10月13日のラジオ放送では「パワハラ」をテーマにお話させていただきました。
今年は某国会議員の秘書への暴言がニュースでも話題になりました。パワハラという言葉はよく聞きますが,では実際にどんな言動がパワハラに該当するのでしょう。
以下の3つの例をご覧ください。
※AがBの仕事上の直属の上司という設定で,BがAから指示された仕事のミスをしたときに,AがBに対して,
(1)「このハゲー!違うだろー!」と大声で怒鳴りつける。
(2)「また同じミスか?しっかりしてくれよ,期待のイケメン!」と大声で注意する。
(3)「こんな簡単な仕事もできないから,君は彼女ができないんだよ。やっぱり〇×大卒はダメだねぇ」
と静かに言い放つ。
まずはご想像のとおり,(1)はパラハラに該当するように思われますが,どうでしょうか?
(2)は大きな声で注意はしていますが,「イケメン!」という言葉は一般的には悪言と捉えられる言葉とは感じられず,該当しないようにも思われます。
そして(3)については,大きな声で怒鳴っているわけではないので,パワハラにはならないようにも思われますがいかがでしょうか?
正解に行く前に,まずはパワハラとは何かということから説明しましょう。
話題になった某事件の報道の仕方を見聞すると,「パワハラ=大声で怒鳴りつける」というイメージがあるかもしれませんが,実はそうではありません。
厚生労働省の定義では「同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」(平成24年3月15日「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」)とあります。つまり簡単にいうと,たとえば上司と部下といった職務上優位性のある関係の中で,業務の範囲を超えて,相手を否定するような言動をする,ということになります。
この定義を踏まえて,上記の(1)から(3)を検討してみたいと思います。
(1)の場合,「違うだろー!」と怒鳴るだけでは,業務上の指導として捉えることもできますが,「このハゲー!」というのは,業務上関係が無い上に,相手の容姿を否定するような言葉ですよね。したがって,「違うだろー!」と怒鳴るだけではパワハラにならなくとも,「このハゲー!」が加わることでパワハラ行為となってしまいます。ただし,「違うだろー!」だけでも,その声が異常に大きかったり,バンバンと机を叩いたりして,精神的・身体的苦痛を与えるものであればパワハラに該当する可能性もあります。
それに対して,(2)の「しっかりしてくれよ,期待のイケメン!」という言葉はどうでしょうか。「イケメン」と呼ぶのは,世間一般的には相手を否定する言葉ではありません。また,「期待の」ということから,もっと頑張ってほしいという業務上の意図を感じますから,業務指導の範囲内とも考えられます。その結果,社会通念上相当かどうかを一般人の基準で判断した場合,こちらはパワハラには該当しない可能性が高いでしょう。端的に述べるなら,言われても精神的な苦痛を与えることにはならないだろうということです。
逆に(3)の場合,「だから彼女ができない」,「〇×大卒はダメだ」これは完全に業務範囲を超えていますし,上司の個人的な偏見によって相手の人格を否定,言われた者に対して精神的な苦痛を与えるような言葉です。言い方は静かでもパワハラに該当すると考えられます。
今回は分かりやすいように極端な例を挙げましたが,実際の事例では,パワハラかどうか判断するのは簡単ではありません。お悩みの際には,ぜひ弁護士などの専門家にご相談ください。
11月10日の放送では,実際にパワハラ被害にあってしまったときにはどのような法的手段をとることができるのか,また具体的な例を挙げてお話させていただきたいと思いますので,ぜひ聴いてみてください。
(次回10月27日は,特別企画として22日の衆議院議員選挙結果についてお話したいと思っています!)
続編:『もしもパワハラ被害に遭ってしまったら』の記事はこちら
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