前回,3月13日から変わったマスク着用についてお話しをしましたが,会社や店舗など公共の場ではなく,管理者がいるような私的な空間においては,その管理者に従うということにも触れました。
その中でも「タクシーは法律上お客様を受け入れる義務がある」ということで,今回は「タクシーの乗車拒否は違法になるのか?」について詳しくお話しをしたいと思います。
日本では,タクシーや路線バスなどの旅客自動車運送事業や貨物自動車運送事業を含む道路運送事業については,「道路運送法」という法律でそのあり方が規定されています。
その中の道路運送法13条「運送引受義務」では,「一般旅客自動車運送事業者は,運送の引受を拒絶してはならない」と定められています。
要するに,タクシーに乗りたい人がいて乗せられる状態であれば,原則として乗せなければならないということです。
この場合,「一般旅客自動車運送事業者」とは,タクシーに限らずバスなども含みます。
前回のブログで紹介した通り,レストランであればドレスコードなどを設けて,お店の秩序を守るためにお客様を選ぶことができますが,タクシーやバスはそのようなことは許されていません。
ただし例外として,タクシーやバスが乗車拒否ができるケースもあります。
以下の通り、道路運送法第13条の1号から6号に定められています。
1 認可を受けた約款と違う内容と当該運送の申込みが第11条第1項の規定により認可を受けた運送約款(標準運送約款と同一の運送約款を定めているときは、当該運送約款)によらないものであるとき
道路運送法第13条
2 当該運送に適する設備がないとき
3 当該運送に関し申込者から特別の負担を求められたとき
4 当該運送が法令の規定または公の秩序若しくは善良の風俗に反するものであるとき
5 天災その他やむを得ない事由による運送上の支障があるとき
6 前各号に掲げる場合のほか、国土交通省令で定める正当な事由があるとき
原則として,法律や認可の条件と異なる場合や天災などやむを得ない場合なのですが,よく議論になるのが第6項の「正当な事由」がある場合についてです。
この正当な事由について,「国土交通省令である旅客自動車運送事業運輸規則13条」で,以下の場合に運送引受を拒絶できるとしています。
1 乗客が法令または公序良俗に反する行為を行い、制止に従わないとき
これは,乗客が車の中で暴れて危険な場合や,他の乗客に迷惑をかけるような行為を止めないときなどを指しています。
その他,喫煙・飲酒なども含まれます。
2 乗客が危険物を携行しているとき
飛行機などでもありますが,法令により定められた制限を超えた火薬類・揮発油・有毒ガス発生物質等の危険物を所持している場合は,乗車を拒否することができます。
ただし,飛行機のように荷物のチェックが行われるわけではないため,カバンやスーツケースなどに入れていたら気付くことは難しいでしょう。
3 泥酔者または不潔な服装をした者等であって他の乗客に迷惑となるとき
過度に酔っ払っていたり,不潔な格好をしていて車内の清掃や消臭が必要なほどであったりする場合には,乗車を断ることができます。
本人が自覚していない場合,断ることで怒りを買ってしまうこともあるかもしれません。
「泥酔」「不潔」というのも,明確な基準があるわけではなく,あくまでも個人の主観によるものなので,判断が難しい部分でしょう。
4 付添人が伴っていない重病者
5 インフルエンザ等の感染病に罹患している所見があるとき
上記のようなケースも乗車を断ることが可能です。
「新型コロナウイルスに感染している人を拒否できるか」という問題があったのですが,新型コロナウイルスは,現在は2類相当ですので,明らかに新型コロナウイルスに感染している方は乗車拒否をすることができます。
しかし,新型コロナウイルスは2023年の5月8日から5類に移行しますので,その後は新型コロナウイルスに感染していても乗車拒否をすることはできなくなります。
これまでも度々問題になっていましたが,新型コロナウイルスに感染しているかどうか不明な方で,マスクをしていない方の乗車を拒否することができるかということがありました。
しかし実際は,新型コロナウイルス感染症が拡大していたときでも,マスクをしていないというだけで乗車拒否はできなかったのです。
「マスクをしていないから飛行機から強制的に降ろされた」というニュースが以前ありましたが,正確にいうと,マスクをしていないから乗車拒否をしたのではなく,マスクを着用するように促した乗組員に対して,それを拒否し,大声を出したり暴言を吐いたり,暴れたりしたということで,航空法第73条の3及び4に基づき,安全運行に支障が出るということで乗車拒否をしたということが真相なのです。
航空機の安全の保持,当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護または当該航空機内の秩序若しくは規律の維持のために必要な限度で,その者に対し拘束その他安全阻害行為等を抑止するための措置(第5項の規定による命令を除く。)をとり,またはその者を降機させることができる。
航空法第73条の4抜粋
同様に,タクシーやバスも「マスクをしていない」というだけの理由で,乗車拒否はできません。
原則として,タクシーはお客様に対して乗車の拒否はできませんが,各社の約款などで基準を定めている場合が多いです。
乗車拒否をしてはいけないことだけに限らず,運転手の接客や対応についても会社側で指導しているケースが多くあります。
特に,乗車拒否は違法になる可能性があるので,運転手への指導は徹底している会社が多いのではないでしょうか。
運転手の乗車拒否は会社にとって大きな信頼を損ない,会社の存続問題に関わることです。
過去の判例を見ると「乗車拒否をされた!」と拒否された乗客が訴訟するケースではなく,「乗車拒否を理由に解雇された!不当解雇だ!」と,乗車拒否をした運転手が会社に解雇されて会社を訴えるケースがあります。
通常の会社でも,たとえば横領などの違法行為をした社員は解雇になる可能性が高いですから,法律や会社の規定に反して乗車拒否をした場合,解雇になるのも致し方ないかもしれません。
ちなみにマスクの場合も「着用していない方は乗車を拒否することができる」という会社の規定はないと思いますが,全国ハイヤー・タクシー連合会の規定では「乗車に際しては,利用者のマスク着用について理解と協力を求める」とだけ規定されており,マスクを着用していない人への明確な対応は決まっていないのが現状です。
タクシー側からすると,車という閉ざされた空間に見知らぬ人を乗せるため「問題がありそうな人は乗せたくないな」という気持ちもわかります。
お酒に酔った乗客による乱暴や暴言,強盗などの事件もありますし「このお客さんを乗せても大丈夫だろうか」と運転手さんが慎重になることもあるでしょう。
不景気ということもあり,タクシーでの強盗犯罪は件数が年々増えています。
それと同時に,最近のタクシーは昔に比べて防犯対策にも力を入れています。
前の座席と後ろの座席の間は防犯ガラス(プラスチックの場合もあり)で仕切られており,お金の受け渡しをする部分だけ窓のようになっている車がほとんどです。
また,当然のことながら,防犯カメラや防犯グッズも搭載されているでしょう。
皆さんが理不尽な理由で乗車拒否されることなく安心してタクシーなどの移動手段を使えること,そして運転手さんの安全も確保されること,どちらも重要です。
そのためには,私たちもマナーを守ってタクシーやバスを利用していくことが大切です。
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