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関鯨丸の稼働とナガスクジラ捕鯨再開、日本の捕鯨はどうなる?

『コトニ弁護士カフェ』2024年7月19日放送分

今回も前回に引き続き,「捕鯨」に関しての話題です。

▼前回の記事はこちら

本来船の寿命は通常30年といわれる中で,修繕を繰り返しながら36年間にわたって日本の捕鯨を支えてくれた「日新丸」。
2024年5月から新しい捕鯨母船「関鯨丸」が操業を始め,6月には仙台港にニタリクジラ等を水揚げしています。
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さまざまな最新設備を備えた関鯨丸の稼働開始と、今回のナガスクジラの捕鯨再開を受けて、日本の捕鯨は今後どのような発展が期待されるのでしょうか?

36年間、日本の捕鯨を支えた「日新丸」

引用:(一財)日本鯨類研究所「くじらタウン」より

船の寿命は通常30年といわれる中で,「日新丸」は修繕を繰り返しながら36年間,日本の捕鯨のために頑張ってくれていました。
毎年7億円もの修繕費がかかっていたとのことで,修繕するだけで莫大な費用がかかっていたようです。

2002年頃,私が水産庁で捕鯨の担当をしていたときに,捕鯨の科学調査について国際的に協力しようという提案をしました。
そして監督官として,ロシアと韓国の鯨類学者と一緒に3週間,日新丸に乗船して捕鯨を目の前で体験したことがあります。
日新丸の上では,大きな鯨を解体し,科学調査のためのサンプルなどを採集・計測し,科学調査で使わない部位をカット・冷凍するということをやっていました。

私は監督官なので,実際にはそういう作業にはあたらなかったのですが,業務として確認作業をさせてもらいました。
捕獲した鯨肉を船の上で刺身やステーキとして美味しくいただいたことも,とても懐かしい思い出として残っています。

日新丸の後継船「関鯨丸(かんげいまる)」

引用:(一財)日本鯨類研究所「くじらタウン」より

捕鯨をおこなっている会社である共同船舶が,日新丸の後継船として,約75億円をかけて「関鯨丸(かんげいまる)」を建造しました。
2024年3月29日に竣工した関鯨丸は,同年5月21日に下関港を出航し,23日に東京港に到着しました。
31日には千葉の銚子沖で,体長13mのニタリクジラを初捕獲しています。
関鯨丸は現存する世界で唯一の捕鯨母船といわれており,技術の進歩なども踏まえ,先代の日新丸からさまざまな点が変更されています。

大きな鯨も引き上げられる仕組み

先代の日新丸は,捕鯨母船としては3代目にあたるのですが,もともとは捕鯨のためにつくられたのではなくて,魚を獲るためのトロール漁船でした。
そのため,鯨を引き上げるスリップウェーと呼ばれる搬入口が35度と急な角度のため,大きな鯨を引き上げることができませんでした。
関鯨丸ではこのスリップウェーの角度を18度にして,大型鯨を上げられるようになっています。
さらに,日新丸はディーゼルエンジンで動いていましたが,関鯨丸の主エンジンが電気推進に変わり,スリップウェーが18度になったこともあいまって70トン級の大型鯨も引き上げられるようになりました。

広々とした上甲板で大型鯨もそのまま解体可能

これまでの捕鯨船では屋外の甲板で引き上げた鯨の解体作業がおこなわれていましたが,関鯨丸には船内にバスケットボールのコートを縦に2つ並べたほどの広さの専用スペースが確保されています。
上甲板は床が巨大なまな板のようになっているので,そのまま解体することができます。
天候の影響を受けることなく作業できることから,衛生面や職場環境の改善にもつながるでしょう。

冷凍用コンテナ40基と保冷庫の搭載で効率化

関鯨丸には冷凍用コンテナ40基と保冷庫が搭載されており,鯨の肉の種類や部位ごとに細かく温度設定ができるようになっています。
さらに,鯨の解体・切り分け・真空パック・箱詰め・凍結・冷凍保管までの一連の流れを、海上でおこなうことができるようになったのです。
解体から真空パック・冷凍までを一気にできるため,今後はこれまでよりも新鮮な鯨肉が多く普及していくかもしれません。

関鯨丸の稼働で変わる日本の捕鯨

今回,鯨の中でも大型種類であるナガスクジラの捕獲が認められるようになったことと,捕獲されたナガスクジラを引き上げて解体できる関鯨丸による操業が始まったことにより,トータルとして市場に鯨の流通量が増えるだけではなく,これまでアイスランドからの輸入以外では市場にほとんど流通していなかったナガスクジラという希少な鯨肉が流通していくと考えられます。

2019年に調査捕鯨から商業捕鯨に切り替わった直後は,市場規模の縮小や値崩れなどにより,共同船舶は7億円以上の赤字になった時期もあったそうなのですが,その後,鯨肉のPRなどに力を入れて単価をあげることにも成功し,鯨肉への関心が少しずつ回復している状態といえます。

もちろん捕獲できる頭数は科学的根拠によって決められているので,鯨の数が減らないようにしっかりと管理していくことは必要ですが,鯨の市場は今後伸びていくのではないでしょうか。

反捕鯨国との関係性はどうなる

一方で,捕鯨活動に関して良く思っていない国,つまり捕鯨反対国も多いのが実情です。
日本が脱退したIWC加盟国の半数以上が捕鯨に反対している状態です。

▼詳しくはこちらから

以前は南極海に調査捕鯨で行っていましたが,IWCを脱退し,商業捕鯨を再開した後は,南極海などで行っていた調査捕鯨をやめています。
国際社会からの反発を避けるためにも,日本のEEZ内での商業捕鯨再開を表明し,日本近海の北西太平洋に限定して捕鯨活動をしています。

新たに捕鯨可能となったナガスクジラを入れて4種類の鯨を捕獲できるようになりましたが,捕獲するエリアが日本のEEZ内であり,南極海や公海ではないこと,捕獲可能頭数も科学的に定めていることから,現段階では外国の反捕鯨団体からの表立った妨害や抗議はないようです。

特に,日本が調査捕鯨に関する国際司法裁判所での裁判で負けてから,南極海での捕獲調査をやめたこともあり,近年は強い抗議も少なくなったようです。

鯨肉をもっと身近に

現代の若い人たちや子たちにとっては,鯨肉というのは馴染みのない食材です。

今後,関鯨丸によって美味しいと言われているナガスクジラの捕獲もおこなわれ,捕獲量が増えれば,鯨の流通量と消費量も増えていくのではないでしょうか。

水産庁は以前から鯨肉のプロモーションに力を入れており,さまざまな都道府県でも積極的なPRを続けています。
捕鯨の部屋:水産庁

和歌山県,長崎県,山口県など,鯨とゆかりの深い地域では,鯨の魅力を伝えるための取り組みが続けられています。

我が国の組織的な捕鯨の発祥地としても知られ,現在も捕鯨で有名な太地町がある和歌山県では鯨の肉を給食で提供されています。
鯨肉のご案内:公益財団法人 和歌山県学校給食会

長崎市では毎年11月を「くじら月間」と定めており,「ながさき今昔くじら料理フェア」というイベントを開催していました。
長崎市役所:ながさき今昔くじら料理フェア

2002年にIWC総会も開催された水産都市として知られている下関では,「ふく」「うに」「くじら」「あんこう」「いか」を水産物5大ブランドとして掲げ,さまざまな事業を実施しています。
下関市のHPでは「くじらの街下関」として,歴史の紹介から始まり,市内で食べられる鯨料理店や鯨料理レシピがダウンロードできるようになっています。
下関市公式サイト:くじらの街下関の紹介

また,東京でも鯨肉を提供する飲食店が増えていたり,鯨肉のベーコンやステーキ,缶詰などを販売する自動販売機も設置されたりしているそうです。

鯨は人の3~6倍の魚を食べるため,栄養も豊富で体にいい食材のひとつです。
なにより,そのおいしさをぜひ体験してみて欲しいです。
少しずつ,多くの食卓に鯨肉料理が並んで,現代の子たちにも馴染みのある食べ物になることを願います。

▼捕鯨に関する過去の記事は以下で確認できます。

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