ブログ

退職代行モームリ社長逮捕、弁護士法違反の内容とは:弁護士が解説

『コトニ弁護士カフェ』2026年3月6日放送分

数年前から一気に広まった「退職代行サービス」ですが、退職代行サービス「モームリ」を運営する社長と従業員である妻が、2026年2月3日に弁護士法違反で逮捕されました。

弁護士資格がないにもかかわらず、顧客から依頼された勤務先との退職交渉を提携先の弁護士に斡旋し、紹介料を得ていた疑いがあるということです。

その後、2月23日には起訴され、さらに「モームリ」から利用者のあっせんを受けたとして、男性弁護士2名も非弁提携の疑いで在宅起訴されました。

▼参考
Yahoo!ニュース|退職代行「モームリ」、社長夫妻と法人を弁護士法違反で起訴…東京地検

弁護士斡旋を禁止する弁護士法第72条


弁護士が社会正義のために働くことができるよう、弁護士の資格や職務内容について細かく規定を定めているのが、「弁護士法」という法律です。

この弁護士法第72条では「非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止」について定められており、「弁護士でない者が、報酬を得る目的で法律事務を取り扱ったり、報酬を得る目的で法律事務の周旋(しゅうせん)をしてはならない」とされています。また、金銭を得る目的で周旋をした場合、最大で2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金という規定もあります。

周旋というのは、あっせん・紹介のことで、依頼者と弁護士を結びつける行為を指します。単に紹介するだけであれば問題ないのですが、「報酬を得る目的」があると違法になるというものです。

今回のモームリの事件で問題とされているのは、まさにこの部分であり、弁護士に依頼者を紹介して、その見返りとして紹介料を受け取っていた疑いがあるようです。

報酬は、依頼者からもらっても、弁護士からキックバックをもらっても、どちらでも該当します。「紹介してお金をもらう」という構図自体が、原則として禁止されているのです

▼参考
e-Gov|弁護士法

弁護士の紹介料が厳しく禁止されている理由


一般的なビジネスの世界であれば、紹介に対して報酬をもらう行為は大きな問題にならないように思えますが、なぜ弁護士への紹介料はここまで厳しく禁止されているのでしょうか。

それは、弁護士という仕事の特殊性に関わってきます。
弁護士という職業は依頼者の代理人としてさまざまな交渉や手続きをするのが仕事ですから、「依頼者のためだけに動く」ことが大前提です。

ところが、紹介者にお金を払って事件や依頼者を紹介してもらう、あるいはお金をもらって仕事を受けるとなると、紹介者との関係が強くなってしまい、依頼者の利益を最優先にできなくなる可能性が出てきます。つまり、依頼者の利益よりも、紹介ビジネスの構造が優先されてしまうおそれがあるわけです。

弁護士は、公平・公正が求められる職業です。それが揺らぐと、弁護士全体への信頼が揺らいでしまいます。だからこそ、紹介や斡旋に金銭が関わるという構図そのものを原則禁止にしているわけです。

退職代行サービスが非弁行為になる可能性


もともと退職代行ビジネス自体に対しても、非弁行為なのでは?と疑念を抱く声が一部ありました。

東京弁護士会からも、2025年10月に、退職代行サービスが非弁行為になる可能性について、注意喚起をしていました。

退職代行業者が、退職したい本人の意思を会社に対してそのまま伝えるだけの「使者」にとどまるなら、直ちに違法とは言えません。

しかし、そのあと会社側から「退職は認めない」「残業代は払わない」「有給消化はできない」など不利な条件を出されて、それに対応しなければならない場合、代わりに条件交渉や法的主張を始めるとなると、それは「交渉」になります。

そして、本来「交渉」の代理ができるのは弁護士だけなので、退職代行業者が代わりに交渉までしてしまうと、それは非弁行為にあたる可能性が出てきます。

退職代行が「意思伝達」にとどまるのか、「交渉」に踏み込むのかが線引きのポイントになり、まさにそこが長年グレーゾーンと言われてきた部分です。

▼参考
退職代行サービスとは?需要が高まる背景と法的問題
東京弁護士会|退職代行サービスと弁護士法違反に関する注意喚起

利用前に、退職代行サービスの対応範囲を確認しよう


モームリのWebサイトを見ると、もちろん「弁護士を紹介します」なんてことは書かれていません。
しかし、「弁護士が監修しています」「創業時からサービス内容はすべて弁護士に確認をとっています」ということが書かれており、利用者としては「弁護士が関わっているなら安心」と思ってしまいがちです。

退職代行を利用する方の心理状態としては、「辞めたくても辞められない」「辞めたいと言えない」など思い悩んで利用に至る方がほとんどだと思います。退職代行サービス会社を見つけて、「このサービスは違法行為では?」などと疑うこともないでしょう。

ただし、利用者側も依頼する以上は「知らなかった」では済まないので、退職代行サービスの内容が単なる意思伝達にとどまるのか、交渉や請求が必要となった場合はどうなるのか、そういったことを確認した上で、適切な業者や専門家を選ぶことが重要です。

退職という人生の大きな節目ですから、制度の仕組みを踏まえた上で、冷静に判断していただきたいと思います。

関連記事

  1. 隣家から伸びてきた木の枝を切るの法律違反?民法第233条について…
  2. ロシアのウクライナ侵攻から1年、今後予測される事態について|国際…
  3. 印鑑の法的効力は?ハンコがなくても成立する契約
  4. タクシー「乗車拒否」は違法?道路運送法について解説
  5. 台湾の法制度|台湾法の歴史、大陸法と英米法の違い
  6. いまなぜ「共同親権」なのか?これまでの単独親権制度を振り返る
  7. 自然との共生を考える①
  8. 2020年アメリカ大統領選挙と今後の行方
PAGE TOP