
令和8年10月から、労働施策総合推進法の改正により、企業がカスタマーハラスメントへの対策を講じることが義務になります。
これはすべての事業者に関わることであり、さらに働く方だけでなく、私たち消費者にとっても非常に重要な法改正です。
今回は「カスハラ対策義務化」について、弁護士であり社労士でもある長友隆典が、わかりやすく解説いたします。

カスタマーハラスメント、略して「カスハラ」。
今回の法改正では、カスタマーハラスメントを「顧客等の言動であって、業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの」と定義しています。
まずはじめに大事なのは、すべてのクレームがカスタマーハラスメントに当たるわけではないという点です。
客観的に見て正当な申入れや苦情は、カスタマーハラスメントには該当しません。社会通念上の許容範囲を超えた言動かどうかが判断の基準になります。具体的には、商品やサービスと全く関係のない要求、契約等により想定しているサービスを著しく超える要求、対応が著しく困難または不可能な要求、不当な損害賠償要求などが挙げられます。
そして、手段や態様も判断基準となります。暴行・傷害といった身体的な攻撃、暴言・侮辱などの精神的な攻撃、威圧的な言動、継続的・執拗な言動、長時間の居座りといった拘束的な言動などが該当します。
また、定義内の「顧客等」といわれる範囲も広く、商品の購入者やサービスの利用者だけでなく、取引先の担当者、駅や病院、学校、公共施設などの利用者も含まれます。
さらに現在の購入者・利用者だけでなく、今後購入やサービス利用の可能性がある方も対象になる点も押さえておきたいところです。対面でのやり取りに限らず、電話やSNSなどインターネット上で行われる言動も対象になります。

引用:厚生労働省|職場のハラスメントに関する実態調査(令和5年度)
厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度)によると、全国約8,000の企業・団体のうち、過去3年間に労働者から「顧客等からの著しい迷惑行為」に関する相談があったと回答したのは27.9%で、前回調査(令和2年度)と比べて8.4ポイント増加しています。
具体的な迷惑行為の内容は、「継続的な、執拗な言動」が72.1%で最も多く、次いで「威圧的な言動」が52.2%、「精神的な攻撃」が44.7%となっています。
こうした迷惑行為による損害や被害として、「通常業務の遂行への悪影響」が63.4%、「労働者の意欲・エンゲージメントの低下」が61.3%という回答が出ています。
このような状況を受けて、カスタマーハラスメントへの対応を労働者個人に委ねるのではなく、事業主が組織として対応する必要性が高まったことから、令和7年6月に労働施策総合推進法が改正されました。

カスハラ対策の義務化によって、事業主には大きく5つの措置が求められます。
1.方針の明確化と周知・啓発
カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確にして、労働者に周知・啓発しなければなりません。あわせて、カスタマーハラスメントの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知することも求められます。
2.相談体制の整備
カスタマーハラスメントに関する相談窓口をあらかじめ定め、それを労働者に周知しなければなりません。相談窓口の担当者が適切に対応できるようにすることも必要です。
3.事後の迅速かつ適切な対応
相談があった場合には、事実関係を迅速かつ正確に確認します。カスタマーハラスメントが生じた事実が確認できた場合、速やかに被害を受けた労働者への必要な配慮を行い、再発防止措置を講じることが求められます。
4.悪質なケースへの抑止のための措置
特に悪質と考えられるカスタマーハラスメントへの対処方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、対処できる体制を整備することが求められます。
5.相談者のプライバシー保護
相談者のプライバシー保護と、相談したことを理由とした不利益な取扱いをされない旨の周知・啓発も求められます。
今回の義務化は、業種・業態や企業規模を問わず、すべての事業主が対象になります。
接客業やサービス業だけでなく、企業同士の取引の多い企業でも、取引先の担当者から不当な言動を受ける可能性がありますので、あらゆる業種で対応が必要です。

働く方については、カスタマーハラスメントに遭遇した際に、一人で抱え込まず速やかに上司や相談窓口に報告・相談することが重要です。
事業主がきちんと対策を講じている職場であれば、組織として対応してもらえる環境が整っているはずです。
そして今回の法改正で特に重要なのは、私たち消費者への啓蒙にもなっているという点です。
サービスや商品に不備があった、相手がミスをしたというケースでも、事実を指摘して正当な要求をすることにとどまらず、必要以上に執拗に責め立てたり、威圧的な態度を取ったり、目の前の個人を攻撃するような言動はカスハラになってしまいます。
場合によっては相手に落ち度はなく、単に自分の思い通りにならなかった、自分の確認不足や勘違いだったということもあるかもしれません。それなのに一方的に怒りや不満をぶつける、理不尽な要求をするといった行為は、ハラスメントに該当します。
私たち誰もが一歩間違えると「カスハラ加害者になる可能性がある」ということを意識して、冷静な言動を心がけましょう。度を超えたカスタマーハラスメントは、刑事上の脅迫罪、強要罪、傷害罪に該当したり、民事上の不法行為による損害賠償が請求されたりするケースもあります。

当事務所でも、カスタマーハラスメントへの対応方針の整備や、悪質なケースへの法的対応に関するご相談が増えています。
事業者の方で、カスタマーハラスメントへの対策をどう整備すればよいかわからないという場合も、ぜひ専門家にご相談ください。
▼参考
厚生労働省|安心して働ける職場へ ─ ハラスメント対策の強化で何が変わる?
厚生労働省|従業員を守るために ― カスタマーハラスメント対策の新ルール
厚生労働省|職場におけるハラスメントの防止のために
カスタマーハラスメント対策の義務化【改正労働施策総合推進法・指針の内容】
令和5年度 厚生労働省委託事業|職場のハラスメントに関する実態調査報告書
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