
「来月から家賃を5万円値上げします」
そんな通知が突然届いたら、驚いてしまう方がほとんどではないでしょうか。
都心を中心に賃料が急上昇する中、長年住み慣れた部屋の家賃を大幅に引き上げられ、困惑する入居者が増えています。
しかし、貸主から値上げを通告されたからといって、必ずしもすぐに応じなければならないわけではありません。
今回は、家賃値上げをめぐる法律のルールと、借主が知っておくべき対処法について解説します。
▼参考
東京都の賃貸マンション賃料相場|LIFULL HOMES 住まいのインデックス

春といえば引っ越しシーズン。進学や就職、転勤などで、新しいお部屋を探している方も多い時期だと思いますが、最近のニュースでも、都心を中心に賃貸アパートやマンションの家賃が急激に上がっているという報道がありました。
都心部では不動産価格の高騰が続き、それにともなって、賃料の高騰も見られます。
この10年でずっと上昇傾向にはあったのですが、特にこの3年は急激に上がり、都内の標準的な物件ではこの3年で平均13.86%も上昇したそうです。
引越しをして新たに賃貸借契約を結ぶ場合は、最初から高い家賃に納得するしかないかもしれませんが、長年住んでいる住まいで、突然賃料の値上げを通告されるケースも増えています。
たとえば2月中旬の報道では、これまで月額15万円だった家賃が、更新のタイミングで22万円に値上げされると通知されたというニュースがありました。
入居者の方も、最近の物価上昇は感じているので多少の値上げであれば理解できると話していましたが、さすがに数万円単位の値上げとなると、生活への影響も大きく簡単には受け入れられないという状況だったようです。
▼参考
「月額15万円→22万円」家賃大幅値上げに困惑──法的対策、今後の見通しは?|Yahoo!ニュース
賃料上昇の原因としては、建築資材の価格の上昇や人件費の増加、さらに管理費や修繕費などのコストが全体的に上がっているので、賃貸物件の経営コストも上昇しているという事情があります。
また、最近は「定期賃貸借契約」という契約形態も増えているようです。
これは一定期間で契約が終了し、その後は新しい契約を結び直す形で、従来の「更新」とは異なる契約形態になります。
そのため、契約を結び直すタイミングで家賃が上がりやすいということもあるようです。

賃貸借契約では、契約の途中であっても、事情の変化によって賃料の増額を求めることができる場合があるとされています。
借地借家法32条では、土地や建物の賃料について、周辺の家賃相場が変わったり、固定資産税などの負担が増えたり、あるいは経済事情が変化した場合などには、当事者が賃料の増額や減額を請求することができると定められています。
つまり、物価の上昇や周辺相場の変化などによって「今の家賃が現在の状況に合わなくなった」と判断される場合には、貸主が賃料の見直しを求めること自体は、法律上認められているということです。

家賃値上げの通知が届いても、まずは冷静になりましょう。
貸主の権利は「請求」であり、一方的な変更を意味するものではありません。最終的には双方の話し合いで決めることになります。
民法601条では、賃貸借契約を「当事者の一方が物を使用・収益させ、相手方が賃料を支払うことを約束する契約」と定めています。合意によって成り立つ契約である以上、内容変更にも原則として双方の合意が必要です。そのため、相談なく突然「来月から値上げ」と言われても、必ずしも従わなければならないわけではありません。
通知を受け取ったら、まずは以下のポイントを中心に現状の確認を行いましょう。
| 確認事項 | 内容 |
| 契約書の再確認 | 賃料改定に関する特約や条項があるかチェックする |
| 値上げ理由の妥当性 | 通知書に記載された理由が適切か判断する |
| 周辺相場の調査 | 駅からの距離、面積、築年数、構造などが同程度の物件と比較する |
調べた結果、値上げに納得がいかないのであれば交渉も一つの手段です。
単に拒否するだけでなく、以下のような着地点を探ることでスムーズに解決する場合があります。
このように、根拠を持って話し合うことが大切です。
借主がどうしても値上げに納得できない場合には、基本的にその要求をそのまま受け入れる必要はありません。
賃料の変更というのは貸主が一方的に決められるものではなく、貸主と借主の合意によって決まるものだからです。
そのため、値上げの理由に納得できない場合には、「裁判所で増額が認められるまでは応じない」という姿勢で、これまで通りの家賃を支払い続けるという対応をとることができます。
もちろん、貸主が納得せず、裁判所に賃料増額を求める手続きを申し立てる可能性もあります。
この場合は、借地借家法32条と民事調停法24条の2に基づき、貸主は裁判をする前に話合いである「調停」を申立てる必要があります。
これを調停前置主義といって、調停をしないで裁判することはできないのです。そして調停がまとまらない場合は、貸主は裁判をすることになります。
ただし、これまでの家賃が相場と比較して極端に安すぎるなど、特殊な事情を除き、実際には調停や裁判で借主が大きく不利になるケースは稀といえます。
裁判所は、周辺の家賃相場や建物の状況、これまでの賃料の経緯などを総合的に判断します。
そのため、貸主が主張する金額がそのまま認められるとは限りません。
▼参考
借地借家法第三十二条|e-GOV
民事調停法24条の2 e-GOV
借主が家賃の増額を受け入れないと退去を求めたり、訴訟をちらつかせたりするケースもあります。
例えば、昨年2025年の東京地裁の裁判でも、家賃の値上げを巡るトラブルが争われたケースがありました。この事案では、貸主が「周辺相場より安い」として家賃の値上げを求めていましたが、借主が応じなかったため、駐車場の利用を排除するなどの対応を取ったことからトラブルになりました。
裁判所は最終的に、家賃については当事者間で合意していた金額を確認したうえで、貸主が駐車場の利用を一方的に排除した行為については、違法な実力行為に当たると判断しました。そして、貸主に対して弁護士費用や不当に引き落とされた駐車場代などの支払いを命じる判決が出されています。
このように、家賃の値上げを巡る問題では、貸主が値上げを求めること自体は法律上認められている一方で、その進め方や対応が適切でなければ、逆に違法と判断されることもあります。
▼参考
拒否・交渉はできる? 家賃の値上げを通告されたときの対処法|LIFULL HOMES
賃料増額請求の調停完全ガイド~手続きの流れから結果による対応まで~|弁護士の部屋
【弁護士が解説】相次ぐ家賃値上げトラブル 拒否するとどうなる?法的に有効?|Money Canvas

住まいという生活の基盤が揺らぐことは、精神的にも不安になるでしょう。
契約書の内容や法律の仕組みを知っておくだけでも、いざというときに慌てず対応できると思います。
貸主と借主の関係は長く続くものですから、できるだけ話し合いで解決していくことが望ましいです。
貸主が強硬な対応をとるなど、話し合いが思うように進まない場合や、裁判所の手続きが必要な場合は、はやめに弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
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