「隣家の木の枝が伸びてきて、我が家の敷地に侵入してきた!」
戸建てが並ぶ住宅地に住んでいれば,このような悩みも起こるでしょう。
結論からお伝えすると,これを勝手に切ると法律違反になってしまいます。
実は,竹木の切除に関することだけを規定した法律があるのをご存知でしょうか?
隣家の木の枝が伸びてきて,とても邪魔なとき。
さらに,我が家の壁や屋根に当たっていたり,虫が発生していたり,葉っぱが落ちてきたり。
こんなことが起きてしまったらとても迷惑ですし,今すぐに切ってしまいたくなります。
しかし,これを勝手に切ると法律違反になってしまいます。
このような日常生活に関わる決めごとは,ほとんどが民法で定められています。
世の中で起こるいろいろな事件は,それぞれの法律をもとに法的に判断されます。
この木の枝問題に関しては,実はこの木の枝の取り扱いの決まりだけを定めている法律が存在します。
それだけ,きっと昔からよくある揉めごとだったのでしょう。
では,民法第233条をご紹介します。
太字部分が,2021年の改正で追加された部分です。
1. 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2. 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
3. 第1項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
民法第233条
1. 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
2. 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
3. 急迫の事情があるとき。
4. 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。
では,順番に解説していきます。
まずは第1項を見てみましょう。
「(略)その竹木の所有者に,切除させることができる。」とあります、
ということは,その木の所有者(隣の家の人)に対して
「あなたの木の枝がうちの土地まで伸びてきているから,切ってくださいね」
と頼んで切ってもらうことができるのです。
逆に言うと,所有者に切らせる権利はあるけれど,自分で勝手に切ってはいけないということです。
さて,第2項は改正により追加された部分です。
木の所有者が複数人いて共有のものである場合,それぞれの所有者(共有者)に切る権利があるということです。
共有者のうちの一人の判断で切ることが可能で,全員の同意を得る必要はありません。
たとえば,兄弟3人で共有している大きな木の枝が隣地に張り出していて,隣家の屋根などに当たるような状態のとき。
他の共有者の同意を得なくても,その木が生えている土地に住んでいる共有者の一人に要請して切ってもらうことができるということです。
こちらが最も注目すべき改正部分です。
これまでは,所有者に対して「切ってください」と頼んで切ってもらうことしかできませんでしたが,ある要件を満たせば,侵入されている側の判断で木の枝を切ることも可能になりました。
ただし,たとえば3−1の「相当の期間内に切除しないとき」というように,はっきりと定義されているわけではないので,判断が難しい場合もあります。
「相当の期間内」とはどのくらいの期間なのか?と言うと,切除要請を受けた側が社会通念上履行するために必要な期間と考えてください。
低木のような小さな木であれば1週間から2週間程度あれば,相当の期間と言えるのではないでしょうか?
神社の大木のような大きな木であれば,簡単に切ることができないでしょうし,業者さんの手配などが必要になると考えられるので,数ヶ月を要するかもしれません。
また,3−3の「急迫の事情があるとき」というのも,ではどういう状態が急迫の事情なのかということは,詳しく民法で示されていません。
刑法のお話になりますが,刑法の正当防衛,刑法36条に「急迫不正の侵害」という言葉あって,「急迫」とは「現に法益侵害が存在している,または侵害の危険が間近に押し迫っている」と定義されています。
そのため,「急迫の事情」とは,現在進行形で発生し又は発生しようとしている事情のことだといえます。
それを木の枝問題に当てはめると,「台風が現に迫っている」「枝が大きくなりすぎて今まさに重みで折れそうになっている」「大量の毛虫が発生して枝から毛虫がボタボタ落ちてきている」などになると思います。「ひょっとしたら木が折れるかもしれない」「もしも台風が来たら折れるかもしれないでは」といった「予測」や「蓋然性」ではダメなんです。
あくまでも原則は1項で,相手方に請求しないといけないけれど,例外的にこういうときは自分で切っていいということなので,この3項は限定的だと思ってください。
こちらは改正前からある条文です。(改正前は2項でしたが,改正後は4項になりました)
枝とは違って,根の部分は木が生えている土地の所有者に断りを入れなくても切ることができるのです。
なぜかというと,根っこは実際にどこから生えているか,掘り返さないとわからないですよね。
よく事例になるのがタケノコです。
自分の土地の下にある根っこは自分のものという原則から,タケノコが自分の庭から生えてきたら自分のものということになるのです。
木の枝と根について解説してきましたが,では「果実」や「落ち葉」はどうなるのでしょうか?
隣の家の木から分離して自分の敷地に落ちてきた場合,勝手に処分等してしまっていいのでしょうか?
どちらも木の一部ですので,木に付属していたときは木の所有者に所有権があることが原則です。
その上で,落ちてきたものについては,果実と落ち葉では少し扱いが異なります。
まずは,果実について説明します。
実は民法上にも「果実」と言う言葉が登場します。
天然果実は,その元物から分離する時に,これを収取する権利を有する者に帰属する。
民法89条1項
「天然果実」とは私たちがイメージする果実(くだもの)や木の実のことを指すのではなく「物の用法に従い収取する産出物」(民法88条1項)のことであり,果実もそれに含まれます。
そうなると,天然果実である果実が落ちた時は「その元物から分離する時」にあたるので,「これを収取する権利を有する者」に帰属することになります。
そして「これを収取する権利を有する者」とは,その果実が実っている木の所有者のことです。
つまり,が落ちた果実の所有権者=木の持ち主となるので,隣の木から自分の庭に落ちてきた果実を勝手に取って食べたりしたら法律違反です。
拾った果実は木の所有者に返さないと,返還請求を受けたり,損害賠償請求をされることになります。
では,落ち葉はどうなるのでしょうか。
落ち葉は一般的には価値が無いと考えられることが多いため,「物の用法に従い収取する産出物」に当たらず,法律上の天然果実には当たらないと思われます。
しかしながら,元々は木の付属物なので,やはり原則としてその木の所有者の所有物であるといえます。
とはいえ,一般的に価値が無いと考えられる落ち葉は,木の所有権を落ちたときに放棄したともいえるでしょう。
そのため,他人の木から落ちてきた落ち葉を勝手に清掃したり燃やしたりしても,一般的には問題にならないでしょう。
ただし,落ち葉の量があまりにも多く清掃に多大な労力を要したり,落ち葉が雨樋に詰まって家に水が入り込むなどの実害あった場合は,その木の持ち主に対して清掃を要請したり(妨害排除請求権),民法233条に基づき落ち葉が落ちてくる木の枝の切除を要請したりすることができます。
以上,ご近所トラブルの原因にもなり得る「木に関する法律問題」をご紹介しました。
近隣の樹木やその産出物についてお困りで対応方法がわからない場合は,弁護士にご相談ください。
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