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洪水に崖崩れ・・・自然災害発による損害の責任は?

『コトニ弁護士カフェ』2021年8月20日放送分

8月に入り,西日本では豪雨が続き,九州を中心に洪水や土砂災害なども発生しています。
九州では8月中旬の時点で,8月の総雨量が平年の4倍を超えてしまうほどの記録的な大雨になっているようです。

豪雨に長雨、気圧との関係

私は熊本出身でずっと九州で生まれ育ったので,ある意味,大雨には慣れっこではあります。
しかしこの数年は,数十年に一度の豪雨じゃないかという規模の大雨が,毎年のように発生しています。
特に今年は,総雨量がすごい。集中的な豪雨というよりも,豪雨がずっと長く続いているような状態です。
本来は梅雨時期に前線が停滞して長雨が続くのですが,今年の夏はまるで梅雨時期のように,北からの高気圧と南からの高気圧が押し合って停滞しているような状態のようです。
特に南からとても湿度の高い空気が入り込んで,それが西日本に止まってしまっている状態で,大雨が続いていると考えられます。
3年前にも西日本で豪雨がありましたが,今年もそれに匹敵するぐらいの雨雲が流れ込んできているようです。

自然災害による損害、責任の所在は?

自然災害は自然がもたらすものです。
いつどこでどのような災害が起きるかなんて,特定することはもちろん不可能です。
ただし,自然災害だからといって,すべてが個人の責任になるわけではありません。

行政の責任

自然災害によって私たち市民が損害を受けてしまった場合,まずは行政の責任があります。
自治体には,市民の安心・安全な暮らしを守るという役割があります。

たとえば雨が多い地域であれば,「このぐらいの雨量でこの川はこのぐらい増水する」「氾濫を防ぐためにはこの場所に○メートル以上の堤防が必要」といったように,自治体は市民の安全を守るために,専門家の調査をもとに予防策を実施しなければなりません。
予測できていた損害を防ぐ施策をしていなかった場合,それは行政の責任になります。
<最高裁判所平成2年12月13日判決 多摩川水害訴訟 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52762
ただし,今回のように例年を超えるほどの豪雨が長く続くなど,これまでのデータから予測できないほどの大災害が起こった場合,つまり予測範囲外の大きな災害となってしまった場合は,すべてが行政の責任とはいえなくなります。

2009年東海豪雨の浸水被害に関する裁判

実際に行政の責任問題が問われた裁判として,2000年9月に起こった東海豪雨における裁判をご紹介します。

かなり割愛してご紹介しますが,浸水被害を受けた住民が自治体を相手に,河川の管理に問題があったとして損害賠償を求めた裁判なのですが,結果的には,行政の管理責任については「河川管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しえないものとはいえない」として,住民が敗訴しました。
一方で,同じような裁判でも自治体の管理の欠陥を認める判例も当然あります。

自然災害による損害に対して,管理や予防策が妥当であったかどうかというのは、一般の私たちにはなかなか判断できないものです。
このような専門的な訴訟となるとかなり時間も労力もお金もかかるという覚悟が必要だろうと弁護士としての視点では思います。

民間の責任

民間の責任を認めた少し珍しい判例もあります。
浸水する危険性があることを貸主が知っているにもかかわらず,家や駐車場などを貸した場合,貸主に責任はあるのか?
それが問われた裁判をご紹介します。

過去に浸水被害があった駐車場をめぐる裁判

過去に何度も浸水をしていた駐車場で,これまでも車両に被害があったにもかかわらず,駐車場の所有者は排水設備の改善など特に対策をしていませんでした。
そして,また豪雨による浸水が起こってしまい,駐車場を借りていたAさんの車が浸水し廃車となってしまいました。
そこでAさんは,駐車場の所有者を損害賠償を請求する裁判を起こしたのです。
しかし原則としては,自然災害による被害は所有者の責任になりません


ではこの裁判は,Aさんが負けてしまったのでしょうか?
ここで注目すべきなのが,この裁判での訴えのポイントです。
この裁判では「自然災害による被害の損害を賠償しなさい」という訴えではなく,「駐車場を借りるときに過去の浸水被害などについて説明がなかった」という点,つまり説明義務違反を主張したのです。

売買でも賃貸でも不動産の契約を結ぶ際には,相手が契約するかどうかを決めるために影響する情報は必ず説明しなければなりません。それを説明義務といいます。
今回のケースでは,この駐車場は過去に何度も浸水被害が起こっており,もちろん所有者は知っていたわけです。
過去の浸水被害のことを知っていれば,Aさんはこの駐車場を借りなかったかもしれません。
つまり「過去に浸水被害があった」という事実は,契約するかどうかの決め手になりえるほどの重要な情報だったわけです。
それが,そのような説明が一切なされないまま契約を締結したのであれば,説明義務を果たしていなかったということになります。

加入している火災保険の内容を確認しましょう

予測できないような規模の自然災害が起き,大きな損害を受けてしまった場合。
行政の責任でもなく,民間の責任でもなく,すべて自己責任になってしまうのでしょうか?

家を失って住む場所や家財を失ってしまったときに,何も補償がないと今後の生活の立て直しが困難になってしまうかもしれません。
そのような万が一のときのために火災保険というものがあります。
ただし,火災保険にも種類があり,おもに火災等による被害が対象なもの,今回お話したような水災被害も含むなど,プランによってカバーされる範囲が異なります。
地震保険も関東の方はほとんど入っているかと思います。

私の地元の九州では,熊本地震のあとはかなり加入率が上がったようですが,それまではあまり地震に対する危機感はなかったように感じます。
私の実家も地震保険に加入していなかったのと,行政からの補助の対象となる「大規模半壊以上」には該当しなかったため,壁のひび割れや室内の壊れた部分の補修などの損害をすべて自費で負担する必要があったようです。

地震や水害,どこでどのような自然災害が起こるか予測が難しい日本。
備えあれば憂いなし,必要な保険は加入していた方がいいでしょう。

『コトニ弁護士カフェ』次回の長友隆典弁護士の担当回は, 2021年9月3日放送です!

ラジオ番組『コトニ弁護士カフェ』
毎週金曜日10時30分から三角山放送局で放送中!
隔週で長友隆典護士&アシスタントの加藤がお送りしています。
身近な法律のお話から国際問題・時事問題,環境や海洋のお話まで,様々なテーマで約15分間トークしています。
皆様からの身近なお悩み,ご相談などのリクエストもお待ちしております。
三角山放送局 reqest@sankakuyama.co.jp または当事務所のお問い合わせフォームでも受け付けております。

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