日本国内でも各地で新型コロナウイルスの感染が拡大する中で,クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」では4000名近い乗客と乗組員のうち,700名以上の感染者,7名の死者が出たことで,船内の衛生管理や政府の検査体制などについて,国内外から注目される事態となりました。
今回は,国際海洋法条約などから見る「ダイヤモンド・プリンセス号」の法的位置づけについて解説します。
―「ダイヤモンド・プリンセス号」は,船内で感染者が発見され隔離されていたにも関わらず感染者数が増え続けてしまったことで,日本政府の対応が海外から非難される声もありました。
そもそもダイヤモンド・プリンセス号はイギリスの船のようですね。
長友隆典弁護士(以下略): ダイヤモンド・プリンセス号が仮に日本国籍の船だったら,もっと違う方法で病気の拡散を防止することができたと思いますが,イギリス船籍かつ船主がアメリカの会社だったのが問題だったようです。
船や飛行機のように国境を越える乗り物について,その中の空間では何か起きた時にどこの法律が適用されるか考えてみましょう。
例えば日本の領海にアメリカ国籍のフェリーが入ってきて,その船に私が乗っていたとして,そこで私の財布が盗まれた!
その場合,日本の警察は強制的に船の中を捜査することができるのでしょうか?
原則としては,警察権の行使はできません。
考え方の根拠として,旗国主義という考え方が適用されます。
国連海洋法条約92条に規定されているのですが,外国船舶であってもその航行が無害である限り,船舶は,その船がどこにいても船の中はその船籍をもつ国の管轄になるという考え方です。
そして,原則としてその船籍国がその船や乗組員の安全を確保しなければなりません。
これに加えて,外国船舶には無害通航権という権利があります。
外国船舶であっても,その航行が無害である限り,他国の領海内を自由に航行できるという権利です。
これも国連海洋法条約21条に規定されています。
さらに,外国船舶に対する警察権の行使がこの条約の27条で制限されているのです。
では「旗国主義」について,今回のダイヤモンド・プリンセス号の事例で考えてみます。
コロナウイルスがダイヤモンド・プリンセス号の中で発生していることがわかっても,感染者を強制的に検査したり,どこかに移動させたり,一方的に消毒や治療などをすることは原則として出来なくて,まずは旗国であるイギリスが責任を持たなければなりません。
今回,沖合に停泊していたダイヤモンド・プリンセス号が突然,港に停泊したことを覚えていますか?
「無害通航権」とはあくまで通行している間の権利であって,接岸して停泊しているときは日本の公権力が日本法に基づいて及ぶのです。
さらに日本の法律が適用されることで,日本の検疫法によって船の中にいる人たちに伝染病などが発生した場合は,入国拒否が可能です。
一方で,船籍はイギリスであることに変わりはありませんので,政府としては一旦接岸させた上で日本国の法令に従って,乗組員や乗客の入国を拒否した上で,イギリスの許可を得ながら病気の検査や検疫を行なっていたのだと思います。
とはいえ管轄というのは法律の問題なので,地理的には日本国内で発生していることは間違いないです。
ダイヤモンド・プリンセス号は乗客の約半分が日本人だったことも日本が入国を受け入れた理由だと思います。
実際にその後,オランダ籍のウエスタルデム号を出入国管理法に基づいて入国拒否をしています。
ウエステルダム号には日本人乗客は5名しかいませんでした。
ダイヤモンド・プリンセス号について,日本は入国拒否が可能であったにも関わらず,日本人の乗客が多いことを理由に人道的配慮に基づいて受け入れたのであれば,そこに何らかの基準が必要になるでしょう。
受け入れ拒否された船舶は行き場を失う恐れもありますし,かといって日本周辺を航行するすべての船舶を容易に受けれていては,国としての負担が大きくなってしまいます。
「旗国主義」という原則の中で,感染症の拡大を防ぎ乗客や乗組員の安全を第一に確保するために,そして各国がスムーズに協調して受け入れ国がより迅速に対応が可能になるように,このような非常事態における新たな国際ルールが必要かもしれません。
―ありがとうございました。
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