近年はAI技術の進展により,さまざまなAIシステムが増加していますが,特に注目を集めているのが「ChatGPT」です。
2023年4月,ChatGPTの開発企業であるアルトマン社のCEOが来日したとの報道もあり,さらなる注目を浴びています。
そこで今回は,今話題のChatGPTについて,法的な観点からお話ししていきましょう。
ChatGPTとは,2022年11月にアメリカのOpenAI社が開発した人工知能(AI)チャットボット(Chatbot)です。
端的にいうと,入力した質問に対して自然な言葉で回答する対話式のAIチャットサービスです。
質問への迅速な回答だけでなく,文章の創作,要約,翻訳などの画期的かつ便利な機能を備えており,既に世界中で多くの方々に利用されています。
ChatGPTは凄まじい勢いで進化しており,現在は2023年3月に公開されたChatGPT-4が主流となりつつあります。
例えば,ChatGPT-4でアメリカの模擬司法試験を解かせてみると,上位10%のスコアを叩きだしたという話も聞いています。
2023年3月,国会で岸田首相に対してChatGPTで作成した質問をし,ChatGPTが作成した首相の想定答弁が披露されていました。
また,2023年5月には,ChatGPTのスマートフォン向けアプリが日本での提供が開始されたことも話題になっていました。
このような機能が手軽に利用できるChatGPTはとても便利なツールですが,一方でまだ解決すべき課題が多く存在しています。
上手に応用すれば幅広い用途で利用できるChatGPTですが,最近では使用禁止にしている企業が増えてきているようです。
ChatGPTの利用について,企業の懸念点は主に以下の2点が考えられます。
ChatGPTを業務に利用することで,機密情報や個人情報などの情報の漏えいが懸念されています。
実際,2023年3月20日には,別ユーザーの氏名や住所,クレジットカード番号の下4桁などが表示される問題が発生し,一時的にサービスがオフラインになったことがありました。
この問題に対して,ChatGPTを開発したアメリカの企業「OpenAI社」は,システムのバグが原因であったと説明しました。
現在は修正されているとのことですが,現段階においてはChatGPTの信頼性にはまだ課題が残されているといえます。
情報の漏えいは企業にとって非常に深刻な問題になり得るため,信頼性が欠けるシステムは大きなリスクをもたらす可能性があると考えられているのです。
ChatGPTの学習データには,個人情報保護法で守られるべき情報や著作権等が設定された情報が含まれる可能性があるといわれています。
6月の初旬にも,我が国政府の個人情報保護委員会はChatGPTに対して「SNSなどで出回る発信者以外の個人情報を,ChatGPTが当人の同意を得ずに取得する可能性がある」とし,プライバシー保護の観点から問題があると指摘していました。
政府の個人情報保護委員会は,オープンAIに対し行政指導をしたとの報道もありました。
具体的な被害情報や法律違反は確認されていないものの,予防的な対応が必要とされた結果,行政指導が行われたと考えられます。
悪意のある第三者がAIに間違った情報を学習させることで,回答の偏りや誤りが生じ,正確性や公平性が低下してしまう点も問題視されています。
ChatGPTはインターネット上の情報を元にして回答を作成しています。
しかし,インターネットには古い情報や誤った情報も一定数含まれているため,情報の正確性について疑問が生じることもあります。また、意図的に偏りのある情報を学習させることができれば、回答に公平性がなくなる可能性もあります。
こうした点が,現時点ではChatGPT特有の問題として指摘されています。
インターネット上の情報を鵜呑みにして正しい情報として利用したり提供したりすると,場合によっては虚偽に当たる可能性もあるでしょう。
間違った情報をそのままソースとして使用してしまうと,思わぬ法律に違反してしまうこともあるので,慎重な判断を行うことが重要です。
ChatGPTに限らず,画像生成AIにもさまざまな問題があるとして注目されています。
AIが作成した画像が,元となったアーティストの作品に酷似しているという事例が増え,著作権侵害の疑念が持たれる場面が増えています。
その原因は,AIの学習元が明確にされていないことが挙げられます。
利用した当人は,AIから作り出された作品が誰かの作品と酷似していることには気付けず使用してしまうケースがあるので,そういった事態を防ぐための対策が求められています。
画像生成AIについては次のブログで詳しく解説します。
まずは前提として,ChatGPTは人間が持つの論理的思考力や判断力を備えておらず、あくまでも自動応答のツールであるということを理解しておかなければなりません。
ChatGPTを便利に活用する方法として,「文章の添削・校正作業」や「プログラミング」での活用が挙げられます。
これらの使い方では,法的問題に違反する可能性は低いでしょう。
また,ChatGPTの得意分野として,「アイディアの提案」が挙げられます。
キャッチフレーズやコピーライティングのアイディアであったり、企画のアイディアだったりを回答してもらうこともできます。
ただし,提案されたアドバイスは参考程度にとどめて活用するのがいいかもしれません。
ChatGPTで得た情報やアイディアをそのまま使うのではなく,人間の手で公開可能なものにする必要があるということが重要です。
先ほどお話しした個人情報やプライバシー侵害などに当たる可能性がある情報であっても,ユーザーの手で法的な要件に当たらないよう配慮することはできます。
情報の精査には慎重さが求められますが,適切なネットリテラシーを持って正しく利用すれば,便利なツールであることは間違いありません。
現在も開発が進められているChatGPTをはじめとしたAIシステムは,医療分野でも注目を集めています。
たとえば医師の診察において,患者の問診の回答を解析して,原因の予想や必要な検査,治療薬の選択の目星をつける作業には役立つ可能性があると考えられています。
さらに,薬の正しい飲み方,起こり得る副作用など,患者の疑問や不安をクリアにするような質疑応答は得意分野といえるでしょう。
他にも,ChatGPTは長文の出力も得意なため,論文作成への応用が期待されているようです。
なお,私ども弁護士業界でもAIは大いに活躍しています。
弁護士は,法律や過去の判例を元に解決策を導くため,膨大なデータを処理するAIは,まさに弁護士業に適しているといえます。
しかし当然ながら,弁護士の役割がAIに完全に置き換えられることはありません。該当する法律や似たような事例を即時に探し出すことはできますが、個別の事件の特性を判断したり、依頼者の心情を加味したり、そういったことはまだまだ人間にしかできないでしょう。
AIの機能と人間だけが持つ能力を組み合わせて,より高度な法的サービスを提供することが,将来的な方向性として考えられるのではないでしょうか。
まだまだ現時点では著作権などの問題が山積みですが,ChatGPTなどのAIがこれからの社会にどのように浸透し進化していくのか,楽しみでもあります。
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