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寿都町が核廃棄物の最終処分場選定の調査へ応募検討

『コトニ弁護士カフェ』2020年8月21日放送分

北海道 後志(しりべし)地方,海沿いの小さな町である寿都町(すっつちょう)。
現在この北海道の小さな町が全国から注目を集めているのは,寿都町が核燃料廃棄物の最終処分場を選定するための「文献調査」に応募を検討していることが明らかになったためです。
今回は,核廃棄物の処分場が選ばれるまでの調査の流れについて,法律や制度の観点から解説いたします。

寿都町民も寝耳に水,衝撃が走った8月13日

寿都町が原発の核燃料廃棄物の最終処分場の候補として名乗りを挙げたというニュースについて,私はもちろん知りませんでした。
何名か寿都町の方にすぐに連絡を取ったのですが,皆さんニュースを観て初めて知ったと言っていました。
突然のニュースに皆さん驚きを隠せない様子でした。

核燃料廃棄物の最終処分地決定までは約20年かかる

報道では「寿都が核のゴミ受け入れ」のように大々的に報じられていますが,最終的な処分場に選ばれるまでには長年かけて段階を踏んでいくことになります。まずは処分場に選ばれるまでの流れを説明します。

はじめにお伝えしたいのは,今回寿都町が名乗りを挙げたからといって,たとえば来年とか再来年とかに工事が始まって,急に核の廃棄物がどっと持ち込まれる,ということは絶対にありません。
処分場の選定は「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」という法律に定められている通り,選ばれるまでに三段階の調査があり,今回寿都町が応募を検討している「文献調査」というのは最初の段階です。
廃棄物を地下深く埋めるのに適した地形であるか,地質や地層のデータから調査などをして,「文献調査」は2年ぐらいかかると言われています。

文献調査の結果から,この土地はデータから見て処分場に適していると判断された場合,次の調査に進むことができます。
次の「概要調査」では実際に地層を深く掘って,そこの地質や地下の状態などを調査します。これは4年ほどかけることになります。
そして更に第二段階の調査結果や自治体などの同意を得て,第三段階の調査を始めることができます。こちらは「精密調査」といって,実際に掘削した地質や地層を精密に検査し,将来において安定的な地層が保たれるか,過去の火山活動や地震の痕跡などをもとに検討していきます。この精密調査は実に14年程度かけることが想定されています。
このように,仮に文献調査から概要調査,精密調査へと順調に進んだとしても,最終的に処分場が決定するのは約20年後になります。

20年間でたった1件の応募:高知県東洋町の事例

核燃料廃棄物は現在,青森県六ヶ所村と茨城県東海村に保管されていますが,この二箇所は最終処分場へ行くまでの冷却と保管をする一時保管施設です。
日本国内では最終処分施設というのはまだありません。施設がないだけでなく,施設を建設する土地さえ決まっていません。
放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が施行されたのが2000年,それから過去に候補地に立候補したのは2007年の高知県東洋町という町だけでした。
東洋町も人口や町の規模は寿都町と同じくらいの小さな町で,町長が調査に応募したあとに,地元住民を中心とした反対運動が広がっていきました。町長へのリコールの署名が集まる中で,町長が自ら辞任の後に再選挙となり,反対派の新しい町長になった時点ですぐに応募を撤回。その後,同じことが繰り返されないように,核の持ち込みを禁止する条例を町で制定したそうです。

調査への応募は町長の一存で実行可能

2007年の東洋町の事例では町長の独断で応募をしたようですし,今回の寿都町の件でも,応募検討は片岡町長の判断ということで,その言動が注目されています。そして寿都町のほとんどの町民が8月13日に報道が出るまで知らなかったのも事実です。
そこで疑問として出てくるのが「そのような町の命運を左右する重大事項を町長の一存で決めることができるのか?」ということです。

前述の処分に関する法律を読むと「概要調査地区の選定のためには文献調査を実施しなければならない(第6条)」という書き方がされていて,文献調査自体への詳しい選定方法や応募方法などについては特に記載がありません。概要調査地区や精密調査地区を決めるときには「都道府県知事及び市町村長の意見を聴き,これを十分に尊重してしなければならない。(第4条第5項)」と法律にはあります。つまり,住民の何割の賛成が必要だとか,周辺市町村の何割の同意が必要だとか,そういったことは一切ありません。
ですので、「町長の判断で調査への応募は可能か?」という質問には「可能である」という答えになるでしょう。

一方で,北海道には核を持ち込まない条例があります。
この条例は,2000年頃に宗谷の幌延町が高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する研究開発をするための「幌延深地層研究センター」を受け入れる際に決定された条例です。今回の寿都町の件では,道知事はこの条例を根拠に難色を示していますが,法的拘束力はありません。あくまでも地元自治体の決定に委ねられているということです。

北海道における特定放射性廃棄物に関する条例
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/kz/kke/horonobe/data/zyourei.htm

「調査」しただけでは最終処分場には選ばれないルール

最終処分地の選定と地層処分事業は,原子力発電環境整備機構: NUMOという団体が実施しています。NUMOのWebサイトを見ると,処分場選定までの流れ,三段階の調査の流れなど詳しく掲載されていますので,ぜひ見てみてください。

最終処分場選定までに三段階の調査が必要ということは前述しましたが,前述の法律の定義によると,次の段階の調査に進む際には「都道府県知事及び市町村長の意見を尊重する」とあります。つまり,都道府県知事や市町村長が「次の調査に進みません」と意見を主張したら,そこで終わるということが言えます。
NUMOのWebサイトにも「改めて地域の意見を聴き反対の場合は先へ進まない」とはっきりと書いています。

以上より,たとえ今回寿都町が文献調査を実施して,調査結果によって次の調査に進めることになったとしても,以降する段階で,たとえばその間に町長の考えが変わったり新しい町長になったりして「概要調査へは進みません」「精密調査へは進みません」と意見した場合は,NUMOは次の調査に進めない,という論理になります。

原子力発電環境整備機構: NUMO
https://www.numo.or.jp/chisoushobun/ichikarashiritai/bunken.html

全ての候補地が調査しかしなかったら最終処分地は決まらない

仮に,これから寿都町をはじめ複数の市町村で調査が実施されたとして,すべての市町村が「調査はしましたが先へ進みません!」と言い出したらどうなるでしょうか?
それこそ文献調査をすれば最大20億円,概要調査まで実施すれば最大70億円の交付金が付与されるのですから,寿都町に見習おうとたくさんの市町村が名乗りを挙げるかもしれません。(実際に報道によると寿都町の片岡町長は,交付金をうまく活用したいとはっきりと言っていることがわかります。)

全国各地の様々な市町村で「文献調査」「概要調査」をして,全ての段階の調査を経た市町村の中から「処分施設を受け入れます!」という自治体が現れてくれたらいいのですが,すべての市町村が「先へ進みません」と主張したら,いよいよ国も処分場が決まらずに困ることになります。
調査だけに合計数百億円という税金を投入したものの結局最終処分場は決まらず,という事態になってしまいます。

既に核燃料の廃棄物は発生しており,一時保管施設で行先を待っている状態です。今後もそれらは増え続けて,近い将来に最終処分場が必要になるのは明らかな事実です。そうなると将来この「先に進みませんルール」が変更になって「過去に調査をした市町村から国が処分地を決定します」というような内容へと法律が改正される可能性もゼロではないと私は考えます。(繰り返しますが,これはあくまでも私の考えです。)
それは20年後か50年後かもしれませんし,それとも海外の処分場に持ち込むことが可能になるかもしれないし,そもそも原発を辞めようとなるかもしれないし,それは現時点では分かりません。しかし「調査をしても,断れば絶対に最終処分場にはならない」というのは少し危険かもしれません。

様々な可能性を考慮して,住民の皆さんや周辺市町村の意見,北海道の意見にも耳を傾けた上で,しっかりと慎重に議論を進めていただきたい事案です。

【参考】
特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律
 https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=412AC0000000117
北海道における特定放射性廃棄物に関する条例
 http://www.pref.hokkaido.lg.jp/kz/kke/horonobe/data/zyourei.htm
・原子力発電環境整備機構: NUMO
 https://www.numo.or.jp/

『コトニ弁護士カフェ』次回の長友隆典弁護士の担当回は, 2020年8月28日放送です!

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