春は進学や就職,転勤などで引っ越す方が多い季節。
生活の拠点が変わる時に引っ越すケースが多く,特に新生活が始まる4月に向け,3月下旬~4月上旬が一番多い時期といわれています。
引っ越しというと,家を購入する方もいますが,新入生や新社会人の方などは賃貸物件に住むことが多いでしょう。
その際に発生するのが賃貸借契約です。
新入生や新社会人の方などにとっては,携帯電話の契約に次いで,人生で初めての「契約」となる方も多いかもしれません。
そこで今回は,賃貸借契約の際に留意すべき点や,起こりうるトラブルについて解説していきます。
賃貸物件を借りる際の契約は一般的には「賃貸借契約」と呼ばれるものですが,実はよく弁護士に相談されるトピックの一つです。
重要な部分をしっかりと確認しないまま契約を結んでしまい,入居中や退去時にトラブルに発展するケースが多くあります。
また,賃貸借契約書に加えて,契約書の締結とは別に「重要事項説明書」というものがあります。
賃貸借契約は物件の所有者との契約になりますが,重要事項説明は不動産会社が賃借人に対して行うもので,「この部屋で,この内容の契約を結びますよ,大丈夫ですね?」という確認が目的です。
賃貸借契約は民法(第601条以下)に基づくものですが,重要事項説明は宅地建物取引業法第35条に規定されているもので,それぞれ法的根拠が異なります。
ところが,賃貸借契約を締結したことがある方ならわかると思いますが,契約書や重要事項を読み上げてもらっても,そのときに内容の全てを理解し判断するのは難しいようにも思われます。
本来であれば,契約書の内容や重要事項の説明を事前に受け取って目を通すことができればいいのですが,実際には契約の締結と重要事項の説明はほぼ同時に行われるため,双方の内容を十分に吟味したり事前に弁護士などの専門家に相談したりする猶予はないのが実情です。
賃貸借契約を結ぶ際に気を付けるべきポイントを整理しましょう。
賃貸借契約において,トラブルになりやすいのが「敷金」についてです。
敷金は家賃の1ヶ月〜3ヶ月分が多いですが,これは退去時や家賃滞納時のための保証金や預かり金の役割を果たします。
敷金は退去時に返金されることが原則ですが,全額が返還されることはまれです。
そもそも賃貸借の建物やお部屋の修繕は,原則として賃貸人,すなわち多くの場合はその建物やお部屋の所有者の義務であり,その破損が借主の責任でない限り,借主が修理を負担する必要はありません。
たとえば,経年劣化や自然消耗については,建物やお部屋の所有者や管理会社が修理や回復について責任を持つべきものです。
しかし,居住者が故意に壁に傷を付けたり,通常想定される以上の食べ物をこぼしたシミが取れなくなってしまったりなど,居住者による故意又は過失が原因で修理や掃除が必要になることについては,居住者が負担することになります。
ただ,実際には経年劣化と思われるようなことについても居住者の負担として,敷金から引かれてしまった,敷金が戻ってこなかったというケースがとても多いです。
退去時の原状回復や修繕費用の負担など,返還条件を契約時に確認することが重要です。
修繕費用の負担について,契約時に内容をチェックしましょう。
原状回復については,次回のブログで詳しく説明いたします。
原状回復の基準はガイドラインがあるものの,気を付けなければならないのが「特約事項」です。
特約事項がある場合,契約書の内容よりも優先されますが,それには要件があります。
これは双方合意のもと特約記載の契約書が取り交わされたとしても,そもそも借主は不動産契約において情報力・交渉力が弱い立場であるからです。
要件は以下の通りです。
①特約の必要性があり,暴利的でない客観的・合理的な理由があること
②賃借人が特約によって原状回復義務を超えた義務を負うことを認識していること
③賃借人が特約による義務負担の意思表明をしていること
以上を満たしていなければ,消費者契約法により当該特約は無効になります。
たとえば,修繕費用がすべて入居者の負担とされる場合,その特約に同意する前に内容を確認し,必要に応じて修正又は削除するように要請するといいでしょう。
そうしなければ,契約に同意したことになってしまうので,注意が必要です。
契約更新や退去時の条件にも注意が必要です。
退去する際の通告期間や,更新時の更新料の有無,更新期間以外に退去する場合の違約金の有無などについて確認しましょう。
「この部屋には3年住む予定」など契約時に見通しがある場合でも,いろいろな事情で予定よりも早く引っ越さなければならないこともあるかもしれません。
したがって,契約期間よりも早く退去する場合に違約金が発生するような特約となっているかどうかや,契約更新時に家賃が値上げされる可能性があるかなど,更新や退去に関する条件についても,契約時に十分に理解しておくことが大切です。
室内の設備(例えば,エアコン,照明器具など)については,重要事項説明で説明がなされることとなりますが,室内の設備の故障や不具合についても原則として貸主が修理を行う責任があります。
しかし,その設備が実は貸主の所有物ではなく,前の賃借人の残置物であったりすることもあり,重要事項説明の際に確認をするべき事項です。
仮に前の賃借人の残置物であった場合は,賃貸人はその不具合について責任を追わない場合もあり,故障して不要になったり修理が必要となった場合に賃借人の負担となることもあります。
したがって,室内の設備が賃貸人の所有又は管理になっているかを重要事項説明の際に確認し,仮に前の賃借人の残置物であり不要な場合は不要であることを伝え,事前に撤去してもらうことも検討しましょう。
不動産の契約書には普段聞き慣れない言葉や複雑な内容が含まれていることがあります。
多少理解できない内容があっても「まあ,大丈夫だろう」と思ってそのまま契約してしまうケースもあるのではないでしょうか。
一度契約を結んでしまうと、「知らなかった」「わからなかった」では通用しません。
そのため,学生や新社会人の方など、契約が初めてだったり慣れていなかったりする場合は,親や親戚,契約に詳しい友人や先輩に同席してもらうことをおすすめします。
また,不動産業者の評判も事前に調べておくと良いでしょう。
契約を結んでから問題が発生すると解決が難しくなるため,契約前に不明な点があれば遠慮なく質問し,可能であれば事前に写しを入手し確認をして納得してから契約するようにしましょう。
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