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夏に増える水難事故について|弁護士が解説

『コトニ弁護士カフェ』2022年7月29日放送分

晴れて暑い日が続く夏、海水浴に行きたくなる方も多いことでしょう。
海水浴シーズンになると残念ながら増えてくるのが,海の事故のニュースです。
遊泳禁止区域には近づかないのは当然ですが、危険な事故を避けるにはどのようなことに気をつければいいのでしょうか?

今回は、水難事故の原因と対策、関係する法律についてご紹介します。

海や河川での水難事故、その原因とは

昨年の夏はちょうど東京オリンピックの時期で,コロナが増えて自粛モードだったこともあり,海水浴場自体がオープンしていないケースが多かったようです。
結果として,昨年の夏のシーズンの水難事故の件数は,前年よりもぐっと少なくなりました。

水難事故では,残念ながら「遊泳禁止」など,泳ぐと危険だと警告があるところに無断で入水して,溺れてしまうケースも多いです。
どんなに泳ぎに自信がある人でも,遊泳禁止区域にはやはり遊泳禁止になる理由があるので,絶対に入るのはやめましょう。

それから,実は水難事故でもっとも多いのは,水泳や水遊びよりも「魚とり・魚釣り」をしていた人なのです。
令和3年の警視庁の統計データによると,水難事故で亡くなった,または行方不明になった方の原因として,28%が「魚とり、釣り」で,「水遊び」は5.5%,「水泳」は4.0%でした。

■遊漁中の事故はなぜ起こるのか

魚釣り中の事故は,魚取りに夢中になってしまったり,たとえば大事な釣り竿などの道具を落としてしまって,それを拾おうと水に入ってしまったり,そういったことが原因です。
特に釣りをしている人は,水着ではなくて釣りに適した服を着ていますから,泳ぐのにはまったく適していないわけです。
少しでも水に濡れたら衣服は重くなってしまいますから,少しぐらい大丈夫…という気持ちから,海や川に入ったところ,足を取られて戻れなくなったり,急な流れに流されてしまったりするのかもしれません。
わたしも渓流釣りが趣味ですが,滑り止めのついたウェイダーというゴム長靴を履いたり,出来るだけ一人で行かないようにしています。
川を渡るときは,深いと感じたら無理に渡らないようにしています。

漁業法・遊漁ルールの実態

魚釣りの場合,遊泳禁止の区域でも,釣り自体が禁止されていなければ釣りをすることはできます。
なぜなら遊漁船,いわゆる釣り船に関する法律はあるのですが,海岸で釣りをするためのルールはないからです。
ただし,漁業法は遊漁も対象範囲なので,漁業法や各都道府県の漁業調整規則によってルールが定められています。
とはいえ,安全確保のためというより,現状としてはもっぱら密漁防止などに焦点が当てられています。
それから,漁港や港湾での防波堤での釣りについては,漁港や港湾管理者の権限で立入禁止をすることができます。
最近では,テロ防止のためのソーラス条約という条約が発効されて,全国で100か所以上の港湾が釣り禁止になりました。

もし目の前で人が溺れていたら

残念なことに,溺れている人を助けようとして,助けた人が亡くなってしまうというケースは多いです。
いくら泳ぎが得意な人でも,やはり一般の人が助けに飛び込むのは非常に危険です。
なぜなら,溺れている人はパニックになっているので,予想以上の強い力でしがみついてしまって,助けにいった人も一緒に溺れてしまうことが本当に多いのです。

目の前で人ば溺れた時は,まずは助けを呼ぶのが鉄則です。
海水浴場であれば監視員がいますので,すぐに呼びに行きましょう。
海水浴場以外の場合は,118番(海上保安庁),110番(警察),119番(消防)に救助を求めましょう。
そして,身近に救助に使えるようなものを探します。
浮き輪などがあればもちろんいいですが,空気を入れたペットボトルだったり,板きれだったり,ロープのような長いものがあればいいでしょう。
あとは「ヒューマンチェーン」といって,人が何名もいる場合は,人と人が手を繋いでくさりのようにつながり,溺れている人に手を伸ばすという方法があります。
これであれば溺れている人に強い力で引っ張られても,手をしっかりにぎっておけば,一緒に溺れることはありません。


パニックになって助けようとすぐに飛び込むのは絶対に危険です。
特に自分のお子さんだとか,身近で大切な人が溺れてしまったら特に冷静ではいられませんし,自分が助からなくても助けたいと思ってしまう気持ちはじゅうぶんに理解しますが,まずは冷静になって,助けを求めるようにします。
まずは船に乗っているときだけでなく,防波堤や磯での釣りでも,ライフジャケットを着用することを強くお勧めします。

■溺れている人を助けないと法律違反?

冷静にお伝えすると,その人と自分との間に法的な責任関係がない場合,助ける義務はありません。
なので,助けようとして自分も溺れてしまったときは,すごく冷たい言い方に聞こえてしまうかもしれませんが,自己責任になってしまいます。
しかしそれが,たとえば親と子供の場合,保護責任というものが発生します。
これは刑法が絡んでくるのですが,刑法218条には「老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し,又はその生存に必要な保護をしなかったときは,3ヶ月以上5年以下の懲役に処する。」とあります。
つまり,保護をしない場合は刑法で罰せられてしまうんです。
ただこれも判断が難しいところです。

子供が溺れている,でも自分は泳げない。
その場合は,助けようと飛び込んでも助けられない可能性が極めて高いことがわかります。
あとは親子でなくても,たとえば学校や幼稚園などのプールでは,監督責任が発生します。
もちろん,法的にどうこうという話の前に,人として目の前で危険な状況に陥っている人がいたらすぐに助けたい!と思うのが人情ですし,実際にはそのような危機的状況で,法的にどうなのか?など考えている余裕はないでしょう。

大原則として、遊泳ルールは守ること

海でも川でも,急に深くなってはまってしまったり,急流に流されてしまったり,外から見ると危険がなさそうでも,実際は本当に危険が多いです。
まずは大原則ですが,遊泳ルールを守るというのが一番です。
すぐに助けなければと飛び込むのは本当に危険ですので,まずは事故が起こりそうな場所には入らない,近づかないというのを第一に判断してほしいです。

夏休みやお盆休みなどで海水浴やキャンプなどに行かれる方も多いかと思いますが,くれぐれも水難事故には気をつけて,楽しい時間を過ごしてください。

ラジオ番組『コトニ弁護士カフェ』
毎週金曜日10時30分から三角山放送局で放送中!
隔週で長友隆典護士&アシスタントの加藤がお送りしています。
身近な法律のお話から国際問題・時事問題,環境や海洋のお話まで,様々なテーマで約15分間トークしています。
皆様からの身近なお悩み,ご相談などのリクエストもお待ちしております。
三角山放送局 reqest@sankakuyama.co.jp または当事務所のお問い合わせフォームでも受け付けております。

三角山放送局の放送内容はこちらで視聴できます!

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