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マスク着用の緩和、個人の判断はどこまで通用する? |国際弁護士が解説

『コトニ弁護士カフェ』2023年3月31日放送分

春は新学期や新生活がスタートすることもあり,いろいろなイベントなどで人に会う機会も増えるのではないでしょうか。
この春の大きな変化といえば,すっかり定着したマスク生活から少しずつマスクなしの生活に戻るような,そんな春かもしれません。
そこで今回は,3月13日から変わったマスクの着用についてお話しをしたいと思います。

3月13日から変わった「マスクの着用」方針

皆さんもご存知の通り,この3月13日からマスク着用に対する国の方針が変わりました。
これまでは「屋外では季節を問わずマスク着用は原則不要」「屋内では,距離が確保でき会話をほとんど行わない場合をのぞき,マスクの着用をお願いします」ということでした。
あくまでも「お願い」なので,なにか法的な義務があったわけではないのですが,感染予防という点でも,多くの人が当然のように屋内ではマスクを着用していました。
また,屋外は原則不要ということでしたが,屋外でもそのままマスクを着用している方が多く見られました。

3月13日からは「個人の主体的な選択を尊重し,着用は個人の判断が基本」ということになりました。
つまり屋内外問わず,原則として着用するかどうかは個人の自由になったのです。
これまで当然のようにマスクを着用していた電車やバス,スーパーでの買い物,会社や学校などでも,基本的には個人の判断でマスクを着用するかしないか決めてもいいことになりました。

それでも,マスクの着用を推奨するケース

ただし,原則的には個人の判断となるのですが,「感染拡大防止対策として,マスクの着用が効果的である場面などについては,マスクの着用を推奨する」ということになっています。
推奨なので,絶対にしてくださいという義務ではありません。
たとえば,病院や高齢者施設などへの立ち入りや,電車やバスでも通勤ラッシュの時間帯など人と人との距離が密着してしまうときなどですね。
そのような場合は,周囲の方に感染を広げないためにマスクの着用が推奨されています。
また,ご自身が感染しないように気をつけるために,高齢者や基礎疾患がある方,妊娠中の方など,重症化リスクの高い方が混雑した電車に乗ったり,病院に行ったりするときは,これまで通りマスクをしたほうがいいでしょう。

「個人の判断」はどこまで通用する?

個人の判断といっても,たとえば会社から「オフィスで仕事中はマスク着用するように」と言われたり,学校などでも原則として「教室ではマスクしましょう」と決まっていたり,個別にルールがある場合も多いでしょう。
会社や学校のような自分が所属する組織,食事をしにいったレストランなどが,「マスクを着用してください」という方針だったとして,でも個人は「義務ではないからマスクしたくない」と,意見がぶつかってしまったらどうなるのでしょうか?

実際に3月13日以降も,一部の学校などでは引き続き授業中はマスク着用と決められていたり,仕事中にマスク着用するように言われている職場もたくさんあるようです。
仮に,入社時から「この職場のこの仕事中はマスク着用が原則」などのように会社の規則として定められているのであれば,それはやはり従うべきでしょう。
食品を取り扱う工場などでは,マスクだけではなく全身を作業服などで覆っていたりしますが,それはコロナとは関係なく,衛生上そうすべきなのは明らかです。

ただし今回のように,コロナ禍においてマスク着用だったところ,原則として着用しなくてもよくなったというケースの場合は,ちょっと判断がむずかしいところです。

一般的には「管理者が管理する場所においては管理者の指示に従う」のが原則となるでしょう。
従って,たとえば会社側で「やはり感染予防の観点からオフィスで仕事中のときは,マスクを着用しましょう」と決めたとしたら,まずはそこに従うことになります。
なぜなら,そのオフィスは会社が管理している場所であり,公共の場ではなくプライベートなエリアなので,その管理者が管理権限を持っていることになるからです。

マスクの着用規定を守らなかった場合は罰則?

たとえば会社側が「マスク着用してください」という方針で,「いや,それは個人の判断だしわたしはマスクしません」と強く主張する方がいた場合,何か罰則などはあるのでしょうか。
会社側はその行動に対してなにか処罰を与えたりだとか,場合によっては,ルールに従えないのであれば会社を辞めてもらうだとか,そこまで発展するケースがあるのかどうか気になる方もいるでしょう。
会社規定などにそのような内容が盛り込まれていて,条件として,それを守らなければ戒告といった条件が明記されているのであれば,ありえるかもしれません。
たとえば遅刻や欠勤についても会社規則で定められているケースが多く,あまりにも改善がなければ会社として対処する旨が書かれていることもあります。
国の法律や地方自治体の条例も,公序良俗や日本国憲法13条など憲法で保証された個人の権利に反しない限りであれば,そのような制限を設けることは合理的だと判断されると思います。
従って,会社の場合も公序良俗に反せず,個人の権利を制限する合理的理由が必要であると考えます。

お客さまに対してマスクの着用を徹底することは可能?

レストランなどの飲食店やスーパーなどでも,お客さんに対して「マスクしてください」とルールとして徹底することは可能です。
たとえばレストランやコンサートホールなどでも「ドレスコード」を設けているところがあります。
スニーカーはダメとか,肌の露出は控えるとか,場所によってさまざまでしょう。
それと同様に,お店としての秩序を守るために必要であるとお店が判断するのであれば,それをお客様に求めることは可能です。
法律上の根拠としては「民法521条の契約自由の原則」に該当します。

【改正民法521条】契約の締結及び内容の自由 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、 契約をするかどうかを自由に決定することが できる。
2 契約の当事者は、法令の制限内において、 契約の内容を自由に決定することができる。

国民生活センター

お店でご飯を食べることも契約のひとつなので「その契約を結ぶかどうか」「お客様を受け入れるかどうか」,それは当事者の自由なのです。
マスク着用をお願いしても「絶対にマスクをしない!」と言い張るお客様を入店させないというのも(世間的な批判はあるかもしれませんが),法的には問題にはならないのです。
そのため,不当な差別にあたるなど公序良俗に反しないのであれば,たとえその入店拒否をされた人が裁判などで訴えたとしても,そのような主張は認められないでしょう。
一方で,タクシーやバスなどでは,法律上お客様を受け入れる義務があるので,マスクをしていない方の乗車拒否は合理的な理由が無い限り違法になります。

この数年,マスクをするのが当たり前の生活にすっかり慣れてしまった中で、いきなり「今日からマスクを外してもいいですよ」と言われても,不安を感じる方もいるでしょう。
また、個人の判断と言っても、着用の有無について他人からいろいろと指摘されるケースもあるかもしれません。
それぞれの個別ルールを確認し,秩序を乱すことなく、お互いの主張を認め合い、日常を気持ちよく過ごせることを願います。

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