
こんにちは、弁護士の長友隆典です。
「魚がどこにいるかは、長年の勘でわかる」
漁業の世界では、こうしたベテランの技が何より頼りにされてきました。
ところが最近は、スマートフォンを開けば数日先の漁場の予測が見られる、そんな時代になりつつあります。
水産庁はICT(情報通信技術)やAI(人工知能)を使った「スマート水産業」を進めており、2027年を目標に「次世代の水産業」をつくろうとしています。
今回は、スマート水産業の基本的な考え方と、国の取り組みの現状について解説します。
スマート水産業をひと言でいうと、「水産資源の情報を正しく評価・管理し、次世代に活かす水産業」です。
水産庁は、ICTを使って漁業活動や漁場環境の情報を集め、資源の評価と管理に役立てるとともに、作業の省力化や操業の効率化によって生産性を高める取り組みと位置付けています。
目指しているのは、次の2つを同時にかなえることです。
水産資源の持続的な管理と、これからの事業成長のバランスを、正しいデータを用いて実現していく、というのがスマート水産業の発想です。
舞台は漁船の上だけではありません。
養殖場、水揚げをする産地市場、加工場や流通の現場まで、水産業のあらゆる場面がデジタル化の対象になっています。
今これほどデジタル化が推進されている理由のひとつは、漁業の担い手が急速に減っていることです。
農林水産省の統計によると、漁業就業者(15歳以上で、1年間に30日以上、海の上で漁業の仕事をした人)は、2013年には約18.1万人いましたが、2018年には約15.2万人、2023年には約12.1万人となっており、この10年でおよそ3分の2に減少しています。
しかも2023年時点で、就業者の約4割にあたる約4.8万人が65歳以上であり、今後も漁業就業者の高齢化は避けられない状況です。
そしてもう一つの問題が、技術の受け継ぎ方です。
水産庁の資料でも、漁業の現場では今も経験と勘に頼った操業が中心で、記録は紙、情報のやりとりは漁業無線が頼り、という状況が指摘されています。
「どの潮のときに、どこに網を入れるか」といったノウハウは、ベテランの頭の中にある「暗黙知」(言葉や数字にしにくい感覚)になりがちです。
ベテランの引退とともに蓄積された知識や技術が失われてしまう前に、データとして残し、若い世代に手渡していく。
これが、スマート水産業の大切な役割の一つです。
では、国は実際にどんなことを進めているのでしょうか。
水産庁の資料をもとに、3つの分野に分けて見てみましょう。
① 資源評価・管理:海の資源を正しく知る
まずは、「海にどれだけ魚がいるのか」をデータで管理する取り組みです。
主要な漁協や産地市場から水揚げ情報を電子データで集める仕組みづくりが進められており、400市場以上が目安とされています。
改正漁業法で義務付けられた漁獲報告も、紙から電子への切り替えが進んでいます。
②漁業・養殖業の生産性向上:データで操業を効率化する
漁業・養殖業の生産性向上は、漁業者のみなさんにとっていちばん身近な分野かもしれません。
たとえば、人工衛星のデータとAIを組み合わせた漁場予測では、沖合の漁場を10日先まで予測し、実際の漁場と約86%一致したという実証結果も紹介されています。
養殖の現場でも、次のような技術が使われ始めています。
③加工・流通の効率化:水揚げから食卓までをデータでつなぐ
3つ目は、加工・流通の分野です。
生産から加工・流通までの情報をデータでつなぎ、魚が獲られてから食卓に届くまでの流れ全体の生産性を上げる取り組みが進められています。
国の資料では、AIやロボット技術による荷さばき・加工現場の自動化なども、目指す姿として挙げられています。
また、2022年12月に施行された水産流通適正化法(※)に対応するため、漁獲番号などを電子的にやりとりできるシステムも国が開発しました。
新たに増える書類や手続きの負担を、デジタルで軽くするための仕組みです。
こうして流通の流れが整い、「どこで、どのように獲れた魚か」がきちんと伝わるようになれば、結果として魚の価値が正しく評価されることにもつながります。
(※)正式名「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」
違法に獲られた水産物の流通を防ぎ、違法な漁業の抑止及び水産資源の持続的な利用に寄与し、漁業及びその関連産業の健全な発展に資することを目的とする法律
データを使う場面が増えると、「このデータは誰のものなのか」「どこまで使ってよいのか」が重要になってきます。
水産庁は2022年3月に「水産分野におけるデータ利活用ガイドライン」をまとめ、データの提供や利用について、あらかじめ取り決めておくべき考え方を示しています。
機器メーカーやIT企業と契約するときは、性能や価格だけでなく、集めたデータの扱いにも目を向けておくと安心です。
実は私も、水産庁が公表している「水産分野におけるデジタル化等に取り組む事業者」の一覧に、水産業の法務を支援する「水産デジタル人材」として掲載されています。
契約やデータの取り扱いといった法務の面から、スマート水産業に取り組むみなさんを支えていきたいと考えています。
私のライフワークは、「豊かな海や川、湖を残しながら、水産業を発展させていくこと」です。
デジタル技術は、水産業の発展を後押ししてくれる心強い道具だと考えています。
スマート水産業は、大きな会社だけのものではありません。
人手が限られた地域の浜こそ、デジタルの力で負担を減らし、ベテランの技を次の世代へつないでいけるはずです。
水産庁出身の弁護士、そして水産業経営アドバイザーとして、毎月水産業ブランディングセミナーを開催しております。ご興味のある方はぜひお申し込みください。

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水産業法務のすべて - 民事法研究会 長友隆典編著
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▼参考サイト
水産庁「スマート水産業の展開について」
農林水産省「漁業労働力に関する統計」
水産庁「スマート水産業の推進に係る検討会等の開催について」
スマート農林水産業の展開について【水産業】(2021年2月)
水産庁「デジタル水産業戦略拠点の取組について」
水産庁「水産流通適正化法」について
自治体通信オンライン