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世界初、完全養殖ウナギ販売までの道のり。水産庁出身弁護士が解説

『コトニ弁護士カフェ』2026年6月12日放送分

2026年5月29日、完全養殖ウナギのかば焼きが世界で初めて一般向けに販売されました。

50年以上の研究の積み重ねが、ついに食卓に届くことが実現した歴史的な瞬間について、水産庁出身の弁護士として解説します。

注目を集める完全養殖ウナギのニュース


2026年5月29日、山田水産・水産研究・教育機構・マリノフォーラム21の共同で、完全養殖ウナギのかば焼きが世界で初めて一般向けに販売が開始されました。
日本橋三越本店や築地の専門店、イオングループのネット通販で販売されています。

私が水産庁に勤めていた時代から、ウナギの資源問題は水産業の大きな課題で、養殖の技術も長年研究されてきたことをよく知っていますので、本当に感慨深いニュースです。

販売前日の5月19日には鈴木憲和農林水産大臣が農水省で試食され、「人生で食べたウナギの中で間違いなくトップ3には入る」と絶賛されました。
また高市首相も自身のXに、「脂のりが抜群、ふっくらととろけるような口当たりで、お箸が止まりませんでした」と投稿されています。
国のトップが試食してコメントするというのは、それだけ国として重要な取り組みだというメッセージだと感じます。

「養殖ウナギ」と「完全養殖ウナギ」何が違う?


実は、日本で流通しているウナギの99%以上が養殖ウナギなのですが、スーパーやうなぎ屋さんの「養殖ウナギ」と、今回の「完全養殖ウナギ」は、根本的に違うものです。

養殖ウナギは、川や海岸で捕まえた天然のシラスウナギ(稚魚)を養殖池に入れて育てたもので、天然の稚魚を養殖施設で育てているわけです。

一方「完全養殖」は、人工的に育てられた親ウナギから人工的に採卵し、受精させ、孵化させ、稚魚まで育て、そして再び人工的に成魚になった親ウナギから採卵するという、すべての工程を人の手でサイクルさせて行うものです。
ニジマスやマダイはすでに完全養殖が実用化されていますが、ウナギの場合は非常に難しかったのです。

ウナギ完全養殖までの道のり〜謎多き生態と50年の研究


ウナギはすごく謎が多い魚です。
ニホンウナギは、日本から南に約2000キロ離れた太平洋のマリアナ諸島付近の深海で産卵します。
孵化した仔魚は海流に乗って太平洋を漂いながら北上し、シラスウナギに成長して日本の川にたどり着きます。
川で数年から十数年育った後、川を下ってまた深海に戻って産卵する——この一生のサイクルが長年謎に包まれていて、産卵シーンが自然界で確認されたのも2009年のことと、比較的最近のことなのです。

完全養殖の研究は1973年、北海道大学が人工孵化に成功したことから始まります。

孵化させることはできたのですが、生育が難しかったのが孵化したばかりの仔魚の段階です。
孵化したての仔魚は全長わずか数ミリで、消化器官が未発達なため「食いだめ」ができず、1日2時間おきに5回もエサをやる必要があります。しかもその仔魚が自然界で何を食べているのかが長い間わかりませんでした。

研究で判明したのは、深海に漂う植物プランクトンの死骸などが分解された「マリンスノー」と呼ばれる物質を食べているということでしたが、その具体的な成分が明らかでないため、20年以上にわたって孵化させてもほとんど育てられない状況が続きました。
また毎日の水槽の洗浄も欠かせないなど、非常にデリケートな生き物なのです。

完全養殖には成功するが、高コストが課題に

最初に完全養殖に成功したのは2010年、水産研究・教育機構の養殖研究所が世界で初めて達成しましたが、この時のコストは1匹あたり約4万円でした。
「技術的には成功した、でも商業化はまだまだ」という状況だったわけです。

2023年には近畿大学水産研究所が大学として初めて完全養殖を達成しました。
近大といえばクロマグロの完全養殖でも有名ですが、2025年5月には鶏卵黄を使わないオリジナル飼料を開発し、100尾以上のシラスウナギの生産に成功しています。

研究が進んだことと技術の進化によって1匹あたりのコストが徐々に下がっていき、今回ついに商品化が実現しました。
高市首相の投稿にも「天然シラスウナギの3〜4倍程度までのコストダウンに成功している」とありましたが、生産規模も年間10〜100匹から1万匹以上へと劇的に拡大しています。
水産庁も2025年度補正予算で7億円を計上し、「ウナギ安定供給緊急総合対策」として民間への技術移転を強力に後押ししています。

今回の試験販売の価格は1尾あたり5000円程度、ギフト箱2尾セットで9,720円(税込)です。
スーパーで売っているウナギのかば焼きが数百円から1000円台であることを考えると、まだまだ高い水準ですが、これはゴールではなくスタートだと思っています。
イオンと山田水産は、味や価格についてのアンケートを実施して今後の普及につなげていくとしていますし、生産コストがさらに下がれば、販売価格も下がっていくことが期待できます。

完全養殖ウナギの普及が日本の食文化を守る


完全養殖が本格的に普及すれば、まず価格の安定が見込めます。
現在のウナギの価格は天然シラスウナギの漁獲量に大きく左右されています。
ちょうど今年2026年は、2024年にシラスウナギが19年ぶりの大豊漁だった影響で国産ウナギが前年比4割安という価格動向になっており、現在は比較的安く食べられる状況です。

しかし、天然のシラスウナギの漁獲量は長期的に減少傾向にあり、価格は不安定です。
完全養殖が普及すれば供給が安定し、価格の乱高下がなくなります。

次に、絶滅危惧種の保護につながります。
ニホンウナギは現在、環境省のレッドリストで絶滅危惧IB類(近い将来における野生での絶滅の危険性が高い種)に指定されています。
天然のシラスウナギへの依存をやめることができれば、自然界のウナギの資源回復につながります。
現在流通しているウナギの結構多くが、ニホンウナギではなく中国で養殖されたヨーロッパウナギやアメリカウナギだという事実も、こうした背景によるものです。

そして最も大切なのが、日本のウナギ食文化の継承です。
2024年の統計では、国内のウナギ供給量の約73%が輸入で、かば焼きなど加工品は99%以上が中国からの輸入です。
完全養殖が普及すれば、国産ウナギを安定して供給できるようになります。

土用の丑の日にウナギを食べる文化は江戸時代から続くものですし、ウナギは「日本のソウルフード」とも言える存在です。
私が水産庁に勤めていた頃から、資源管理の観点でウナギの問題には強い危機感を持っていました。
今回の世界初の販売開始は、その意味でも本当に大きな前進だと感じています。

参考
完全養殖ウナギ蒲焼の試験販売|国立研究開発法人 水産研究・教育機構
第8回成果発表会|独立行政法人 水産総合研究センター
完全養殖ウナギ蒲焼の試験販売のお知らせ鰻師の蒲焼-山田水産株式会社
坂本農林水産大臣による人工種苗由来ウナギ蒲焼試食及びウナギ人工種苗に係る記者説明会|国立研究開発法人 水産研究・教育機構
ニホンウナギの完全養殖に大学として初めて成功 養殖用種苗(稚魚)としての実用化をめざし、今後さらに研究を継続|KINDAI UNIVERSITY
産学連携で開発した飼料を用いて、完全養殖によるニホンウナギ稚魚の生産に成功しました。|三栄源エフ・エフ・アイ
ウナギ完全養殖、民間参入で育て 人工ふ化で「かば焼き」26年夏食卓へ|日本経済新聞
ウナギに関する情報 |水産庁
高市早苗内閣総理大臣|X

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