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トランプ関税と日米経済への影響は

『コトニ弁護士カフェ』2025年5月16日放送分

2025年4月2日,アメリカのドナルド・トランプ大統領が発表した新たな関税計画は,「トランプ関税」と呼ばれ,さまざまな議論を引き起こしています。

日本では,4月に赤沢経済再生担当大臣がトランプ大統領と会談したことも注目を集めていました。そして4月に引き続き,5月にもトランプ大統領と交渉に行きました。

もともとトランプ大統領は安倍元首相と仲が良かったことで知られていますが,現在の石破政権ではまだそこまで関係が深まっていないため,今回の関税に関する交渉がうまく進むのか,多くの人が注目しています。

そこで今回は,トランプ関税と日米経済への影響についてお話しします。

自国を最優先するアメリカ


アメリカはトランプ政権になってから「America First」をキャッチフレーズにしてアメリカ第一主義を始めたからのように感じている方もいらっしゃると思いますが,実は随分以前から,アメリカ第一主義又は独自路線を追及することにより,言うなれば「自国の利益が最優先」という姿勢をとってきました。

例えば,アメリカに行ったことがある人は実感されていると思いますが,長さや重さ,温度の単位にしても,インチ,華氏,ポンドを使っていて,国際的な基準には合わせようとしません。メートル法に変えていないのは世界中で事実上アメリカだけです。

私も初めてアメリカに住んだ際にテレビの天気予報で今日の気温が「90度」とか言っていてびっくりしたことがあります。これは摂氏90度ではなく華氏90度なので,実は私たちの基準では摂氏32度くらいですね。

国際条約に関しても協調的とは言えず,国連海洋法条約やハーグ条約,国際刑事裁判所条約にもアメリカは未加盟です。

しかも,アメリカは国連海洋法条約(UNCLOS)を作る段階では主導的立場にいたのに,「自国の企業に不利だ」として結局加盟しませんでした。深海資源の開発で制限がかかると困るという,お国の事情だと考えられます。

似たような事例で,第一次世界大戦後に「国際連盟」(League of Nations)が発足した際も,設立に向けた準備はアメリカが主導的に行っていたのに,いざ発足する際にはアメリカは参加せずに,国際連盟はうまく機能せず,結局第二次世界大戦を止めることが出来なかったという経緯もありました。

この背景の根底にはアメリカにはAmerica First以前に,「モンロー主義」といういわば「孤立主義」という伝統的な政策があるのです。

▼参考
キヤノングローバル戦略研究所 トランプ氏の新モンロー主義

トランプ関税はWTO違反の可能性も


WTO(世界貿易機関)の設立条約であるWTO協定(「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(通称:WTO設立協定)」及びその附属書に含まれている協定の集合体)は,GATTと呼ばれる「関税と貿易に関する一般協定」という条約が元になっており,最恵国待遇と内国民待遇という2つの原則があります。ひと言でいうと,自国と比較して不利な条件で輸入条件を設定してはならないというものです。

“最恵国待遇”という基本ルールは,関税などでいずれかの国に与える最も有利な待遇をほかのすべての加盟国にも与えなければならないというルールです。つまり,「みんな平等に扱いましょう」ということなのです。

しかし,今回のトランプ大統領の関税政策は,国によって差をつけています。日本は24%,中国は34%,インドは26%,英国などは最も低い10%となっており,そして,東南アジアのカンボジアは49%,ベトナムは46%,スリランカは44%と特に高い税率を課しています。

これは最恵国待遇のルールに明らかに反しているので,WTO協定に違反の可能性が指摘されています。

▼参考
外務省 世界貿易機関(WTO)
経済産業省 WTO 協定の概要
NHK政治マガジン|最恵国待遇
日本経済新聞|
米国公表の「相互関税」全リスト 日本24%、中国34%

アメリカ車を売りたいトランプ大統領


そもそも関税の目的とは,ひとつは国の税収確保のためですが,もうひとつ大切な目的として,自国の産業を守る役割があります。

関税を支払うのは「輸入した業者・個人」であり,アメリカが日本から輸入される車に関税をかけた場合,「輸入したアメリカの会社」が「アメリカ政府」に税金を収めることになります。

関税がかけられると,税を負担している会社は利益を確保するために,単純にその分の値段を上げることは想像できるでしょう。関税が加算された日本車より,アメリカ車のほうが極端に安く販売されれば,日本車は売れにくくなるかもしれません。

トランプ大統領にしてみれば,とにかくアメリカの車を買って欲しいのです。つまり,「日本の車が値上がりすれば,もっとアメリカの車が売れるに違いない」という狙いがあると言われています。

そして,アメリカで日本車を売りたければ,日本企業はアメリカの工場で作るべきだ,という意図もあるといわれています。そうすればアメリカでの雇用が増えると考えているわけです。

▼参考
テレ朝ニュース|【池上解説】「トランプ関税」何のため…!?90日猶予の意味は

アメリカ車が売れないのは非関税障壁が原因?


非関税障壁とは,関税以外の要因によって貿易に障壁が生まれることです。米国政府は,日本でアメリカ車が売れないのは,非関税障壁が原因だと主張しています。

たとえば,自動車に関して非関税障壁だと主張しているひとつに,日本の車検制度や安全基準があります。要するに日本での自動車の安全基準が厳しすぎて,アメリカ車がその基準をクリアできないということです。

しかし,欧州車のメーカーは日本に輸出する前に事前に日本の安全基準を満たしていることがほとんどです。また,日本では自動車は左側通行が原則のため,右ハンドル車が一般的です。日本で左ハンドル車は禁止はされていないものの,運転が不便なのは事実であり,ドイツなど左ハンドルの欧州車は右ハンドルへの対応も早かったのですが,アメリカは右ハンドルへの対応も遅かったこともあり,それもアメリカ車が欧州車と比較して売れない原因ともいわれています。

その他,これも私がアメリカにいた頃の経験ですが,やはりアメリカ車は故障が多かった記憶があります。1999年にアメリカに始めて住んだ頃,シボレーの中古車を購入したのですが,運転中に何度も止まってしまうことがあり,日本でいうJAFにあたるAAAというところに電話してレスキューしてもらったことがありました。事実,アメリカの中古車市場では日本車の方が故障しないということでリセールバリューが高いのです。こういう信頼性もアメリカ車が売れない原因だったかもしれません。

▼参考
&N未来創発ラボ|トランプ相互関税導入へ:非関税障壁も対象となり日本の対米輸出自動車に追加関税の可能性も


利益縮小やコストダウン…日本経済への影響


トランプ大統領は,2025年4月に全世界の輸入品に10%の関税をかけたうえで,日本には最大で24%もの関税を課そうとしています。たとえば車について,現時点では,米国車の日本への輸入は0%,日本車の米国への輸出は5%となっています。

今回のアメリカの関税措置は,日本経済に大きな打撃を与える可能性が高いと考えられており,専門家の間では「リーマンショックに匹敵する」といった声も上がっています。今回の関税強化は自動車をはじめ,広範囲な品目に及んでおり,特に地方の中小企業や輸出企業に打撃を与えるのではとの懸念が高まっています。

中小企業が打撃を受けやすい理由としては,関税分の埋め合わせはコストダウンで対応することになり,たとえば自動車メーカーであれば,部品を作っている下請けの中小企業にコストダウンの圧力がかかるのでは,と考えられます。

さらに,影響は輸出企業にとどまらず,その取引先にも広がり,設備投資や賃上げといった企業活動全体に冷え込みの懸念をもたらしています。加えて,今回は中国や東南アジア,EUにも高関税が課されたため,世界経済全体の冷え込みが日本企業への二次的な打撃となるリスクも考えられます。

日本企業は,アメリカへの輸出を諦めず現地生産を増やす検討をしたり,アメリカ以外の市場への販路拡大に取り組み始めています。しかし,まだ明確な対策を見出せない企業も多く,先行きは不透明です。日本政府は,アメリカとの交渉に乗り出し,関税引き下げや市場開放について協議を進める方針です。自由貿易体制の維持が問われる中で,日本の交渉力が大きく試されている状況です。

▼参考
朝日新聞|どうするトランプ関税?中小企業、最悪シナリオも頭入れて「変革」を
NHK NEWS WEB|トランプ関税影響あり 約6割 大阪の中小企業 大商調査

世界経済への打撃も免れない可能性

関税が上がることで経済的な打撃を受けるのは,アメリカも免れないでしょう。アメリカ国内の産業が保護されることで国際競争力が落ちてしまい,結果としてアメリカ製品が世界で売れなくなることも想定されます。

また,アメリカは中国や日本などから工業製品を大量に輸入しているため,関税によってそういった商品の価格が上がってしまうと,結果としてアメリカの消費者やアメリカ経済にも悪影響になるでしょう。

常に強気な姿勢で自国の利益を守ることを主張するトランプ大統領ですが,今回の関税措置については,すでにIMFが世界経済の成長予測を下方修正したように,世界経済に大きな打撃を与えることになるかもしれません。

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