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台風による損壊があった場合について|​​民法717条第1項及び2項の規定

『コトニ弁護士カフェ』2022年8月26日放送分

遅くれてやってきた今年の台風シーズン。
近年はゲリラ豪雨のような異常気象が増えたり,台風の影響もこれまでにないぐらいの規模になったりするケースも考えられます。
今回はそんな台風シーズンにまつわる自然災害による損壊について解説します。

近年の台風事情|地球温暖化の影響?

「台風は来ない」と巷で言われている北海道ですが,最近では台風8号が接近して,各地で強風や大雨になりました。
私は九州出身なのですが,台風は毎年の恒例行事。
台風の力によって,家の瓦がまるで紙のように飛んだり,電柱が倒れたり,風で信号機があっちむいたり,車が転がったりもします。
それはもう,北海道の方では想像が出来ないくらいの勢いでしょう。
私の実家では隣の家の屋根にあった太陽熱温水器が飛んで,私の実家の壁に激突して壁が崩壊したことがありました。
どれも大袈裟ではなく,実際に目で見てきたものです。
今後は,地球温暖化の影響で北海道でもそのような台風が来るかもしれません。

自然災害による二次被害|法的責任は?

台風となるとやはり強い風と雨。
もちろん危険な場所には近づかない,自宅などの安全な場所で待機するなど,命を守る行動が最優先です。
しかし,強風のために家が破損したり,近所の家の木が折れたり、そういった二次被害も考えられます。
自然災害による被害を受けた場合の法的責任について,以前もラジオでお話したことがあるのですが,自然災害は当然,自然現象によってもたらされます。
当然ながら,その損害賠償を「自然」に請求することはできません。
ただし,例えば市民が安全に暮らす上で危険性があるにも関わらず,行政が対処していなかったことが原因だと認められた場合などは,行政の責任になる可能性もあります。
雨が多い地域であれば,「このぐらいの雨量でこの川はこのぐらい増水する」「氾濫を防ぐためにはこの場所に○メートル以上の堤防が必要」といったように,自治体は市民の安全を守るために,専門家の調査をもとに予防策を実施しなければなりません。
予測できていた損害を防ぐ施策をしていなかった場合,それは行政の責任になります。
行政の予測範囲を超える大災害が起こってしまった場合はそうはなりませんが,自治体の管理や予防策が十分であったかどうかを判断するのはかなり難しく,高い専門性が求められます。

台風や自然災害の影響で受けた損壊について

自然災害の影響で,例えば隣の家の木が折れてぶつかって,自分の家の窓が割れてしまった場合,庭の木というのは原則として木が生えている土地の所有者が所有権を持つため,その木が飛んでいって誰かの家を破壊してしまった場合,その木の所有者,つまり木が生えていた土地の所有者の責任になると思われるかもしれません。
しかし,実際に台風など自然災害の場合はやはり不可抗力のため,賠償責任はないと判断されるケースがほとんどです。
その場合は,窓ガラスが割れたなど家が破損してしまった本人の火災保険で対応することになります。

自然災害で賠償責任が追及されるケース

賠償責任はないと判断されるケースが「ほとんど」ではありますが,場合によっては賠償責任が追及されるケースもあります。
その場合とは,以下の民法が該当します。


1.土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2.前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3.前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)WIKIBOOKS

​​まず,民法717条とは,土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは,その工作物の占有者又は所有者は,被害者に対してその損害を賠償する責任を負うというもの。
しかし,これは無過失責任といって,仮に所有者が「自分は管理責任を尽くしていた」と主張しても,責任を免れることはできません。
そして,「栽植又は支持に瑕疵がある場合」というのは,端的には「竹木が通常有すべき安全性を備えていない場合」をいいます。
例えば,木の幹が腐っている,幹が空洞になっている,枝や幹にひびが入っている,既に倒れそうに傾いているなどです。
そして,このような竹木の所有者,すなわち竹木が生えている土地の占有者又は所有者は,このような竹木が人への危害を及ぼすことのないよう維持・管理する責任があるということで,責任を負います。
ちなみに,過去には天然木でも自分の敷地に生えていて,それが倒れた場合に損害賠償が認められたケースもあります。
具体的な例としては,国立公園の遊歩道沿いにある天然のブナの木が倒れて,観光客にぶつかって怪我をした事件でも,国の責任を認めた事例も。
また,これは有名なので知っている方も多いと思いますが,2014年に富山県で道路わきの巨木が倒れてきて,トヨタ2000GTというクラシックスポーツカーに当たって大破した事件で,管理者である富山県が1787万円を払うという和解が成立したこともありました。

日頃から他人へ損害を防止すること

実際に台風が来て木が折れてしまってから「あの木はもともと折れそうだった」「日頃からちゃんと管理していなかったからだ」というのを立証するのは難しいでしょう。
近所の家の人の木を見て「あの木は管理が悪くていつか折れそうだ」と思って写真を撮っておくような人もなかなかいません。
そこで,倒れた後に上記のような瑕疵を立証することになりますね。
例えば,倒れた木の幹の腐っていただとか,空洞だったとか,根株が不足して支持根が全くない状態であったとか,近隣の同様の木は倒れていないのにその木だけが倒れていたとか,などから判断することになりますね。
事実,そのような事後の状況証拠から「栽植又は支持に瑕疵がある場合」が判断された裁判例もあります。

台風や大雨などはいつやってくるかわかりませんから,自分の土地に生えている竹木がどのような状態なのか?腐っていないか,倒れそうでないか,などを日頃から確認して他人への損害を防止する必要があります。

ラジオ番組『コトニ弁護士カフェ』
毎週金曜日10時30分から三角山放送局で放送中!
隔週で長友隆典護士&アシスタントの加藤がお送りしています。
身近な法律のお話から国際問題・時事問題,環境や海洋のお話まで,様々なテーマで約15分間トークしています。
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三角山放送局 reqest@sankakuyama.co.jp または当事務所のお問い合わせフォームでも受け付けております。

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