前回は,これまでの日本の親権制度や共同親権が採用されることになった理由や経緯についてお話ししました。
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いまなぜ「共同親権」なのか?これまでの単独親権制度を振り返る
共同親権は令和8年(2026年)までには法律が施行される予定です。
今後,具体的に何がどう変わっていくのか,またメリットやデメリットについてもお話ししていきます。
具体的に変わることとしては,大きく以下の3つが挙げられます。
改正民法819条第1項及び2項(親権)
1 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。
改正民法817条の13(親子の交流等)
1 第七百六十六条(第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の場合のほか、子と別居する父又は母その他の親族と当該子との交流について必要な事項は、父母の協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、父又は母の請求により、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、父又は母の請求により、前二項の規定による定めを変更することができる。
4 前二項の請求を受けた家庭裁判所は、子の利益のため特に必要があると認めるときに限り、父母以外の親族と子との交流を実施する旨を定めることができる。
5 前項の定めについての第二項又は第三項の規定による審判の請求は、父母以外の子の親族(子の直系尊属及び兄弟姉妹以外の者にあっては、過去に当該子を監護していた者に限る。)もすることができる。ただし、当該親族と子との交流についての定めをするため他に適当な方法があるときは、この限りでない。
改正民法第306条(一般の先取特権)
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
1 共益の費用
2 雇用関係
3 子の監護の費用
4 葬式の費用
5 日用品の供給
改正民法第308条の2(子の監護費用の先取特権)
子の監護の費用の先取特権は、次に掲げる義務に係る確定期限の定めのある定期金債権の各期における定期金のうち子の監護に要する費用として相当な額(子の監護に要する標準的な費用その他の事情を勘案して当該定期金により扶養を受けるべき子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額)について存在する。
1 第752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
2 第760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
3 第766条及び第766条の3(これらの規定を第749条、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
4 第877条から第880条までの規定による扶養の義務
まず,夫婦の話し合いによる離婚,いわゆる協議離婚の際には,共同親権にするか単独親権にするかを夫婦で協議して決定する必要があります(改正民法819条第1項)。
もし夫婦の間で合意に至らない場合は,裁判所が親子関係などを考慮して決定します(同条第2項)。
すでに離婚が成立している場合でも,単独親権から共同親権への変更を申し立てることができる点も大きなポイントです。
面会交流について調停や裁判で取り決める際には,手続きの途中であっても裁判所が試行的に交流を促すことができるようにしています。
これは,別居や離婚によって離れた親子が早い段階で交流を持つことで,その後の面会交流をスムーズに進めることを目的としています。
さらに,父母だけでなく,祖父母などの親族も一定の条件を満たせば面会交流を求める申し立てができるようになります。
共同親権制度には,まだ大きな課題が残されています。
それは,家庭内でDVや虐待がある恐れがある場合です。
共同親権制度導入後,子どもに対して,または父母間にDVや虐待があった場合は,共同親権の行使が難しいと判断され,原則として裁判所の判断で単独親権にしなければならないとしています。
しかし,「DVや虐待といった事実はない」と否定された場合,決定的な証拠がなければ立証するのが難しいという点があります。
そのため,DVや虐待があると疑われている場合は,「親権者の定めが父母双方の真意であることを確認するための措置について検討する」と附則で定められています。
とはいえ,この「措置」の具体的内容は,まったくといっていいほど議論されていません。
協議離婚においてDV・虐待事案を共同親権の対象から排除する方策が十分講じられているとはいえない状況なのです。
本法律案のままでは,DVや虐待による支配・力関係の下,被害者の真意に反して,表向きは「合意型共同親権」を「選択」した協議離婚とされる事態が多発する恐れがあると指摘されています。
また,精神的・経済的なDVや過去のDVなど「物的証拠の提示が難しい場合に裁判所が適切に判断できるのか」と指摘する声もあるようです。
共同親権は,国としては親権をめぐる争いを防ぐことを期待しています。
また,離婚後も子が両方の親との関係を維持することで,子どもの健全な人格形成を期待する意見もあるようです。
実際に,欧米諸国では,面会交流をしなかった子は,自己肯定感の低下,社会的不適応,抑うつ等で苦しめられていることが分かっています。
そのため,子どもは両親からの愛情を受ける方が心身ともに健康に育つとの科学的知見に基づいているのです。
不仲の両親の離婚で「親の不仲を見なくてすむ」「緊張感のある生活から解放される」など,子にとってプラスな面が挙げられます。
また,先述でも少し触れましたが,養育費の請求についても新たな制度創設や権利付与がなされます。
改正案では,取り決めがなくても一定額の養育費を請求できる「法定養育費制度」が新たに導入されました。
さらに,養育費の支払いが滞った場合には,他の債権者よりも優先して財産を差し押さえられる「先取特権」が付与されることになっています(改正民法306条)。
そうなれば,養育費の請求がしやすくなって,未払いの問題が解消される点では,今回の改正でのメリットといえます。
その他,離婚時の親権争いが揉めにくい,育児での関わりが増える,面会の機会が増えるという点もメリットとして挙げられます。
親権者を決めるための調停や裁判が減り,離婚成立までの過程がスムーズになることが期待されています。
また,共同親権は両親が協力して子育てに取り組むため,子どもが両親の愛情を感じられる機会が増え,心身の健やかな成長も期待できます。
共同親権によって両親が子どもと関わる権利を持つため,面会交流もスムーズに行われやすくなるでしょう。
これにより,離れて暮らす親も子どもへの愛情を保ち続け,養育費の支払いが滞りにくくなることが期待されています。
しかし,共同親権になると,離婚したことのプラス面が損なわれるとの意見も挙がっています。
両親の関係が良好でない場合は,共同親権では親権の行使をめぐって双方が激しく対立し,子の利益を害することもあるとの指摘や,離婚後も共同親権を維持することで,子の福祉を害する親にまで権利が残ることになるとの指摘もされているのです。
この場合,子どもが板挟みとなり,精神的な負担が大きくなる可能性が考えられます。
また,これまでの単独親権の場合は,親権者が面会交流を拒否できるため,離婚によってDVや虐待から逃れることもできましたが,共同親権の導入により,離婚後もDVや虐待から逃れられなくなる懸念も実際には挙がっています。
共同親権を導入するにあたり,DVやモラハラの被害を受けた親子が危険にさらされないように,制度の整備や配慮が必要であると考えられます。
家庭裁判所が親権者や面会交流を決定する際に,最も重視するのは子どもの福祉であり,家庭裁判所のすべての判断はこの福祉に基づいて行われるといっても過言ではありません。
大切なのは「親権」も「面会交流」も,すべて「子の利益」のために決定・実施されるべきであって,親のためにあるのではないということです。
単独親権か共同親権かを選択する際にも,親の都合ではなく「どちらが子にとってより良いのか」という点で判断していただきたいと考えています。
改正民法ではこの点についても法律に定められましたので(改正民法第817条の12)こちらも参照ください。
第817条の12(親の責務等)
1 父母は、子の心身の健全な発達を図るため、その子の人格を尊重するとともに、その子の年齢及び発達の程度に配慮してその子を養育しなければならず、かつ、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない。
2 父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使又は義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない。
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