最近,高齢者ドライバーによる逆走事故のニュースをよく目にします。
逆走事案は2017年~2022年の平均で年間約190件発生しており,重大な交通事故につながる危険行為です。
JAF「高速道路の逆走は2日に1回の割合で、年間では平均190件も発生している!」
特に高速道路での逆走は,対向車と衝突するリスクが高く,被害が甚大となる可能性があります。
今回は,道路の逆走が法律上どのような違反行為になるのか,また逆走事故に高齢者ドライバーが多い理由についてお話しします。
今年のお盆期間中も,栃木県内の高速道路のジャンクション付近でドライブレコーダーに映った逆走車の姿がテレビで放送されていて,とても衝撃的でした。
9月2日にも愛知県の高速道路で80代の男性が運転する軽トラックが逆走し,そのまま隣の岐阜県まで33キロ走行したというニュースがありました。
Yahoo!ニュース「80代男性が高速道路を「33kmの大逆走」」
NEXCO東日本の調査によると,全国の高速道路での逆走事案は2015年から2020年まで減少傾向にありましたが,2021年から2023年にかけて再び増加傾向にあるようです。
2023年には年間224件の逆走事案が起こり,そのうち7割は65歳以上の運転手だったとのことです。
また,逆走から物損事故や人身事故が発生した件数は,2023年は年間39件となっています。
(参考:高速道路における逆走の発生状況|NEXCO東日本)
逆走は,道路交通法においては「通行区分違反」とされ(道路交通法第17条参照),反則点2点,普通車で9,000円の反則金が科されます。
一見すると軽い処分に感じるかもしれませんが,これは道路交通法だけで判断した場合の罰則です。
さらに逆走により負傷事故や死亡事故が発生した場合,過失運転致死傷罪などの刑事責任が問われる場合もあります。
重大な事故を引き起こした場合は,その過失の度合いによって,刑事罰が重くなる可能性があります。
さらに一般的な交通事故と同じく,民事上の責任として,被害者に対する損害賠償義務も発生します。
2014年5月20日に「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が施行されました。
この法律以前は,刑法208条の2に「危険運転致死傷罪」という規定がありましたが,飲酒運転や悪質な運転,通行禁止区域での走行や高速道路の逆走などで死傷事故を起こしても,刑法の危険運転致死傷罪の要件に該当しない,またはそもそも規定されないとして,刑罰の軽い自動車運転過失致死傷罪が適用されていました。
この新しい法律では,通行禁止道路を進行し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為が新設されました。
高速道路の逆走事故はこれに該当します。
この法律により,危険な運転をする人への罰則が強化されました。
「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」第二条
6.通行禁止道路を進行し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
高速道路の逆走事故はこれに該当します。
そして,アルコール又は薬物の影響により、正常な運転が困難な状態に加え,正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転した場合の罰則も新設されました。
第三条
アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。
「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」
国土交通省の逆走事案のデータ分析結果によると,高速道路の逆走の約6割がインターチェンジやジャンクション付近で発生しているそうです。
要因としては,「行き先の間違いに気付いて戻ろうとした逆走」が約5割を占めています。
さらに,逆走したドライバーの5人に1人は,逆走の認識がなかったとのことです。
高齢ドライバーは運転歴が長くベテランであることも多く,運転には自信を持っている方が多いというのも理由のひとつでしょう。
そういった長年の運転経験による自信から,たとえ誤って逆走してしまっても「まさか自分が逆走するなんて」と信じられなくなってしまって,逆走しているのにそのまま突っ走ってしまう,ということが起きてしまうのかもしれません。
逆に初心者ドライバーのほうが常に注意を払って運転している方が多いので,たとえば仮に逆走してしまっても「間違えた!」「危ない!」とすぐに気が付くでしょうし,危険な事故につながる前に,車を停める,助けを求めるという判断ができるかもしれません。
逆走してどうしていいかわからなくなってしまったら,まずは冷静になり,路肩や安全な場所に停車しましょう。
そして高速道路の路肩にある非常電話を使うか,携帯から道路緊急ダイヤル,もしくは警察に電話をするようにしてください。
非常電話は,高速道路の場合は原則として1kmごとに設置されていますし,トンネルの中でも200mごとに設置されているので,冷静になれば必ず近くで見つけることができるでしょう。
受話器を取るだけで管制センターにつながりますので,どこにかけたらいいか調べたり迷ったりする必要もありません。
逆走をしてしまった時点で,通行区分違反にはなってしまいますが,そのまま逃げ切ろうとして重大な事故につながるほうが,後々深刻な事態になります。
高速道路で逆走するということは,ブレーキとアクセルを踏み間違えるのと同じぐらい,もしくはそれ以上に危険な行為です。
わざわざ危険を侵して故意に逆走する運転者はいないでしょう。
うっかり逆走してしまっている事実に気付くと焦ってしまうかもしれませんが,一度冷静になって正しく対処することが大事です。
安全運転は,自分自身だけでなく,他の道路利用者の命を守ることにもつながります。
皆さんも,日頃から安全運転を心がけましょう。
ラジオ番組『コトニ弁護士カフェ』
毎週金曜日10時30分から三角山放送局で放送中!
隔週で長友隆典護士&アシスタントの加藤がお送りしています。
身近な法律のお話から国際問題・時事問題,環境や海洋のお話まで,様々なテーマで約15分間トークしています。
皆様からの身近なお悩み,ご相談などのリクエストもお待ちしております。
三角山放送局 reqest@sankakuyama.co.jp または当事務所のお問い合わせフォームでも受け付けております。