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辺野古転覆事故における責任の所在|弁護士が解説

『コトニ弁護士カフェ』2026年4月17日放送分

先月、沖縄県名護市の辺野古沖で小型船が転覆する事故がありました。

2026年3月16日、修学旅行中だった同志社国際高校の生徒たちが、「平和学習」という活動の一環で乗船していた小型船「平和丸」と「不屈」の2隻が転覆する事故が発生しました。
17歳の女子生徒1名と、「不屈」の船長が命を落とし、さらに12名以上の生徒らが重軽傷を負うという大変痛ましい事故でした。

転覆事故で思い出すのが、2022年の知床観光船の事故ではないでしょうか。
ずさんな安全管理が原因とされ、この観光船を運行していた会社の社長は業務上過失致死罪で起訴されましたが、今も無罪を主張し続けています。

繰り返される海難事故の背景には、何があるのでしょうか。
今回は、両事故の法的責任と、安全管理体制の問題について解説します。

知床観光船沈没事故を振り返る


2022年4月、知床半島沖で観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没し、乗客18名と船長、乗組員合わせて20名が亡くなり、乗客6名がいまだ行方不明となっています。

国の運輸安全委員会の調査報告書では、当該観光船の点検や保守整備が不十分だったこと、海況悪化が予想される中で出航したこと、途中で引き返す判断が遅れたこと、さらに有効な通信手段が十分ではなかったことなど、運航会社のずさんな安全管理体制が原因とされています。

観光船や遊漁船のように、お客さまの命を預かる仕事では、「無理をしない」「出航しない」という慎重な判断が求められますが、十分に機能していなかったことが、大きな問題だったといえます。

民法715条:従業員などの被用者の行為であっても会社が責任を負う「使用者責任」

知床の事故では、事故でお亡くなりになった船長の責任も問題となっていますが、その結果、この観光船を運行していた会社としての責任が追求されています。

民法715条には、「使用者責任」という考え方があり、従業員が仕事中に起こした事故については、会社側も責任を負うという考え方です。

また、運輸安全委員会の調査でも、悪天候が予想される中で出航したこと、無線の故障を放置していたことなど、会社側の安全管理の不備が指摘されています。
そのため、現場の船長の判断だけではなく、会社全体の安全管理体制そのものにも大きな問題があったと見られています。

会社法429条:役員等への損害賠償請求

一方、会社法429条では、社長などの取締役が、職務遂行にあたり重大な過失により第三者に損害を与えた場合、社長などの取締役個人が損害賠償責任を負うとされています。

知床の事故のように、安全管理の不備が重大な事故につながった場合、会社の社長や取締役が「なぜその判断をしたのか」「なぜ必要な安全対策を取らなかったのか」という点まで、厳しく見られることになります。

実際に裁判では、民事上の責任に加え、刑事上でも運航会社「知床遊覧船」の社長が、業務上過失致死罪で起訴されており、現在も釧路地裁で裁判が続いています。社長側が依然として無罪を主張している状況に対して、被害者のご家族からは強い怒りの声も上がっています。

知床遊覧船沈没事故については、過去の記事もご参照ください。

修学旅行中に発生した辺野古転覆事故:学校の責任は


今回の辺野古の事故では、修学旅行中に起きた事故ということもあり、学校側の責任を追求する声も多く上がっています。

現時点ではまだ海上保安庁や警察の捜査が進んでいる段階であり、責任の所在はまだ明確にはなっていませんが、学校活動の中で、生徒の安全を確保する義務を学校側が十分に果たしていたのかが争点になっています。

知らされていなかった「抗議船への乗船」という事実

今回の船については、旅行代理店を通さずに手配されていたうえ、運航していた「ヘリ基地反対協議会」という団体は、旅客運送に必要な「特定操縦免許」を取得していないとみられる業者だったとされています。

さらに、観光やレジャー用の船ではなく、辺野古の反対運動で抗議活動に使われているボートだったということですが、遺族の方の発言によると、保護者にも生徒たちにもそのような説明は一切なかったといわれています。
さらに、その日は波浪注意報が出ていた状況だったとされており、そうした中で生徒を乗せて出航させたことについても、その船舶の船長や「ヘリ基地反対協議会」での安全面の確認が十分だったのかが強く問われています。

教職員は乗船せず、救命胴衣の確認も不十分

抗議船という特殊な船への乗船に加え、修学旅行中の活動であるにもかかわらず、出航した船には引率の教職員が誰も乗っていなかったそうです。
さらに、救命胴衣の着用についても、生徒への指導や確認が十分に行われておらず、正しく装着できていない生徒もいたといわれています。

二転三転した事故後の説明

さらに保護者の不信感を強めたのが、事故後の学校側の対応です、事故発生後、緊急連絡先である学校に5時間以上電話がつながらなかった、あるいは詳しい連絡が週末まで十分に行われなかったなど、初動対応の遅れが指摘されています。

さらに、波浪注意報が出ていたことを学校側が把握していたのかどうかについて、説明が二転三転したともされており、保護者会でも強い批判が出ているようです。

様々な憶測が飛び交う中で、正しい声を届けようと、遺族の方がSNSで発信を始めており、大きな注目を集めています。そもそも平和学習や、抗議船に使われているボートに乗るなど、そういった説明は一切なかったと書かれていました。

私も遺族の方のnoteや投稿を読んだのですが、本当に胸が痛くなるばかりです。

▼辺野古転覆事故、ご遺族の記事
https://note.com/beloved_tomoka/n/nd0be0c700d87

責任の所在と損害賠償の行方

これから重要になるのが、損害賠償についてです。
船を運行した「ヘリ基地反対協議会」は、事故が発生した日に記者会見で謝罪の言葉を述べ、4月2日にも謝罪文をホームページに掲載しています。

学校側の対応については、事故後に保護者向けの説明会などが開かれたものの、責任問題や裁判などは、まだこれからの話になるでしょう。
保護者や生徒たち全員が辺野古での活動の詳細や、どんな船でどのようなルートを走行するのか、きちんと把握しない状態で、学校の判断を信じて船に乗ったのであれば、船を運行した団体だけでなく、学校側の責任も大きいのではないかと考えます。

事故当日の対応についても、修学旅行は学校活動の一環ですから、生徒たちが当該ボートに乗船する際に、学校側が求められる安全配慮義務を果たしていなかった場合は責任を負うことも予想されます。
特に今回は高校が公立学校ではなく、私立学校ですので、国家賠償法に基づく公務員としての責任ではなく民間人としての責任になりますので、当該教員個人の責任と学校の責任が問われることとなるでしょう。

ただし、2022年4月に起きた知床の事故が、2026年の時点で未だに裁判中であることを考えると、今回は運行団体と学校側と関係者が多いこともあり、すぐには決着がつかないと予想されます。

繰り返される悲劇から学ぶこと


知床の事故のときに、「どんな状況でも安全管理が最優先されるべきで、再発を防ぐため管理体制の見直しが必要」というお話しをさせていただきましたが、このような事故がまた起きてしまったことは、非常に残念です。

どちらの事故も、海が荒れる予報にも関わらず、出航してしまっています。
安全は、どんなに気をつけても、気をつけ過ぎることはありません。
「大丈夫だろう」という楽観的な予測は大変危険で、大きな事故が起きてから後悔しても遅いのです。

知床の事故もまだ裁判は終わっていませんし、辺野古の事故も責任の所在が明らかになるには、これから長い時間がかかると思います。
今後の動向に着目しながら、またブログで紹介したいと思います。

▼参考サイト
知床観光船事故から3年 「事故が起こった観光地」のいま 問われた「地域の責任」と新たな取り組み|TBS NEWS
17歳の女子生徒が 犠牲となった 「 辺野古 遊漁船 転覆事故 」「 お金を払ったから、安全に 楽しませてくれるのは“当然” 」という“考え方”の 弊害・ 多発している マリンレジャー事業者の事故!|Yahoo!ニュース
あるはずだった救命ボート 知床沈没事故、被告社長の「ウソと保身」|毎日新聞

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