ブログ

増えるクマ被害、9月から市街地でも猟銃使用可能に

『コトニ弁護士カフェ』2025年9月26日放送分

今年もクマのニュースが話題になっています。環境省によると、2025年の4月から8月末までに、クマによる人身被害は全国で69人、うち5人が亡くなっているそうです。
これは、年間で過去最多の人身被害だった2023年度の同時期とほぼ同じ水準で、亡くなられた方も3人多くなっています。
今回は、深刻化するクマ被害について、新たな法改正についてお話しします。

異常個体・危険なクマの出現

2025年7月、北海道福島町で新聞配達中の男性がヒグマに襲われて亡くなりました。
調べによると、男性を襲ったヒグマは、4年前にも同じ町で女性を襲ったことのある個体だったそうです。そのときに「人を襲えば肉を食べられる」と学習してしまったと考えられます。

しかも報道では、被害者の方は事件の数日前から何度も同じヒグマに遭遇していたといいます。つまり、執拗に狙われていた可能性が高いのです。

こうした個体は、通常のヒグマの行動から逸脱した「異常個体」といわれるそうで、人間にとっては極めて危険ですから、駆除以外の選択肢はないのだそうです。

それ以降も、8月に羅臼町の羅臼岳で登山者がヒグマに襲われた事件をはじめ、クマによる恐ろしい事故が全国で起きています。

北海道はヒグマですが、本州ではツキノワグマの目撃が報告されています。環境省によると、今年4月から7月までのツキノワグマの出没件数は全国で1万2000件を超えており、去年の同じ時期に比べて1.4倍以上増えているようです。

自治体などは、秋にかけてドングリなどの餌が不足すると、市街地への出没がさらに増える可能性があるとして注意を呼びかけています。

▼参考
クマによる人身被害 全国で69人うち5人死亡 2023年度と同水準|NHKニュース
相次ぐ被害「人を恐れないクマ」はなぜ増えた?|東洋経済

人を恐れないクマ、その原因は

昔よりも捕殺の機会が減ったことで、人を怖がらないクマが増えています
以前は狩猟や駆除で人間に追われる経験をしたクマが多く、「人は危険だ」と学び、その学習は母グマから子グマへも受け継がれていました。
今ではそうした機会が少なくなり、人を避けない個体が増えてきています。

はじめは人間の存在を気にして夜だけ出てきていたクマも、一度人里で食べ物を得る経験をすると、だんだん昼間や人がいる時間帯にも現れるようになってしまいます。

そのため、絶対にやってはいけないのが「餌やり」です。

「かわいいから」「近くで写真を撮りたいから」などと、残念なことに、観光客などが興味本位でクマに餌を与える行為が問題になっています。好奇心からでも、クマに食べ物を与えることは、人を危険にさらす行為になりますので、絶対にやめましょう。

知床財団のWebサイトでは、「ソーセージ」と呼ばれた一頭のクマの物語が紹介されています。観光客が与えた一本のソーセージをきっかけに、人間の食べ物の味を覚えてしまったクマが、最終的には駆除されてしまう悲しい物語です。本来であれば森で静かに暮らしていたクマを危険な害獣にして、命を奪わせてしまったのは人間の行為なのです。

▼参考
知床財団の活動|ヒグマと生きるために

法改正により市街地でも猟銃が使用可能に

これまでは、住宅が密集する場所での猟銃の使用は禁止されており、警察が別の法律に基づいて発砲を命じるしかありませんでした。

よく知られている事件では、北海道砂川市で住宅の近くにクマが現れたときに、駆除のために呼ばれた猟友会所属のハンターが警察官と市の職員の許可を得て発砲したにもかかわらず、違法だといことで、そのハンターの免許が取り上げられてしまいました。このことがひとつの原因となり、クマが現れた際も、猟友会が協力を渋るようになったともいわれています。

そして2025年4月に改正鳥獣保護管理法が成立し、9月1日に施行されました。
この法改正によって、市町村の判断で、特例的に市街地でも猟銃が使えるようになりました。頻発するクマ出没に対応するためにルールが変わったのです。

条件はいくつかあります。

こうした要件を満たした場合、市町村がハンターに委託して発砲できるようになったのです。

発砲による損害が出た場合は、ハンターではなく市町村が補償することも法律に盛り込まれました。
対象となる動物は、ヒグマ、ツキノワグマ、そしてイノシシも含まれています。

▼参考
鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律の一部を改正する法律の概要
緊急銃猟ガイドライン|環境省
頼まれヒグマ駆除したのに…猟銃所持許可取り消し

■「クマがかわいそう」駆除への苦情と現場の実業

しかし一方で、人に危害を加えたクマを駆除した自治体に対して、地域外からも含めて多くの苦情が寄せられていることも問題になっています。

たとえば先述の福島町のケースでは、北海道庁や町役場に、「殺すのはかわいそう」といった声が200件以上も届いたそうです。

北海道の鈴木知事が会見で強調していたとおり、実際に人が亡くなっている状況で、現場ではハンターは命懸けで加害個体を捕獲しています。「現場の危険や大変さを理解してほしい」というのが自治体や環境省の立場です。

実際にクマと対峙して重傷を負うハンターもいますし、自治体やハンターの方々は本当に命懸けで活動してくださっています。

▼参考
クマ駆除の自治体へ苦情殺到、浅尾環境相が自粛呼びかけ「職員やハンターを萎縮させる」|読売新聞

クマと人、共生の道

健全な生態系を守るために、クマが増えすぎた地域では、生息数をある程度減らすことも必要かもしれません。

そしてもうひとつ大事なのは、人が暮らす地域と野生動物が暮らす地域をきちんと区別することです。

山林の付近などにゴミを捨てないことはもちろんですが、畑や家の周りは草刈りをして見通しを良くすることで、クマが警戒して近寄りにくくなります。
畑の周りやヒグマが通りそうな川沿いや林道にフェンスを設置することも有効です。

「人がいる場所には入らせない」という線引きを徹底することが、共生の第一歩。
単に「守る」か「駆除する」かではなく、生活の場をどう分けるかがカギになります。

クマやシカなどの野生動物の生態系を守ることは大切ですが、人間の生活に被害を及ぼさないように、管理しながら共生を目指していく。そのバランスを社会全体で考えていく必要があるといえます。

▼クマに関する過去の記事はこちら
さっぽろヒグマ基本計画2023
街に出没するクマの増加|自治体の責任と対策について
クマなどの動物被害による法的責任とは|鳥獣保護管理法について
北海道 朱鞠内湖の熊襲撃事件、その責任問題は?弁護士が解説
2024年“過去最多”に近づくヒグマの出没と対策

関連記事

  1. トランプ氏、大統領復活の可能性は?|弁護士が解説
  2. スキー・スノーボードでの事故 法的責任は?第2回
  3. スキー・スノーボードでの事故 法的責任は?第3回
  4. 北海道の地域振興-ニセコの事例
  5. スキー・スノーボードでの事故 法的責任は?第1回
  6. 関鯨丸の稼働とナガスクジラ捕鯨再開、日本の捕鯨はどうなる?
  7. 民法の共有制度はどう変わった?改正後の共有制度について解説
  8. 自然との共生を考える①
PAGE TOP