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札幌市内にも出没、エゾシカの被害と対策

『コトニ弁護士カフェ』2024年10月25日放送分

近年、市街地でのエゾシカの出没が問題視されています。
特に市内でのシカの目撃情報は最近かなり増えている印象です。
10月4日には、札幌市内でエゾシカが複数回出没しているというニュースがありました。
札幌市の歩道に突然現れ、最終的には裁判所の敷地内に飛び込んだり、北海道庁でも目撃された際は前庭の島にいるのが確認されたそうです。
札幌中心部でエゾシカが目撃されることが増えており、10月2日にも北大植物園付近でもシカが目撃されており、植物園が一時的に閉鎖されたほど。

北海道の調査によると、シカが市街地に現れる頻度は、平成18年頃までは年間数件程度でしたが、平成19年頃から年間10回以上になり、平成21年度と平成20 年度は32件と顕著に増加しているようです。

【参考サイト】
https://www.city.sapporo.jp/kurashi/animal/choju/kuma/housin/documents/houkoku2-1.pdf
https://www.city.kushiro.lg.jp/kurashi/doubutsu/1004364/1004365/1004366.html

今回は、北海道で出没が相次ぐエゾシカについてお話しします。

道内に73万頭も〜エゾシカ急増の背景

北海道でのエゾシカの推定生息数は、平成30年で65万頭、そこから徐々に増加しており、令和5年では73万頭にも及んでいるようです。
そのエゾシカが急増した背景としては以下が挙げられます。

高い繁殖力による頭数の増加

まず一つ目の大きな要因は、高い繁殖力があげられます。
エゾジカは通常は毎年1頭の子供を産みますが、時には2頭を産むこともあります。
また、エゾシカの寿命は15年程度とされ、その間に多くの子供を産むことができるため、個体数が増える速度が速いのです。

天敵がいないことによる頭数の増加

次の大きな要因は、天敵のエゾオオカミが絶滅したことです。
かつて北海道の食物連鎖の頂点にあって、エゾシカを餌として捕食していたエゾオオカミは、明治時代に牧畜の牛や馬を襲うという理由から人の手により絶滅させられてしまいました。
これにより、エゾシカの繁殖が抑制されることがなくなったそうです。

農作物や牧草地など豊富な餌場

さらに、エゾシカの餌となる環境が増えたことも大きな要因です。
昔は原生林が広がっていた北海道ですが、その一部が農地に変わり、エゾシカにとって豊富な餌場が提供されるようになりました。
農作物や牧草地が広がる中、シカたちはそこを新たな餌場として利用するようになり、これが繁殖の助長に繋がっています。
つまり、食べ物が豊富で、暮らしやすい環境になっているということです。

ハンター減少で頭数管理が困難に

さらにもう一つ重要なのは、ハンターの減少です。
昔はシカを狩猟するハンターが多くいましたが、年々その数が減少しています。
特に最近では高齢化や狩猟免許を取得する若者が減っているため、エゾシカの頭数をコントロールすることが難しくなっています。
さらに、2020年には新型コロナウイルスの影響で道外からのハンターが減り、十分な捕獲が行われなかったことも問題を深刻化させました。

深刻化するエゾシカ被害:交通事故と農業被害

多発しているのが、道路に飛び出したシカと自動車が衝突する事故です。
年間4,480件のエゾシカとの衝突事故が報告されていますが、これは昼夜を問わず起きています。
夜間に道路に突然飛び出してくることが多く、避けきれないケースが多いです。
また、シカとの衝突だけでなく、シカを避けようとして運転中に別の車にぶつかってしまったという事故も起こっています。

車との交通事故だけでなく、エゾシカが線路に飛び出してくることで、電車の運行に支障をきたす事例も増えています。
特に釧路支社管内では、エゾシカとの衝突事故が急増していて、2022年度の秋には多くの列車が運休や遅延を余儀なくされました。

車の運転については、エゾシカの活動のピークは日出と日没前後なので、その時間帯に出没地域を運転する場合、シカがいないかどうか気をつけて運転しましょう。
また、夜間の運転の場合、ライトが当たるとシカの目は光るので、暗闇の中に光るものが反射した場合は、周囲に気をつけてください。

電車の運行に関して、JR北海道ではシカが入れないように柵を設置したり、警笛を鳴らしたりといった対策を実施しているそうです。

また、エゾシカによる被害額は年々減少しているとはいえ、2019年度でも北海道全体で37億9,700万円の被害が報告されています。
特に、果物やテンサイなどの単価の高い作物に被害が及ぶと、さらに被害額が跳ね上がります。
これらの被害を防ぐために、捕獲対策を強化していますが、捕獲数が追いついていないのが現状です。

【参考サイト】
https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/20230913_KU_hanasakisenmogensoku.pdf
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/est/ht/traffic_accident.html
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/safe/pdf_07/202004.pdf

エゾシカ対策〜捕獲を増やすためには

北海道内では、各自治体がエゾシカの駆除や捕獲を奨励するため、報奨金や助成金の制度を設けています。
今年10月からは、メスのシカを食肉処理場に持ち込んだ際に、1頭につき1万円の報奨金が支払われるようになりました。

また、わなを設置したり、ハンターへの支援を強化したりすることで捕獲数を増やそうという取り組みも進んでいます。
北海道猟友会によりますと、道内のハンター登録者数は年々減り続けていて、ピーク時の1978年に比べると、2023年は約4分の1にまで減少しました。

しかし、北海道の狩猟免許試験の受験者数が数年前から増加傾向に転じています。
20代から40代までの若い世代でも、ハンターを目指す人が増えているようです。

捕獲後の資源の有効活用も課題

また、エゾシカは貴重な資源として、食肉や革製品に活用されています。
特にシカ肉は「ジビエ」として人気があり、高たんぱくで低脂肪なため、ヘルシー志向の方にも人気がある食材です。

さらに、エゾシカの革は耐久性が高く、昔からアイヌの人々にとっても大切な資源でした。
今では、エゾシカの革製品もさまざまな形で商品化されています。

今年の12月には、東京の食肉会社が北海道最大級の食肉工場を釧路で稼働開始するそうで、牛や豚、鶏などと合わせて、シカ肉についても取り扱う予定だそうです。
シカ肉の安定確保のために、捕獲現場から工場までシカ肉を運ぶ専用車などの導入も計画しているとのこと。

シカやヒグマ等が増えすぎると、森林の樹木や希少な植物に悪影響を及ぼし、自然環境のバランスが崩れてしまいます。環境保護と共存のために、計画的な管理が必要といえます。
自然との共存を図りながら、私たちの暮らしを守っていくことが大切です。

【参考サイト】
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1022772/

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