
最近、街中で外国人の方が運転している車を見かける機会が増えました。
日本に観光で来る外国の方や、日本に住んでいる外国人の方が、日本国内で車を運転することが増えてきているようです。
それに伴い、外国人ドライバーによる交通事故も問題になっています。
警視庁の調べによると、2024年の外国人運転者による交通事故は7286件で、ここ5年間で3割増えました。
このうち死亡事故は54件、重傷事故は486件と、決して少ない件数ではありません。
また、日本の運転免許証を保有する外国人は、昨年末時点で過去最多の約125万人にものぼるそうです。
今回は、なぜ日本で外国人ドライバーが増えているのか、理由と制度についてお話しします。
▼参考
外国人運転者にたいする交通安全対策ー令和7年版 交通白書(PDF)
コロナ禍が落ち着いたことで、インバウンド、つまり訪日外国人旅行者の数が急増しています。
特に北海道は昔から人気の観光地ですが、地下鉄やバスなどの交通機関が充実している札幌市内はともかく、札幌から離れてちょっと地方を回るとなると、やはりレンタカーの移動が便利というか必須です。
北海道では電車やバスが通っていない地域もありますし、交通手段があってもたとえばバスが1時間に1本もない、1日に数本といった地域もたくさんあります。
ファミリーやグループで旅行される方にとっては、電車やバスよりも、自由度の高い移動手段としてレンタカーが重宝されています。
また、観光面だけでなく、外国人の方が仕事で車を運転するケースも増えています。
2024年に外国人の方の在留資格である「特定技能」の対象分野に「自動車運送業」が追加されたことも外国人ドライバーが増えた要因です。
▼参考
外国人ドライバーが増える?在留資格「特定技能」に自動車運送業が追加!要件を解説|サポート行政書士法人
自動車運送業分野における特定技能外国人の受入れについて(国土交通省)
観光で一時的に日本を訪れて運転する場合には、国際運転免許証があれば運転が可能です。
加えて、現在日本に住んでいる外国人であれば、外国免許切替と言って、母国の運転免許証をもとに日本の運転免許に切り替えることができます。
いわゆる「外免切替」と呼ばれるものです。
条件を満たせば、学科試験や実技試験を受けずに切り替えできる国もありますし、実技試験が必要な場合もあります。
日本に中長期にわたり滞在している外国人の方が、母国で取得した免許を活用したい場合に使われるケースが多いです。
また、母国で運転免許証を取得しておらず、日本で新たに取得したい場合は、私たち日本人と同様に、自動車教習所に通い必要な試験を受けて、日本国の運転免許証を取得できます。
業務(タクシーやバスなどの運送業従事するなど)として運転する場合には、後述しますが、別の制度に沿って免許や資格を取得する必要があります。
2025年の10月から、外国免許切替の手続きが大きく変わる予定です。
これは2025年7月11日に警察庁から発表された案で、現在パブリックコメントとして意見を募集されています。
これまでの手続きでは、外国人が日本で運転免許を取得する場合、住民票がある人は住民票の写しを、住民票がない短期滞在の人は旅券や一時滞在証明などを使って、本人確認や住所確認が行われていました。要するに住民票を登録しない長期滞在でなくとも外免切替が事実上できていたのです。
そのため,ホテルなどの一時滞在場所を住所として外免切替により免許証を取得できた結果,交通事故などの連絡先に運転免許証の保有者が居住していないため,連絡が取れないという問題などがありました。
しかし今回の見直し案では、申請時に申請者の国籍にかかわらず、住民票の写しの添付を原則として求める方向に改められます。
これにより、観光など短期滞在の在留資格で入国している人は免許の取得ができなくなります。
ただし、国外に住む日本人や外交官、一時的に来日する外国人レーサーなどについては、戸籍謄本や在留資格を示す書類を提出することで、例外的に免許の取得が認められるようになります。
さらに、免許の更新時には見直しが入ります。
外国人については、在留カードや特別永住者証明書、住民票の写し、もしくは例外対象者用の書類の提示が必要になります。
また、審査の内容も厳格化されます。
これまでは、運転に必要な知識の確認として、イラスト付きの10問のテストを行い、70%以上の正答率で合格とされていましたが、今後はこのイラスト問題が廃止され、問題数が50問に増え、正答率も90%以上が求められるようになります。
技能についても、横断歩道の通過など新たな課題が加わるほか、合図の出し忘れや右左折の方法違反などについての採点が厳しくなり、日本で新たに免許を取る場合と同じ基準が適用される見通しです。
全体として、今回の見直しは、日本で運転する上で最低限の知識と技能をしっかり確認するための、制度の実質的な強化といえます。
▼参考
外国人ドライバーの事故や違反「検証が必要」 専門家、外免切替厳格化で言及|産経新聞
特定技能制度とは、人材の確保が困難な一部の産業分野等における人手不足に対応するため、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を労働者として受け入れる新たな在留資格のことで、現在は16の特定産業分野が対象となっています。
2025年8月現在、介護、ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、自動車運送業、鉄道、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、林業、木材産業の16分野が挙げられています。
この中の「自動車運送業」は、タクシーやバス、トラックの運転手が慢性的に不足している現状から、2024年に追加されました。
運送業界で外国人労働者の雇用が増えたことも、外国人ドライバー全体数が増えたひとつの要因でしょう。
特定技能「自動車運送業」の資格を取得するには、運転免許だけでなく、日本語力や安全に関する理解などが求められます。
たとえば、トラックの運転手になる場合には、第一種運転免許または中型・大型免許に加えて、日本語能力試験で「N4」以上のレベルが求められます。
タクシーやバスでは、第二種運転免許と、さらに日常会話がしっかりできる「N3」以上のレベルが必要になります。お客様の命を預かるお仕事ですから、きちんとした日本語力がないと、万が一のときに対応できません。
さらに、実際に働くためには道路交通法や安全運転、労働に関する法律などの知識も問われます。
トラックの場合は、貨物の積み下ろしなどの作業も含まれますし、タクシーやバスの場合は、接客マナーや安全運行のスキルも求められます。
▼参考
特定技能制度|出入国在留管理庁
自動車運送業分野における特定技能外国人の受入れについて(国土交通省)
今回は外国人ドライバーに関する話題でしたが、交通事故をできるだけ無くすため、安全運転を心がける必要があるのは、私たち日本人も同様です。
外面切替の厳格化についても、「外国人に厳しくしよう」という施策では当然なく、あくまでも日本人ドライバーと同じ運転技術を持ってもらうためのもので、その目的は「交通事故を減らすこと」なのです。
外国人や日本人に関係なく、安全な日本の社会を保つため、「安全運転」という共通認識を大事にしていけたらと思います。
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