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違法伐採に違法建築も…ニセコを巡る土地問題②

『コトニ弁護士カフェ』2025年11月21日放送分

前回はニセコ町の水源地をめぐる問題についてお話しさせていただきましたが、実はニセコ周辺では、水源地に関する問題以外に、違法伐採や違法建築なども問題になっています。

今回は、その中でも象徴的な「違法伐採」と「違法建築」をめぐる2つの事例と、なぜこうした無許可開発が全国で相次いでいるのか、その背景にある制度の問題について解説します。

「突然白い建物が」倶知安町の違法建築


引用:STVニュース北海道

2025年6月、倶知安町では、森林法で定められた範囲を超えた無許可伐採や届け出のない建築工事が確認されていました。

羊蹄山のふもとにある倶知安町の巽(たつみ)地区で、「白い大きな建物が突然建てられていた」とSNSなどで話題になっていた事件。札幌の会社が建設を進めていた建物で、周囲の森林も一部伐採されていました。

この開発について、6月4日に北海道の後志総合振興局が立ち入り調査したところ、森林法で定められた範囲を超える樹木の伐採が、無許可で行われていたことが判明しました。さらに、違法建築も行われていたことが発覚しました。

建物を建てる際には「建築確認申請」を行政庁又は指定確認検査機関に提出するという手続きを経て、構造や安全性、用途などが法律に適合しているかを審査することになっています。

ところが、この開発業者は建築確認申請では「戸建て住宅2棟を建設している」と報告していましたが、実際には建物の規模が大きく、申請内容と実態が異なっていたようです。

ちなみに、2025年4月の建築基準法改正に伴い、大型の建物だけではなく、2階建て以上又は200㎡以上の木造建築でも建築確認が必要となるように、条例が改正されました。

▼参考
無許可で違法伐採か 倶知安町で建設進む大型建築物は、中国系の人物が工事発注 道は森林法違反の可能性で工事停止を勧告(TBSニュース)
2階建の木造一戸建て住宅(軸組工法)等の確認申請チェックリストについて(令和7年4月1日~)(北海道庁)

ニセコ町で発覚、下水道につながっていない家


2025年10月には、ニセコ町でも違法建築が発覚しました。こちらも札幌の会社が建てた住宅で、当初は正式な検査を通過していたようですが、その直後に無許可で増築し、さらに敷地内に申請のないコンテナハウス2棟の建築も確認されたということです。

問題になっているのが、驚くことに、この建物は下水道につながっておらず、汲み取りタンクで処理しており、匂いの問題など、近隣住民から懸念の声が上がっているようです。事業主の代表は「建築会社に任せていた」と説明していますが、責任の所在をあいまいにする発言だとして問題視されています。

▼参考
ニセコ地区でまた違法工事発覚 会社代表の中国系男性「工事は建築会社に任せた」 道が工事停止勧告

無許可開発はなぜ起こるのか

これはニセコ町や倶知安町に限った話ではなく、全国の自治体で同じようなことが問題になっています。
まずは、建物の許可申請は自治体の建築部などに申請するのですが、それはあくまでも「建物の安全性」を審査するのみで、下水道への接続などは、別の管轄になるのです。
そのため今回のように、建物の許可は通ったのに、下水道とつながっていなかったということが後から発覚したのでしょう。

また、森林伐採については、土地の所有者が林野庁に申請を届け出ることになっているのですが、人手不足や予算の制約で、全ての森林や土地を定期的にチェックするのは難しく、その結果、”無許可開発”が後から発覚するケースが後を絶ちません。

そして、こうしたケースには土地の所有構造の複雑さも関係しています。
名義上は札幌の会社でも、実際の経営者や出資者が外国籍というケースも増えており、誰が最終的な所有者なのかがわかりにくくなっています。

▼参考
伐採および伐採後の造林の届出等の制度(林野庁)

全国で拡大する外国資本による森林取得


外国資本による森林の取得が拡大していることも原因のひとつです。
林野庁の調べによると、令和6年に外国法人等により取得された森林面積は382haで、平成18年からの累計は10,396haになるそうです。そのうち、日本に法人がある外資系企業と、海外に居住地がある外国資本の割合は、累計で3:7ほどで、投資目的などで海外からの取得も多いことがわかります。

まさに国会で議論されている内容ですので、今後は規制が厳しくなる可能性もありますが、現在のところ原則として外国資本による日本の土地取得を制限するような法律は基本的にありません。

国土利用計画法などで一部の届出制度はありますが、違反しても罰則が軽く、効力が弱いといえます。
所有権というのは非常に強い権利なので、買われてしまってからそれを覆すのはなかなかむずかしいのです。
だからこそ、所有段階での規制や、水源・森林など重要な土地については、国の資源を守るという目的で、公有化といった仕組みが今後必要になるでしょう。

日本の森林を守る中心的な法律である「森林法」というものもありますが、伐採の届け出を怠っても、行政指導や作業停止命令にとどまり、刑事罰にまで至ることはほとんどなく、抑止力としては乏しいのです。
そのため、2017年に「クリーンウッド法」という新しい法律がつくられました。
これは、違法に伐採された木材を流通させないための法律で、企業に対して、木材が合法的に伐採されたものであることを確認してから取り扱うように求めるものです。

ただし、こちらも登録や確認は”努力義務”にとどまっていて、監視体制もまだ不十分です。今後罰則強化などの改正も予定されていますが、現場でどこまで実効性が確保できるかが課題となっています。

▼参考
令和6年に外国法人等により取得された森林は全国の私有林の0.003%(林野庁)
クリーンウッド法の制度について(林野庁)

森林管理、海外の事例は

では、海外では森林などの土地はどのように管理されているのでしょうか?
カナダでは州政府が伐採権を厳しく管理し、台湾や韓国では外資による森林・農地の取得を制限しています。
また、EUでは合法木材以外の流通を禁止しており、アメリカでは違法木材の輸入自体を罰則対象としています。
こうして比べると、日本の制度は開発の自由を優先するあまり、環境保全や安全保障の視点が後回しになっているのが現状といえます。

▼参考
カナダの森林伐採制度(林野庁)
アメリカの森林伐採制度(林野庁)
EUの森林伐採制度(林野庁)

法整備と地域の連携で土地を守る


これから必要なのは、「買われる前に止める」仕組み、つまり所有する段階での規制や、重要な土地を公有化して守る制度です。
同時に、行政だけでなく、地域や住民が協力して、情報共有の体制を整えることも欠かせません。

法整備と地域の目、両方が揃ってこそ、初めて”土地を守る仕組み”が機能するのです。
「土地をどう守り、どう活かすのか」を改めて考えることが、これからの地域社会にとって大切な一歩になるでしょう。

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