スキー場での事故の法的責任について,シリーズでお伝えしています。
人と人が衝突した場合,その責任の所在はどのように判断されるのでしょうか?
今回は「人と人との衝突事故」について,実際の判例をご紹介しながら解説いたします。
長友隆典弁護士(以下略): まずは結論からお話します。
スキー場での人と人との衝突事故の場合,
原則として「斜面の上側にいる人:上方滑降者が,前方つまり下側にいる人:下方滑降者に注意を払う義務がある」
ということを覚えておいていただきたいです。
【事件の概要】
平成3年に北海道のニセコのスキー場で起きた事故。
Bさんがパラレルで大きな弧を描いて滑降していたところ,
Aさんが上方からBさんよりも速いスピードで小さな孤を描いて滑降してきて,Bさんに衝突。
Bさんは全治3か月の怪我で入院した。
BさんはAさんに対し損害賠償を請求した。
札幌地裁と札幌高裁では「下方を滑降しているBさんを発見し得た可能性は否定できないが、Aさんが他の滑降者に危険が及ぶことを承知しながら暴走し又は危険な滑降をしていたとは認められない」「Aさんには本件事故の発生につき過失はなかった」として,請求を棄却しています。
それが最高裁では「スキー場において上方から滑降する者は、前方を注視し、下方を滑降している者の動静に注意して、その者との接触ないし衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を負うものというべき」として,Aさんの過失を認めました。
一審・二審と,最高裁での判決が大きく分かれた事件です。
「上方にいる滑降者が下方者に注意する義務がある」と示したこの判決は,その後のスキー事故の責任について基準となる判例となりました。
原則として上方滑降者に注意義務があるということは,スキーやスノーボードをする皆さんはぜひ覚えておいていただきたいと思います。
―最高裁で判決が覆ったということは,スキー場での事故の責任を判断するのはそのぐらい難しいということですね。
もちろん例外もあって,たとえばスノーボーダーが複数でゲレンデの真ん中あたりで座り込んでいるのをたまに見かけます。
そのように合理的な理由がなくコースをふさいでいた時に,上から突っ込んできてしまった場合は,コースをふさいで座っていた側にも責任があるかもしれません。
スキーやスノーボードは危険が伴うスポーツです。
誰かに怪我をさせないように,自分が怪我をしないように,
一人ひとりが細心の注意を払って,自分の技量に応じて安全に楽しみたいですね!
―ありがとうございました。
次回の『コトニ弁護士カフェ』は, 2020年2月28日放送です!
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