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トランプ関税その後〜スタバ指数とアメリカの物価事情

『コトニ弁護士カフェ』2025年9月12日放送分

今回の放送は、出張先のシアトルから中継で収録しました。

トランプ関税が導入されたアメリカの経済は、どのような影響を受けているのでしょうか?

シアトルといえば「スターバックス」ということで、今回は、「スターバックス指数」や「ビッグマック指数」といった物価指標を手がかりに、アメリカの物価事情と日本への影響を考えていきます。

トランプ関税の現状と影響は?

トランプ大統領は、日本を含む海外からの輸入品に高い関税をかける方針を打ち出しています。日本の自動車や水産品には最大24%の関税を課すとされており、日本の輸出産業には大きな影響が出ると言われています。

こうした関税は、一見アメリカの産業を守るための政策に見えますが、結果的に輸入品の価格が上がり、アメリカ国内の消費者や企業にとっても負担になる恐れがあります。

トランプ関税の主な動き(2025年5月以降)

  • 5月23日:トランプ大統領がEUに対して、6月1日から50%の関税を課すと表明。
  • 5月25日:関税発動を7月9日まで延期すると発表。
  • 5月28日:アメリカ国際貿易裁判所が「大統領の権限を超えている」として、一部関税措置を差し止め。
  • 5月29日:控訴裁判所が差し止めを一時停止し、関税は継続される形に。
  • 6月:鉄鋼・アルミニウムの関税を25%から50%へ引き上げると発表。さらに冷蔵庫や洗濯機といった白物家電も課税対象に追加。
  • 7月7日:トランプ政権が貿易交渉の期限を延長。日本を含む14カ国に、8月1日からの新しい関税率を通知。当初日本は25%とされる。
  • 7月22日:アメリカと日本が正式に貿易合意。日本の巨額投資や市場開放と引き換えに、対日関税率は15%まで引き下げられる。同日、フィリピンも貿易合意。
  • 7月27日:アメリカとEUで合意成立
  • 8月30日:トランプ関税に米控訴審で再び違法判決
  • 9月4日:日本からの投資合意を含む合意書の署名

このように日本だけでなくEUとも相次いで合意が成立し、いずれも当初予定より低い水準で落ち着いています。

ただ一方で、ブラジルやカナダ、メキシコなど一部の国に対しては逆に大幅な関税引き上げが行われました。

たとえばブラジルは50%、カナダは35%とされ、8月以降は銅製品への一律50%関税、医薬品への最大250%の追加関税、さらには半導体に100%課税といった非常に厳しい措置も次々と打ち出されています。

このように、現状は「交渉で緩和される国」と「むしろ強化される国」に二極化してきているといえます。アメリカ国内においては、輸入品の価格が上がったり下がったりと、消費者の生活にもじわじわと影響が及んでいるようです。

世界の物価比較〜スターバックス指数とは

「スタバ指数」というのは、スターバックスの「トール・ラテ」の販売価格をもとに、各国の通貨の力を比べる指標です。

「購買力平価説(こうばいりょくへいかせつ)」という考え方に基づいていて、本来は同じ商品なら為替レートを考慮すれば同じ価格になるはずだ、という発想をもとにしています。

実際にこのスタバ指数を見てみると、2022年時点、アメリカのローン企業CashNetUSAの子会社SavingSpotが、世界のスターバックスを調査した結果によると、ラテの価格が世界で一番高いのはスイスで7.17ドル(日本円で1,100円以上)、一方で最も安いのはトルコで1.31ドル(約200円)でした。日本は72か国中41位で3.57ドル(約570円)だったそうです。

本場アメリカは意外と安く、この調査のときには54位で3.26ドル(約480円)でした(ただしニューヨークやカリフォルニアなど大都市では日本より高くなるケースもあるそうです)。

ちなみに今回シアトルの空港内のスタバに行ってみたのですが、ホットのトール・ラテが税込み6.9ドルくらい(日本円換算で1000円くらい)でしたのでかなり値上がりしていました。ちなみに10年以上前はブラックコーヒーは1ドル、ラテも2ドルくらいだった記憶があります。

▼参考
https://en-funding.en-hd.jp/column/column.html?article_id=134
https://president.jp/articles/-/86939?page=3#

ビッグマック指数から見る物価推移

スタバ指数よりも昔から議論されているのが、「ビッグマック指数」です。

これは『エコノミスト』というイギリスの経済誌が年2回、約50カ国・地域で調査しているもので、世界共通の商品であるビッグマックの価格を基準にしています。

2024年7月時点では、日本のビッグマックは480円だったのですが、最も高いスイスでは7.10スイスフラン(約1,207円)で、日本の約2.5倍です。ノルウェーも1,000円を超えていて、アメリカやイギリス、ユーロ圏では800〜900円台。韓国は600円ほどでした。日本は下から数えて11番目くらいで、中国よりも少し安い水準に位置しています。

ちなみに今の円安状態と比べると驚きですが、2000年の調査では、日本のビッグマックは294円で、世界の上位5番目に入る高さでした。

当時アメリカは2.24ドル(約240円)だったことから、ビッグマックは日本のほうが高かったことがわかります。

ところがこの24年間で、日本のビッグマックの価格は1.6倍の値上がりにとどまる一方、アメリカは2.5倍に上がり、さらに為替も1ドル=105円から150円へと円安が進んだことで、相対的に「日本のビッグマックは安い」という状態になっています。

▼参考
BigMacIndex.jp – ビッグマック指数で世界の物価を日本と比較

円安の理由と私たちの暮らしへの影響は

ここまで円安が進んだ理由には、主に「貿易収支の悪化」「日本の金融緩和政策」「海外との金利差拡大」の3つが挙げられます。

日本はエネルギーや食料を多く輸入しているので、輸出額から輸入額を引いた差額で赤字になると、輸入のために円を売って外貨を買う取引が増え、円の価値が下がる要因となります。
国内の金融政策については、長い間ゼロ金利やマイナス金利を続けてきました。お金を預けても利息がほとんどつかないので、より金利の高いドルやユーロに資金が流れていきます。

さらに、アメリカが政策金利をどんどん上げていった結果、日本との金利差が広がり、円安が一気に加速しました。

円安が進むと輸入品の価格が上がってしまい、燃料や小麦、食料などを輸入に頼っている日本では、生活コストが徐々に上がり、家計を圧迫していきます。

ただし、円安にはメリットもあります。

自動車や精密機械のような輸出が強い分野には、円安はプラスに働きやすいのです。

また、外貨建て資産を持っている人は円に換算したときの評価額が増えるというメリットもありますが、これは資金が海外に流れてしまう原因にもなるので、個人資産家にとっては有利になることもあるかもしれませんが、日本全体の経済を考えると、あまり良くないといえます。

▼参考
円安はなぜ起きる?原因や理由をわかりやすく解説!(Money Canvas)
円高・円安とは?どっちがいい?メリット・デメリットや覚え方をわかりやすく解説!(三菱UFJ銀行)

物価指数は世界経済を映す鏡

関税が上がれば物の値段は変わりますし、物価指数はそれを映す鏡といえます。

そして為替の変動も、輸出入するすべての物に日々影響を及ぼします。世界の経済政策や金融政策は、遠い世界の話のように感じますが、すべては私たちの生活に直結するのです。

世界経済の動向に目を向けることで、日々の不安を解消したり、将来の備えについて考えたり、前向きな行動につなげていけたらと思います。

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