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ロシアのウクライナ侵攻から1年、今後予測される事態について|国際弁護士が解説

『コトニ弁護士カフェ』2023年2月17日放送分

2023年2月24日で,ウクライナ侵攻から1年を迎えます。
昨年の3月には,ウクライナとロシア両国の歴史を振り返り,今回なぜこのような事態になってしまったのかをお話ししました。
まだまだ収束の目処が立っていない現状ですが,この1年の両国の動きを振り返り,今後予測される事態や国際情勢についてお話ししていきます。

過去のお話し→ロシア・ウクライナ問題|戦争の理由と背景は
      →ロシアの行動と国際法について国際弁護士が解説|パリ不戦条約違反になるのか

ロシア・ウクライナ問題,この1年の動向を振り返る

歴史を振り返りますと,ソ連崩壊後にウクライナが建国されたのが1991年12月。
それからは,ウクライナはロシアから離れ西ヨーロッパ諸国との関係を強固にすることで,独立国家としての成長を目指してきました。

一方で,ロシアはいつまでも「ウクライナはロシアのものである」というような認識でここまできました。
ロシアのウクライナに対する理不尽で一方的な関係が続いてきた中で,とうとう昨年の軍事的な侵攻が始まってしまいました。
このようなロシアの行動は,パリ不戦条約の違反になるのでは…ということで,昨年のラジオでは,国際法の観点からお話をしました。
第一次世界大戦に対する反省から,二度とこのような過ちは犯さないという表明として,1921年に国際連盟が発足し,1928年には戦争放棄に関する「不戦条約」が制定されました。

不戦条約の1条と2条には,「締約国は、国際紛争解決のために戦争に訴えることを非難し,かつ,その相互の関係において国家政策の手段として戦争を放棄する」「相互間に発生する紛争又は衝突の処理又は解決を,その性質または原因の如何を問わず,平和的手段以外で求めないことを約束する。」と記載されています。
つまり,戦争放棄,平和的手段以外は認めないという内容です。
もちろん今回のロシアによるウクライナ侵攻は,軍事的手段で紛争解決を目指し,一方的に戦争を始めたのですから,このパリ不戦条約に違反しています。

ただし,戦争は禁止しているものの,個別的自衛権や集団的自衛権の行使は禁じられておらず,現実にはそのような名目で各地で戦争が起きています。
今回のウクライナ侵攻も同様,過去にもロシアは「特別軍事作戦」と称し,ウクライナ東部のドネツク州とルハンシク州のロシア系住民を保護するための軍事作戦と主張しています。
クリミア半島に侵攻した際も同じく「ロシア系住民」の保護という名目でした。
実際には,ウクライナによるロシア系住民への攻撃や大量虐殺などの事実は明らかになっていません。

ロシアを止める手立てはないのか?

一国の勝手な理由による侵攻が1年も続き,一般市民を含む犠牲者が多数出ている中,世界の平和を守るための組織である国連はなぜなにもできないのか?そう疑問に思う方も多いでしょう。

実際には,西側諸国といわれる,主としてEU加盟国である西ヨーロッパ諸国や米国,カナダ,そして日本などが経済制裁を厳しく行っています。
経済制裁は,資源や経済を他国に頼っている国にとっては効果は絶大だと考えられていますが,今回のロシアに対しては,あまり効果があるとはいえません。
その理由としては,主に2つあります。

理由①経済制裁をしている国が少ないこと

日本国内の報道を見ると,まるで世界の全ての国がロシアの経済制裁をしているように聞こえますが,実は40カ国弱と,経済制裁をしている国は少数派です。
制裁に参加しない理由は様々ですが,ロシアは天然ガス,石油,食料等の大輸出国でもあり,経済制裁をすることでむしろ不利益を被る国が多いというのも事実です。

理由②ロシアは自給自足ができる

もう一つの理由として,ロシアは資源や食料を自給自足できるため,経済制裁が長引いたとしても,国民が飢えたり暮らせなくなるということは無いということ。
事実,私のロシア人の友人も,戦争が始まった直後は混乱したようでしたが,今では普通に暮らしていると聞いています。

国連の安全保障理事会の機能不全

また,経済制裁の理由以外にも,国際的なイベントや国際機関での制裁が行われています。
例えば,ウインブルドンテニス大会など国際的なスポーツイベントに参加できないなど,ヨーロッパ評議会などの国際機関からの除名なども行われていますが,これも現在のところ大きな効果を挙げているとは言いにくいでしょう。
本来であれば,このような国際紛争は,国連の安全保障理事会で協議され,様々な制裁や,国連軍を組織して戦争に介入することも選択肢としてあるのです。
しかし,ご存知の方も多いと思いますが,安全保障理事会は,常任理事国であるアメリカ,イギリス,フランス,中国,そしてロシアが拒否権を持っており,ロシアが拒否権を発動すると国連の安全保障理事会では何も決定することができません。
ロシアが常任理事国であるがために,国連が機能不全になっているのです。

結局,戦争を終わらせるためには,ロシアが疲弊してしまうか,ロシア又はウクライナが勝利するということしか事実上無いかもしれません。

そのため,最近のニュースでは,ドイツがこれまで尻込みしていたレオパルド2という高性能の戦車の供与を決めたほか,アメリカがハイマースという高性能ロケット砲やエイブラムスという主力戦車を供与することを決めたようです。

平和的解決はロシア市民が握っている?

正直に申し上げますと,残念ながら平和的な解決は,現状では難しいと言わざるを得ない状況です。
自国を武力で占領されて奪われてしまうと,もう取り戻すことは難しくなることがわかっているので,ウクライナも必死に抵抗しています。
そして,先ほどお話ししました通り,経済制裁や国際機関による制裁はあまり効果がないため,結局,戦争が継続しているのです。
ウクライナ市民,ウクライナ兵にロシア兵,多くの方々が亡くなってしまう悲しい事態になっています。

そうなると,実は,ロシア市民に期待するしかないと思います。

ロシアは,実はロシア国の憲法上は民主主義国家で,政権交代が可能な国です。
確かに,一方で表現の自由が制限されているとか,選挙に不正があるなど言われたりしますし,プーチン大統領の独裁などとも言われますが,形式的には実はそうではありません。

そこで,この選挙を止める最も効果的な方法は,ロシア国内の選挙によって戦争反対派の大統領や議員を選ぶことかと思います。つまり,政権交代により選挙を止める可能性があるということです。

ただし,ロシア国内では報道が偏っていることも事実で,ロシア国民の多くがロシアによる戦争に対して正当性を信じていると聞いています。

政権交代もなかなかハードルが高いのですが,インターネットは自由に使えるようですので,私達の方からロシアの有権者に対して積極的に戦争を止める必要性について情報提供することも大切ですね。

ロシア・ウクライナの戦争について思うこと

昨年話したとおり,戦争が長期化するということは,犠牲者が増え続けることにつながります。
ウクライナの兵士や市民たち,そしてロシアの若者たちも兵士として戦地に向かい,何万人も亡くなっています。
ロシアでは,訓練を受けた兵士だけでなく,昨年9月に導入された「動員兵」制度によって,一般市民も兵士として戦地にかり出されている状態なのです。
そこに個人の自由意思はあるのでしょうか?

自分が属する国の判断で,罪のない市民たちが犠牲になるのは本当に許せないことです。
大切な人を亡くして悲しい気持ちは万国共通なはずです。
引き続き,一日もはやい解決を心から望む次第です。

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