合は,新会社の設立から1カ月以内にロシア政府に対して新法人参画の意思の有無を通知しなければならないということになっており,日本国政府も参加を継続するように要請していると聞いています。

協定不履行の背景

今回のロシアの対応は,ウクライナ侵攻に伴う日本や諸先進国のロシアへの経済制裁に対する報復的な措置としか思えません。
それにしても,このような勝手なことが一国の判断で許されるのか,国際法の観点からも判断しなければなりません。
以前のラジオでも少し紹介しましたが,日露投資保護協定という日露間で締結している協定があります。
これは国家間の投資において両国が不利益を被らないように定められた協定で,お互いの国の企業の財産を没収することを禁止し,さらには損害賠償請求の対象にもなると定めています。
今回のプーチン大統領の措置は明らかな違反になるでしょう。
そして,今回の措置に対して,対象企業は1か月以内に回答をしなければならないこととなっています。

今後のことも踏まえた日本への影響

問題は,ロシア政府が新い事業主体の会社を設立して,現在のサハリンエナジーの資産を新会社に無償で譲渡することがロシア国の会社法に照らして合法がどうかをまず確認しないといけません。
仮に,これがロシア国内法に照らして違法であれば,ロシア国内での裁判をすることになると思います。

ちなみに,日本の会社法ではこのような行為はもちろん認められていませんし,違法であることは明らかです。
例えば,日本の会社法では会社の吸収合併などは議決権を有する株主の2/3の賛成が必要な特別決議による必要があるからです。
従って,まずはロシアの会社法を慎重に調べないといけません。


次に,仮に,ロシア国内の裁判で認められたとした場合,国際司法裁判所に訴えることも可能だと思います。
今回の措置は,日露投資保護協定(投資の促進及び保護に関する日本国政府とロシア連邦政府との間の協定)第5条第1項違反という根拠からです。

日露投資保護協定第5条第1項抜粋
1 いずれの一方の締約国の投資家の投資財産及び収益も、他方の締約国の領域内において、公共のため、かつ、正当な法の手続に従ってとられるものであり、差別的なものでなく、また、迅速、適当かつ実効的な補償を伴うものである場合を除き、収用若しくは国有化又はこれらと同等の効果を有するその他の措置の対象としてはならない。
https://www.jp-ru.org/about/toushihogo/


国際司法裁判所は原則として国家対国家の問題が対象になるのですが,今回のロシアの措置が民間事業ではなくロシア国政府による行為であると判断されるならば,日本国政府がロシア国を被告として国際司法裁判所に訴えうことも可能かと考えます。


また,日本からロシアに対する経済制裁を継続するということもあり得ますが,日本と中国や韓国のように経済交流が非常に大きいなら別ですが,正直なところ日本とロシア間の経済規模を考えるとロシアに対する経済制裁の効果は限定的だと思います。

一刻も早い戦争の収束を願う

今回の措置は,ロシアのウクライナへの侵略行為が発端となっていますし,そもそも食料や燃料などのように,人々の生活に直結するものに対して経済制裁を加えることは人道的にどうかと考えます。
とにかく,早く戦争が終わって正常な関係に戻ることを願うばかりです。

ラジオ番組『コトニ弁護士カフェ』
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隔週で長友隆典護士&アシスタントの加藤がお送りしています。
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