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日本と中国を巡る「パンダ外交」について 弁護士が解説

『コトニ弁護士カフェ』2025年6月13日放送分

和歌山県のアドベンチャーワールドは、中国への返還が決まった全4頭の雌のジャイアントパンダについて、日本からの出発が6月28日に決定したと発表しました。アドベンチャーワールドのパンダ返還後は、国内で飼育されるパンダは上野動物園にいる2頭のみとなります。

この「返還」という言葉にあるとおり、現在日本の動物園にいるパンダはすべて中国から借りている状態です。
今回は、パンダがどのような契約で日本に来ているのか、返還の条件など、パンダをめぐる日中関係について考察します。

▼参考
和歌山パンダ、6月28日に返還 全4頭、国内は上野の2頭だけに|Yahoo!ニュース
日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野…中国返還のその先|Yahoo!ニュース

パンダ外交の歴史


パンダをめぐる中国の外交は、さかのぼること1941年、日中戦争時に蒋介石の妻がニューヨークのブロンクス動物園にパンダを贈呈し、米国から軍事援助を得ようとしたのが始まりでした。それ以来、パンダは中国の外交カードとして各国との間で使われてきました。

日本と中国の間では、1972年の日中国交正常化を記念し、友好のシンボルとして2頭のジャイアントパンダ、カンカンとランランが中国から日本へ贈られました。
上野動物園の一般公開では、開門前から長蛇の列ができ、一大ブームが巻き起こるほどの人気でした。

1981年、絶滅危惧種の保護対象へ


カンカンとランランの頃は贈与だったのですが、現在は「貸与」、つまり借りている状態です。
パンダは森林伐採や密猟などの影響で一時期数が減少し、その後1981年に中国がワシントン条約に加盟すると、絶滅危惧種の保護対象動物となり、商業目的等での国際取引が禁止されてしまいました。

そもそもパンダは生息数が少ない希少動物なので、ビジネスとしてパンダを輸出入することはCITES(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)通称:ワシントン条約)という国際条約で禁止されています。このCITESという条約の附属書Iという最も厳しいカテゴリーに分類されているので、商業目的のために貿易することができないのです。

そのため現在は、日本にやってくるパンダは、中国野生動物保護協会と東京都が「ジャイアントパンダ保護研究実施の協力協定」という協定を結び、「日中共同飼育繁殖研究」と呼ばれる研究目的で貸与されています。

▼参考
パンダと日中関係|京都産業大学
日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明|外務省

パンダにかかる費用と経済効果

中国がパンダを貸与する際、相手国からパンダの保護・研究費として受け取る費用は、年間100万ドル程度(約1億円前後)といわれています。上野動物園の場合、その費用は東京都が支払っています。

費用の適正性を判断するのはむずかしいですが、それでも日本におけるパンダの人気は根強いので、パンダがいるだけで動物園はたくさんの来場が見込めます。入園料以外にも、グッズの売上げ、近隣施設の利用、動物園までの交通費や宿泊費など、高い経済効果があるとされています。

さらに飼育するとなると、餌代や飼育にかかる管理費用も発生します。
パンダの主食である竹は、パンダ一頭当たり一日20〜30キロ必要ですし、栄養管理のためにリンゴやニンジン、特製ビスケットなども与えられます。それに、気候管理された専用施設の維持費、24時間体制での健康管理、獣医や飼育員の専門研修など、年間数千万円規模の維持費がかかるとも言われています。

▼参考
パンダビジネスとその経済効果の考察
パンダのレンタル料、2頭で年7800万円は高いの|日本経済新聞

2026年には「パンダゼロ」に?


ジャイアントパンダ保護研究実施の協力協定では、パンダの所有権は中国にあると定められています。そのため、協定に定められた期間が過ぎたら、中国へ返さなければなりません。日本で生まれたパンダについても同様に、中国が所有権を持ちます。

上野動物園で2017年にリーリーとシンシンの間で生まれたシャンシャンも人気があったのですが残念ながら2023年に中国に返還されましたし,リーリーとシンシンも2024年に返還されました。

現在上野動物園にいる日本で生まれたリーリーとシンシンの子供である双子のパンダ、レイレイとシャオシャオは、2026年2月20日が返還期限になっているようです。つまりそれ以降、日本は54年ぶりに”パンダゼロ”の状態になるかもしれません。

それでも日本にはパンダファンの方もたくさんいらっしゃいますし、「動物園にパンダを!」という声は絶えないのではないかと思われます。

▼参考
パンダ返還で54年ぶり“ゼロ”に…外交政策のメリットは「中国7割、日本3割」驚愕のレンタル料と問題点|週刊女性PRIME
日本からジャイアントパンダがいなくなる!会える動物園&返還される時期

パンダを外交に利用するのは適切なのか?


ここからは私見になります。
「パンダを日本の動物園に貸与して欲しい」という気持ちは理解しますが、それを条件に外交政策などで日本が中国に対して譲歩するようなことがあるのであれば、それは外交の役割として本末転倒なのではないでしょうか。

2023年に上野動物園から中国に返還されたシャンシャンは、現在は四川省の「中国ジャイアントパンダ保護研究センター」で元気に暮らしていますが、日本から会いに行くファンの方も絶えないようです。
どうしてもパンダを見たいのであれば、「中国までパンダに会いに行く」というのもひとつの選択肢です。

もちろんパンダは可愛いですし、日本国内の動物園に見に行けたらうれしいですが、「パンダ」という中国の外交カードに振り回されず、毅然とした態度で望んでいただきたい、というのが私の思いです。

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