前回は、2024年4月から義務化された相続登記について、その背景や手続きをしなかった場合のペナルティなどについてお話ししました。
では、もし相続登記を怠った場合、どのようなトラブルがあるのか。
今回は、相続登記を忘れた場合に実際に起こったトラブル事例をご紹介します。
相続登記をしなかったことでトラブルに発展した事例は少なくありません。例えば、自分の土地だと思って家を建てて住んでいたら、実は他人の土地だったというケースがありました。
相談者の父親が50年前に建てた家は、父親の名義で登記されていましたが、古くなってきたので建て直そうと考え、銀行の融資を受けるため土地の登記簿を調べたところ、なんとその土地は、父親の名義でなかったことが判明しました。その土地の所有者は大正10年から所有していたことになっており、すでに100年以上が経過しているため、所有者もすでに亡くなられていました。
このままでは融資ができないと言われたため、弁護士に相談した結果、取得時効で所有権を取得するために相続人を探して裁判を行うことになりました。最終的には半年以上の月日と100万円近くの費用をかけて、数十人の相続人を探して必要な裁判手続きを経て、無事に登記を移転することが出来ました。
その結果、依頼者の方も銀行の融資も無事に受けられたそうです。
取得時効とは、所有の意思をもって物を一定期間占有したとき、その物の所有権を取得することができるという時効の制度です(民法第162条)。
1.20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
民法第162条
2.10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
取得時効には長期取得時効と短期取得時効の2種類があり、占有を開始した時点で自己のものであると信じていた場合は10年、自己のものではないと知っていた場合又は知らないことに過失があった場合は20年の占有期間の経過によって所有権を取得できる制度です。
今回のように,少なくとも20年以上の間,所有の意思を持ってその土地を占有して住んでいた場合は、取得時効によって所有権を取得できます。ただし、裁判所の手続きを経る必要があるので要注意です。
次は,土地を購入しようと思って登記名義の方に連絡をしたら、その方はお亡くなりになっていたというケースです。
相談者の方は,北海道でキャンプ場を開きたいと計画し,道内のある町の原野となっている土地を購入しようとしました。
ところが,登記簿と公図を調べると、その場所の実際の見た目は原野でしたが、登記簿上はたくさんの区画に整然と分けられていて、あたかも住宅分譲地のようになっており、複数の所有者がいることが分かりました。
そこで、相談者さんはそれぞれの登記名義の所有者に連絡を取ろうとしましたが、所有者がそれらの土地を取得した時期が昭和40年代と古く,そのためすでに亡くなっている方も多く、所在不明の人もいたそうです。
最終的に、弁護士である私のところに相談したところ、どうやらそれら土地は過去に「原野商法」で本州の方々に売られた経緯があり、今では所有者の多くの方がお亡くなりになっているにもかかわらず,登記がそのままになっていたものであることが判明しました。
つまり,登記簿上は形式的にはお亡くなりになった方の所有になっていましたが、実質的には相続人たちが相続して所有している状況だったようです。
そこで,相談者さんは相続人を探し出し、時間と手間をかけてようやく購入できたのですが、相続人の方も驚かれていました。
他にも似たようなケースですが、古くなった家を取り壊そうとしたら、家の名義が亡くなった父親の名義のままだったというケースもあります。
相談者さんは、子供の頃に亡くなった父親が建てた家に母親と住んでいましたが、古くなったので建て替えようとしたところ、登記名義が亡くなった父親のままだったことが発覚しました。そのため、建て替えのための業者が工事を引き受けてくれませんでした。
相談者さんは,相続を原因とする登記手続を行わなかったのですが,固定資産税も亡くなった父親の名義で届いていたものを母親がそのまま支払っていたため、気にしないでそのままにしていたのです。
結局、弁護士である私のところに相談があり、私からは,まず家の土地と建物を母親の名義に変更し,手続を進めることを提案しました。
その後,相談者さんは私の助言に従い,母親名義に無事に登記を変更した後、建て替えの手続きを進めることができましたということです。
なお,この方は、母親も高齢だったため、今のうちに遺言書を作成しておこうという話にもなったそうです。
相続のトラブルを避けるための一番の方法は、遺言書を作成することです。
遺言書を作成する際は、まずは誰に相続させるか、または遺贈するかを明確にすることが大切です。ただ名前だけを書くのではなく、続柄や誕生日、可能なら住所までしっかりと記載して、誤解が生じないようにする必要があります。また、相続する人の法律上の相続分も確認しておくことが重要です。
また、「遺留分」という権利に配慮しないと、後でトラブルになることがあります。
さらに、相続財産を具体的に明示することも忘れてはいけません。遺言執行の際に、どの財産が対象なのか特定できないとトラブルになります。加えて,相続財産は,分割可能な財産を指定することも大切です。分割できない財産があれば、相続人同士で争いになる可能性が高いからです。
相続は誰もがいつか直面する問題ですし、手続きも複雑です。トラブルを避け、安心して相続を進めるためには、弁護士などの法律の専門家に相談することをおすすめします。
長友国際法律事務所では、相続や遺言書についてお悩みの方にむけて、定期的にセミナーを開催しています。もちろん個別相談も受け付けておりますので、相続や遺言書に関するお悩みをぜひお聞かせください。
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