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サンクトペテルブルク国際リーガルフォーラム及び日露法律家協会の設立について<ボストーク48号より>

1.始めに


私は2014年に弁護士として開業して以来,我が国でも数少ないロシア法に関心を持つ弁護士として,2019年まで毎年欠かさずにサンクトペテルブルグ国際リーガルフォーラム(St.Petersburg International Legal Forum以下,「SPILF」と略します。)に参加してきました。

そして,2013年に日本弁護士連合会とロシア連邦弁護士会との間で友好協定が締結されたことをきっかけに,このフォーラムの期間中に日弁連から出席する前副会長とロシア連邦弁護士会会長との間でバイ会談が行われ,両国弁護士会の友好及び協力関係を深めてきました。

日弁連を通じての活動にとどまらず,2017年にはSPILF期間中に,日本側は日本商事仲裁協会の川村明弁護士を代表とし,ロシア側はエレーナ・ボリセンコ元司法副大臣を代表として,日露法律家協会を正式に立ち上げました。

長友もその発起人の一人として参加しました。
以下に,SPILF及び日露法律家協会について詳しくお話させて頂きます。

2.サンクトペテルブルグ国際リーガルフォーラム(SPILF)について

SPILFは2011年に設立された国際フォーラムです。

まさにロシア法曹界の威信をかけて立ち上げられたともいうべきものです。毎年,期間は5月中旬の火曜日から土曜日まで。その期間中の水曜日から金曜日の実質3日間に、民事・刑事・商事・国際仲裁・家族法など、多岐にわたって様々なセッションが開かれます。

このフォーラムについては知らない方も多いと思いますが,実は知る人ぞ知るなかなか大規模なフォーラムで,毎年、世界各国から1000人近い法曹関係者が参加しています。

その中には,各国の大臣クラスの方々も含まれており,実はIBAやLAWASIAにも決して引けをとらないレベルのフォーラムです。

しかしながら,日本ではまだ知名度が低い状況です。3年前に日露弁護士会間で友好協定が締結されたことを受けて,日弁連からは前副会長と数名の弁護士が参加するにとどまっていました。

また、日弁連から派遣される弁護士以外でも,もっぱら東京圏や大阪・名古屋などの大都市の弁護士が数名参加する程度で,あとは,その他の民間企業や銀行の方などが参加しているくらいでした。

北海道からは,これまで私がもっぱら単独で参加する形となっていました。

ロシアで開かれるだけあって,ロシアに関する話題を中心にしたセッションが多いのですが,それだけにとどまらず,世界各国の法曹関係者がそれぞれの国の事案を紹介する良い機会にもなっています。

「国際フォーラム」という言葉通り,ロシアだけではなく世界的規模の広い知見を得る良い機会でもあるのです。

2017年のフォーラムでは,日本とロシアの経済協力関係を法律家の立場から検討するセッション(”The sun also rises” – Assessing new opportunities in the face of rising Japanese investment)が開催されました。

このセッションでは,日本商事仲裁協会の川村弁護士,元日弁連副会長の幸寺弁護士,早川弁護士,松嶋弁護士,そして長友が日本側のパネリストとして出演し,日露間の投資や貿易をいかにして活発化させるかを法律家の立場から議論しました。

長友からは特に「北海道とロシアは地理的・歴史的に関係が深いこと,北海道とロシア極東地域の経済協力を活発化させるためには紛争解決や決済条件の改善などが不可欠であること」を話させて頂きました。

そして,フォーラムの最中にも様々なイベントが行われ,セッション終了後は,毎晩大がかりなパーティーが開かれます。そのように開かれる盛大なパーティやイベントも注目を集めています。

例えば,オープニングセレモニーではコンサートやオペラなどが上映され,繁華街を貸し切ってのストリートパーティなども開催されます。

また最終日のパーティでは,美術館や工場などを貸し切って仮装大会のような催しが行われ,ロシアの法曹関係者はもちろんのこと,世界各国の法曹関係者と仲間になれる良い機会となっています。

このフォーラムに参加する日本の弁護士が少ない理由として,日露間の歴史的・政治的な問題があるかと思いますが,やはり地理的に遠いことと,参加費用が高額なことも挙げられると思います。

確かに,このフォーラムに参加するには交通費なども含めた総費用として50万円ほどかかり,期間はおおむね1週間を要します。

しかしながら,特に費用の面については,日弁連も国際フォーラムへの弁護士派遣を推進しており,若手弁護士に対して最大20万円までを日弁連が補助する制度があります。

是非この制度を活用すると良いかと思います。

また,フォーラム参加を通じて多くのロシア人法律家と知り合いになり,将来的な日露の法律紛争に関して有用な情報を得ることができるなど,お金や時間以上の対価が得られることは間違いありません。

特に北海道の弁護士にとっては,北方領土,サハリン,極東ロシア地域に近く,極めて有益な機会であると感じます。是非,一人でも多くの方が来年の同フォーラムへの参加をご検討いただければ幸いです。

3.日露法律家協会について

2013年に日本弁護士連合会とロシア連邦弁護士会との間で友好協定が締結されたことをきっかけに,日弁連とロシア連邦弁護士会間の交流が活発化していきました。

その中で,私を含めた日本国内のロシアに関わる弁護士を中心として,日弁連を通じての活動にとどまらず,ロシア側の弁護士との交流を活性化しようという動きが出てきました。

その動きを受けて,SPILFの理事会会長であるエレーナ・ボリセンコ元司法副大臣から,2014年のフォーラム期間中に日本企業とロシア企業との間に生じる紛争を解決する専門機関として,「露日商事仲裁センター」を設立したいとの提案がなされました。

また、2016年には、両国の法律家で構成される協会を設立して、両国間の仲裁や法律交流を推進しようとの提案がありました。

ボリセンコ前法務副大臣の提案に応える形で、川村明日本仲裁人協会理事長が中心となり、2016年3月、東京において、国際商事仲裁制度の利用促進を目的としたシンポジウムが日露共催の形で開催されました。

同年10月には、日本弁護士連合会とロシア連邦弁護士連合会との共催で、日露共同セミナー「ロシア法務の最前線」と題する会合も開催され,そこではビジネス法・国際仲裁法・家族法が議論されるなど、両国間における法律分野の交流は着実に進んできていました。

そこで,それまで両国間で積み重ねられてきたものを将来につなげ、さらなる関係発展を目指して、2017年のSPILF期間中に次のような動きがありました。

日本側は日本商事仲裁協会の川村明弁護士を代表とし,ロシア側はエレーナ・ボリセンコ元司法副大臣を代表として,有志法律家により設立総会が執り行われ、日露法律家協会が正式に設立されました。

長友や,札幌からは平尾功二弁護士が発起人として参加しました。(出典:日露法律家協会Webページ)

その後,日露法律家協会はSPILF期間中を定例会として,ロシア側代表が日本に来るタイミングや川村明代表がロシアに伺うタイミングなどで,都度総会を開催し,日露法律家間の交流を深めてきました。その活動記録は日露法律家協会のWebページに記録されています。http://jrlc.jp/

4.新型コロナ拡大後

ところが,2019年末から始まった新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大のために2020年開催予定の記念すべき第10回SPILFは中止となりました。

正確には,人々が集まって行うフォーラムは中止となったのですが,「St.Petersburg International Legal Forum 9 1/2」と題して,インターネット上の会議が開催される形にとどまりました。

毎年,このフォーラムに参加して既に友好を深めているロシア人弁護士との交流や世界各国から集まる法曹家との交流,素晴らしいイベント,大好きなロシアの空気を堪能することを楽しみにしていましたので,とても残念に思いました。そして翌年のフォーラム開催を期待していました。

しかしながら,新型コロナウイルス感染症は翌年もおさまらず2021年のフォーラムも中止になり,「St. Petersburg International Legal Forum 9 3/4」というインターネットイベントが開かれるにとどまりました。

そのあおりを受けてか,日露法律家協会の総会も2年近く開催されておらず,ついにロシア側のWebサイトが閉鎖となってしまったのです。

新型コロナウイルス感染症のために大切な隣国であるロシアとの交流が止まってしまうのは非常に残念であるだけでなく,このような状況の中では日露間の経済活動も縮小してしまう恐れがあります。しかしこのような状況であっても,経済活動は止めることは出来ません。

そのため,貿易上のトラブルに限らず,今年の紋別沖の船舶の衝突やサハリンでの拿捕事件なども含め,現にトラブルが発生しております。法律家の役割が無くなるどころか寧ろ重要になってきているともいえるでしょう。

新型コロナウイルス感染症は,いずれ過ぎ去っていくはずです。そのときに,何も準備をしていない状況にとどまるのではなく,日露間の法律家が協力して未来を向けるよう今後も友好を深めていきたいと考えています。

5.ロシアとの交流で得たもの

ロシアには弁護士になる前にも,何十回も訪れていました。

確かにプライベートな側面もありましたが,主として政府の仕事で行っていたので,国益を背負って,いつもどちらかといえば「ロシアと交渉に行く」ような気持ちでした。

いかにしてロシアから得るか,国際舞台で協力してもらうか,そのような感覚でした。

弁護士になって1年目に単独でサンクトペテルブルグ国際リーガルフォーラムに参加しました。

その際,たまたま日弁連の代表グループに入れてもらいましたが,そこではロシア人弁護士との交流は交渉相手ではなく,「仲間」という感覚での付き合いになっていました。

一人の弁護士として,ロシア人の弁護士たちと交流し,仲間として日露間の法律問題に対処するという感覚でした。どちらが得をするというより,一緒にWinWinの関係を創っていこうという関係でした。

サンクトペテルブルグ国際リーガルフォーラムには,それから毎年参加しました。ある意味,日本の弁護士の代表の一人として,参加するようになっていました。

ロシア人弁護士の知り合いや友人も増えてきて,個人として名前も覚えてもらうようになり,発表者の一人としてフォーラムで発表する機会も得られました。

このフォーラムに参加したおかげで,日露法律家協会を立ち上げる創立メンバーにもなり,今では日露間の架け橋となる法律家として活躍することができるようになりました。

日露法律家協会では毎年どちらかが往来する機会を持つようにして,お互いが訪問するときはいつも大歓迎をするようになっています。私は個人的にロシアが大好きなので,ロシアでも日本でも,ロシアの友人たちと酒を飲みながら両国の未来を話すことがとても楽しいと感じております。

これらの経験を通じて,例えば北海道の企業とサンクトペテルブルグの企業を繋げる仕事を引き受けたことがあります。また,サンクトペテルブルグの日本料理チェーンに北海道のシェフを紹介し,日本料理メニューを新規開発するサポートなども行いました。

それから会議期間中に,サンクトペテルブルグ市内のタイヤキ屋さんをたまたま訪問し,Youtubeで紹介したところ,思った以上に多くの人達に見てもらえたということがありました。

これからはもっと専門性を高めて,サンクトペテルブルグ国際リーガルフォーラムを通じて日露間の友好を広げ,そして深めていかれるような立場になりたいと考えております。

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※本記事は、NPOロシア極東研が発行する機関誌『ボストーク』48号に掲載された長友隆典弁護士のコラムを、発行者の使用許可のもと転載しております。

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