近年,AIを利用したチャットシステムをはじめ,便利なサービスが増えています。
以前,文章を作成をするAI「ChatGPT」についてお話ししましたが,画像を生成するAIも登場しています。
しかし,画像生成AIでは,生成する画像の著作権などについて法的な問題が指摘されています。
例えば,画像生成AIが作る画像が,アーティストの写真や絵画に似ている事例が多発しており,アメリカでも訴訟になっているケースもあります。
今回はそんな画像生成AIの利用に伴う法的な問題点などについてお話しします。
画像生成AIとは,出来上がったイメージを,写真や絵などの画像によってではなく,テキストによって指示するだけで,自動的にそのテキストの指示がイメージする画像やイラストが生成される人工知能(AI)を基にしたソフトウェアのことです。
画像生成AIもいくつかツールがあります。
なかでも有名なのが,イギリスのスタビリティーAIが運営するステーブル・ディフュージョン(Stable Diffusion)や,チャットサービスであるDiscordを通じて使用できるミッドジャーニー(Midjourney)などです。
私も試しにステーブル・ディフュージョンのオープンソースβ版である「ドリームスタジオ」というツールを試しに使用してみました。
既存の画像をアップロードして編集することもできますし,欲しい画像のイメージをテキストで指示することもできるのが,画像生成AIのすごいところです。
写真風,線画,アニメ風など15種類以上から画風を選択でき,クリックひとつで数十秒待つだけで画像生成ができます。
それだけでなく,「こういう情報は避ける」などの細かい指示も可能です。
▼「茶色い長毛のネコがソファで寝ている。ソファの横の丸テーブルには1杯のコーヒーがある」(日本語訳)というテキストから生成された画像。写真風。
▼「女性が一人パリの街並みを歩いている。夜空には三日月が見える」(日本語訳)というテキストから生成された画像。シネマ風とEnhance(強化)
今のところテキストは英語で入力する必要があるのですが,翻訳ツールなどを活用すれば誰でもすぐに使用できるでしょう。
画像生成AIがあれば,必要な画像を探し出したり,写真を撮影したり,絵を描いたりする手間が不要となるのではないかと思うほどに,画像生成AIが作り出す画像のクオリティは高く,優秀なツールであることがわかります。
これは画像生成AIが作った画像は,AIが既にインターネット上にある画像を利用して作り出した画像なので,生成された画像には必ず学習元になっているデータが存在します。
そのため,生成された画像が,過去に誰かが撮った写真や創作した作品にそっくりになってしまうケースもあるという点が問題視されています。
実際にアメリカでは,自身の作品とそっくりの画像がAI生成画像として出回っているとして,複数人のアーティストが作品の著作権を侵害されたとして集団訴訟を起こすなど,すでに法的紛争が起きています。
https://www.intellectualpropertylawblog.com/archives/celebrity-faces-off-against-deep-fake-ai-app-over-right-of-publicity/
また,写真画像を販売している企業も,同社が所有している1千2百万枚もの画像を無断で学習に使用されたとして著作権侵害で提訴しているケースもあります。
https://www.theverge.com/2023/2/6/23587393/ai-art-copyright-lawsuit-getty-images-stable-diffusion
いずれも,学習元データの取り扱いと,生成された画像が二次創作物に該当するのか,つまり著作権を侵害しているのか,というところが争点になります。
著作権に関しては,一部の方々が誤解されているケースが見受けられますが,無償で公開されているからといって,著作権フリーということにはなりません。
ウェブやソーシャルメディア上で,作品が無料で閲覧可能だとしても,これを第三者が自由に利用することが許可されているわけではありません。
たとえば,写真家が作品をウェブ上に公開し,無断でそれを自身のサムネイルなどに利用した結果,高額な損害賠償金を支払わなければならなかったケースが存在します。
また,美術館で絵画を鑑賞し,それを自身の記憶としてインプットした場合,著作権侵害には当たりませんが,その記憶を元に瓜二つの絵を制作し,自らが創作したかのように公にすのは問題があります。
つまり,記憶としての取り込み自体は問題ありませんが,それが具体的な表現として現れ,元の作品と酷似している場合には,著作権侵害になってしまうかもしれません。
インターネット上にある画像の使用については著作者の許可が必要になるのですが,実は「AIが学習するために使う」というのも,著作権侵害になる可能性があるのです。
著作権侵害の法的要件を検討する際には,まず作品が著作物として保護される要件を前提に,①類似性,②依拠性を考慮する必要があります。
① 類似性
言葉通りに「既存の著作物と同一または類似している」ことを指します。
具体的には,単なるアイディアや表現方法ではなく,同一または著しく類似した創作性が認められ,かつそれが一般的なものではなく,明確な独自の特徴を備えていることが重要なポイントです。
② 依拠性
「既存の著作物に接して,それを自己の作品の中に用いること」を依拠性といいます。
ただし,既存の著作物を知らずに偶然に類似した表現が生まれた場合には,依拠性は成立しません。
画像生成AIの場合は,数々のデータを元に学習を行い,既存の著作物を認識し,それを元に新たな画像を生成しているので,生成された画像には依拠性が認められると言えます。
つまり,著作権侵害を判断する際には,学習段階での既存著作物の利用と,生成された作品における類似性と依拠性の有無という,学習段階と生成後の段階の両方を考慮する必要があります。
これらの要素によって,著作権侵害が成立するかどうかが判断されることになるのです。
著作権侵害についての法的な問題については文化庁から資料が公開されていますので,こちらも参照してみるのもいいでしょう。
画像生成AIに関する訴訟問題について,ケースによって類似性と依拠性のどちらか,もしくはどちらも争点となる可能性があります。
また,「AIが生成した画像の著作物」についても,その取り扱いが問題となるでしょう。
訴訟においては生成された作品がAIによるものなのか,それとも人間の著作物なのかという点が論争の的となることがあります。
こちらも判断が難しいのですが,AIの使用が純粋に「ツール」としての利用なのかどうかが重要なポイントになります。
たとえば小説を書くときに,AppleのMacbookとマイクロソフトのWordを使って書き上げたとして,これらのツールは単に執筆を支援するための手段(ツール)に過ぎないといえます。
同じようにAIを使用して何らかの創作物を制作する場合も,AIの機能自体よりも,利用者の「創作意図」または「創作的寄与」があったかどうか,というところで著作物になるかどうかが判断されます。単にAIに任せたのではなく,AIを利用した方の創作性がどこまで認められるかというところがポイントになるのです。
もともとできあがった画像を選び,他の利用者が同じ結果を得る可能性がある場合,そこに独自の創造性は認められません。
たとえAIを使ったとしても,その方の創作意図があり,創作者として関与したといえる場合,AIの生成物も著作物として認められる可能性があります。
AI技術の進展を考えると,AIと著作権の関係性は今後もまだまだ変わっていくことでしょう。
どんなにAIが発達したとしても,人間にしか創作できないクリエイティブを守るために,時代に合わせた法制度を柔軟に整備していく必要があると考えます。
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