2019年10月31日,ロシア仲裁センター主催の日露学生仲裁模擬法廷がユジノサハリンスクで開催されました。
私は仲裁人として所属しているため今回出席させていただきました。
ロシア仲裁人センターのユジノサハリンスク支部は昨年の9月に開所されたばかりです。
昨年の開所式に出席させていただいた様子はブログでもご紹介しました。
今回のイベントはロシア法務大臣の発案で開催が実現しました。
ロシア法務大臣も初日から参加する予定でしたが,急用のため直前で欠席となり,11月1日の結果報告だけの参加となりました。
会場はサハリン大学法学部内の教室。
午後1時に会場に到着すると,既に多くの聴衆が集まっていました。
サハリン大学の学生や地元の弁護士,地元のマスメディア,日本からはNHKが取材に来ていました。
そのほか,在ユジノサハリンスク日本国総領事である久野和博氏,サハリン弁護士会マキシム会長,サハリン大学の名誉教授の姿もありました。
開会に先立ち,まずは日露法律家協会会長の川村明弁護士から開会の挨拶がありました。
仲裁は現在社会でもっとも有効な紛争解決機関であり,も日本とロシアの仲裁機関が世界的にも活躍することを期待する,というお言葉でした。
また,久野和博総領事,サハリン弁護士会マキシム会長,ロシア仲裁センターのガリレンコ所長からの挨拶が続きました。
15時30分から,メインイベントである模擬仲裁法廷が始まりました。
日本からは,名古屋大学法学研究科の柴田正義さん,神戸大学法学研究科の竹内大樹さんの2名が参加。
ロシアからは地元の大学生3名が参加しました。
「日本企業とロシア企業の間でウニの取引で契約トラブルが起きた」という架空の設定で,それぞれが仲裁の当事者の立場になって主義主張を争うという趣旨です。
両社は生きたウニの輸出入に関して契約を結んでいたが,サハリンから輸出されたウニが死んでいた場合,その賠償関係や契約解除についてどのように解決するか,という点が問題となりました。また,契約の紛争解決条項には「ロシア仲裁所」と記載されていますが,準拠法や紛争解決地などが明記されていない場合はどうなるのか,仲裁人が一方の国の者に偏っておりかつ当事者から報酬などをもらっていた場合どうなるか,という点も争点となりました。
日本側,ロシア側からそれぞれ主張がなされ,短時間であっても非常に有意義な発表となりました。
日本側は,私を含む今回出席した小川弁護士,中野弁護士とともに事前に関係法令や国際裁判例などを入念に調査し,相手方からの反論も想定して準備していたおかげもあってか,日本側企業のためにしっかりとした主張ができたと思います。(例えば準拠法をロシア法とはしない根拠などについて)
一方で,私見ですが,ロシア側は学生がまだ大学生(日本側は大学院生)であったこともあり,日本側学生からの鋭い指摘にうまく答えられない場面もありました。しかし,仲裁という分野がまだなじみが薄いという点や,法学部の授業の中でも中心課題ではない可能性もあり,それを鑑みるとよく出来た討論であったと感じました。
お互いの主張を聞いた後に,仲裁人の中野弁護士,Sergei Ponomarev教授からそれぞれコメントがありました。
模擬法廷イベントは順調かつ友好的に行われ,法律を学ぶ学生にとっても私達弁護士にとっても,仲裁の重要性を考え直すきっかけとなりました。
今回の模擬仲裁法廷で争点となった上記の3つの点は,現実的にも問題となり得る争点だと思います。私たちが仲裁条項を作成する際も,これらを念頭において作成する必要があると感じました。
サハリンと北海道は隣同士であり,実際にサハリンや北方領土からウニやカニなどの水産物を大量に輸入していることから,このような契約トラブルは既に数多く発生していると考えられます。相手がロシア企業だと,対処できずに泣き寝入りする場合も多かったのではないでしょうか。このような場合に,お互いが満足できる内容で紛争を解決できるように仲裁というシステムが活用されることを期待しています。
また,法律問題から一歩離れても,このような共同イベントを開催することで,北海道にとって一番近い隣国であるロシアとの友好関係を強化し,「近くて遠い関係」から近くて真の意味の友人になれるきっかけとなることを望んでいます。
今回のサハリン訪問は,私にとって,ロシアへの先駆者である弁護士の一人として,これからも日露,そして北海道のためにも先頭を走って行きたいと誓う良い機会になりました。
弁護士 長友隆典
今回の模擬仲裁の様子は下記の記事でも紹介されました。
【NHK NEWS WEB】
日ロの学生 経済交流進む中 契約トラブルテーマに議論交わす」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191101/k10012159661000.html
【SAKHALIN.INFO】
地元サハリンのニュース(ロシア語)
https://sakhalin.info/news/179666