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盗まれた自転車を無断で取り返したら窃盗罪! 所有権と占有権の違いを弁護士が解説

『コトニ弁護士カフェ』2021年10月1日放送分

「盗まれた自転車を見つけた!勝手に取り返しても大丈夫?」
自分の自転車が盗まれてしまい探していたときに、近所の家の敷地内に停められているのを見つけました。
「わたしの自転車だー!」とすぐに取り返したいところですが、これは取り返してもいいのでしょうか?

勝手に取り返すのは「窃盗罪」になる!

まずは順番に説明します。
たとえ明らかに自分の自転車だとしても,許可なく他人の敷地内に入るのは,住居侵入罪(刑法第130条)いわゆる不法侵入になります。
さらに不法侵入だけでなく,勝手に自転車を取り返すと窃盗罪(刑法第235条)になってしまいます。
自分の自転車を返してもらっただけなのに窃盗になるなんて,普通に考えると納得いかないと思いますので,しっかり法律を読み解いて解説していきます。

他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

刑法第235条

ここでいうところの「他人の財物」とは何か?
そこがポイントになります。

盗まれたものは誰の物?「所有権」と「占有権」

他人の財物について説明するには,まずは所有権と占有権のお話をしましょう。

所有者は,法令の制限内において,自由にその所有物の使用,収益及び処分する権利を有する。

民法第206条

所有権=自由にする権利

所有権についてはイメージがしやすいかと思います。
自分のものなので,当然それを好きに使ったり,貸したり,処分したりなど好きにする権利を持っているということです。

占有権=意思をもって所持することで事実上その物を支配する

占有権については,以下の民法第180条で規定されています。

占有権は,自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。

民法第180条

つまり,意思をもって物を所持する,「私はこれを持っているぞ」と所持をすることで,事実上その物を支配している状態になるということです。


もう少し深堀すると,民法には占有権についてはその権限を条文で明記してあります。
民法197条から202条ですが,この中でいわゆる物権的請求権というのが認められており,占有権には他者を排除したり侵害を回復したりするような権利が認められています。
簡単に述べると,占有権は所有権と近い権利があると言っても過言ではありません。

他人が占有している物=他人の物になる!

ここでまた刑法に戻ります。

自己の財物であっても,他人が占有し,又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。

刑法第242条

ここに書いてある通り,あくまでも刑法上の話ですが,他人が占有している物は他人の物として扱われるということです。

つまり,自転車の例に戻って解説すると,たとえ盗まれた自分の自転車だとしても,他人が占有している状態であればそれは刑法上は他人の物なので,勝手に取り返す行為は窃盗罪に問われる可能性があるのです。

自力救済(じりょくきゅうさい)は禁止!

権利を侵害された個人が,利益回復を求めるために実力行使することを「自力救済」と呼びます。
自力救済を許してしまうと,権利関係が不明確のまま一方的に物が奪われてしまったり,事態が混乱したりする恐れがあるからです。

たとえば自転車の例であれば,「私の自転車が盗まれた!」と思ったとしても,
もしかして目の前にある自転車は,一度誰かに盗まれたあと別の第三者が買ったという可能性もあります。
つまり占有者自身が,自分が所有者だと信じているかもしれません。
このように複雑な事情になっているケースもあるので,勝手に取り返すことは原則として禁止であり,きちんと司法手続きを取り返そうというルールになっているのです。

自転車が盗まれたときは警察へ


では,実際に自転車が盗まれてしまったときは,どうしたらいいのでしょうか?

まずは警察に被害届を出すのが一番です。
自転車を購入する際に「防犯登録シール」が貼られているので,その番号を控えておきましょう。
そのうえで,自分の自転車を他人の敷地内等で発見したら,「〇〇の敷地内に自分の自転車を発見した」と警察に伝えると,適切に対処してくれるはずです。
ただし,盗まれたと気が付いたら出来るだけ速やかに届けることをおすすめします。

なぜなら,盗難から一定以上の期間が経過した場合,仮に見つけたとしても,取り返すことが困難になるケースがあるからです。
これについては,また次回に詳しく説明いたします。

盗まれた現場を押さえたら取り返せる!

買い物中にちょっとだけ自転車を停めていて,まさに誰かが盗んで乗って行こうとしているのを目撃した場合,その場で取り返すことは正当防衛(刑法第36条第1項)として認められます
その場で」というのがポイントですので,数日後に誰かが乗っているのを見かけたり,誰かの敷地に停められているのを目撃したりしても,勝手に取り返すことはできませんので,注意をしてください。

なお,自転車を取り戻すために相手に暴力を振るったり,武器を用いたり,怪我をさせたりすると,過剰防衛になる可能性もあるので要注意です。

まずは盗まれないように日頃から防犯対策をしましょう

以上のように,所有権と占有権,自力救済の禁止など,法律上には様々なルールがあります。
一度盗まれてしまうと,なかなか取り返すのが大変になってしまいますので,まずは盗まれないように,短時間の駐輪でもしっかり施錠する,盗まれやすそうなところに置かないなど,日頃から気をつけましょう。

『コトニ弁護士カフェ』次回の長友隆典弁護士の担当回は, 2021年10月15日放送です!

ラジオ番組『コトニ弁護士カフェ』
毎週金曜日10時30分から三角山放送局で放送中!
隔週で長友隆典護士&アシスタントの加藤がお送りしています。
身近な法律のお話から国際問題・時事問題,環境や海洋のお話まで,様々なテーマで約15分間トークしています。
皆様からの身近なお悩み,ご相談などのリクエストもお待ちしております。
三角山放送局 reqest@sankakuyama.co.jp または当事務所のお問い合わせフォームでも受け付けております。

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