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入管法改正、難民認定制度はどうなる?|国際弁護士が解説

『コトニ弁護士カフェ』2023年3月3日放送分

「出入国管理及び難民認定法」という法律において,2021年に取り下げとなった改正案が再び注目を集めています。
ウクライナとロシアの問題は今も続いていますが,日本はそのような戦争が起こっている地域から逃れた人たち(難民)を受け入れることに対して厳しい国なのです。
まだ問題の多い改正案ですが,今回はそんな日本に滞在する外国人に関わる法律である入国管理法について,お話しをします。

入管法とは?

まずは入管法の基本的なことを簡単に説明したいと思います。
入管法の正式名称は「出入国管理及び難民認定法」という法律であり,1951年に公布されました。
皆さんご存知の通り,外国人の日本への入国や出国の管理,在留資格や難民認定の手続などに関する法律ですね。


最近では2018年に改正がありました。
そのときの改正内容は「特定技能」という新しい在留資格が追加され,一定の専門性がある外国人を即戦力として受け入れることができるようになりました。
これまでの外国人研修制度で技能実習生からそのまま特定技能者へと移行もできるようになり,最長5年の研修・実習期間から引き続き日本で働けるようになったのです。
さまざまな分野で人手不足が懸念されていますから,これは日本の労働力不足を解決するひとつの選択肢となるでしょう。

2021年に取り下げとなった改正案

2021年に取下げとなった改正案が現在また注目されています。
実はこれが大きな問題。
まずは日本という国は,難民に対してとても厳しい国。
難民というのは自国で暮らし続けることに命の危険があるため,他国への移動を余儀なくされた方々です。
たとえば現在のウクライナのように,紛争が起きてそこから逃れてきた方などですね。


日本に来た場合,まずは「難民申請」という手続をするのですが,令和3年に難民申請をした人の数が2413人いたのに対し,難民に認定されたのはたったの74人でした。計算すると約33人に1人の割合になり,認定率はたったの1%で、かなり狭き門なのがわかります。
この数字は他国に比べ極端に少ないため,これまでも日本の難民認定については議論がされてきました。


また,日本では不法滞在の外国人は入国管理局に収容されることになるのですが,長期収容されていた外国人が不当な扱いを受けて亡くなった事件もありました。
こういったことから,難民にならざるを得ない外国人の権利について,もっとしっかり保護すべきであるという声が多方面から上がっているのです。
それに反して,2021年に一度提出されて取り下げとなった改正案というのは,難民の認定を受けようとする方々にとってさらに厳しい待遇になる可能性が高かったのです。

■入国管理局が問題視していること

何故厳しい待遇になるかというと,まず,入国管理局では収容された外国人の収容期間の長期化が問題となっていますが,このような収容期間が長期化している外国人にとって大きな不利益となる改正案だったからです。
現在の制度では,不法滞在者として収容された場合でも,難民認定申請をしている間は,強制送還はされないことになっています。
その制度を利用して,申請が却下されても何度も難民申請をすることで,自国へ帰ることを拒否する滞在者もいることが問題視されているのです。

2021年に提出された入管法の改正案

そこで2021年に提出された改正案では,例えば以下のことが盛り込まれていました。

・難民申請できる回数を2回までと上限を設ける
・送還中に暴れるなどして送還を妨害した場合は刑事罰を科す


つまり「難民認定申請中で入国管理局に収容されている外国人を強制的に送還しやすくする。」ことを目指しているのが分かります。
3回目以降の難民認定申請中の外国人については,入国管理局の判断で送還させることができる,ということになります。


実はこれに関しては,日本も加盟している国際条約である「難民条約」に違反する可能性があるのです。
難民条約では,迫害を受ける恐れのある国に送還することを禁じているノン・ルフールマン原則に反することになります。

■ノン・ルフールマン原則とは

ノン・ルフールマン原則とは,生命や自由が脅かされかねない人々(特に難民)が,入国を拒まれあるいはそれらの場所に追放したり送還されることを禁止する国際法上の原則であり,追放及び送還の禁止とも呼ばれます。
つまり「自国に帰ることで危険がある人々を,こちらの国の都合で追放・送還してはいけない」ということです。
今回お話していることに当てはめると,日本の入国管理局の収容者が増えているとか滞在が長期化しているとか,難民認定申請を何度もして強制送還を避けている者がいるとか,そういった都合とは関係なく,「自国に戻ることで生命や自由が脅かされかねない人々」は,保護しなければならないわけです。

そもそも先ほどお話ししたように,日本の難民認定率は極端に低い状態です。
認定を受けられなかった人々は全員,本当に自国に帰っても安全といえるのでしょうか?
半ば強制的に送還させたあとに,その方に身になにか危険があってからでは遅いのです。

2023年に提出されようとしている改正案

政府としては,2021年改正案が先ほど話したような問題点の指摘を受けて,結局取り下げとなってしまったことから,「準難民」という制度を導入を提案しています。

現在の入管法では,難民とは「難民条約」第一条の規定又は難民の地位に関する議定書第一条の規定により難民条約の適用を受ける難民のことをいうのですが,「人種,宗教,国籍,特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由として迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないか又はそれを望まない者」というのです。

実はこれをこのまま適用すると非常にハードルが高くて,たとえば「戦争で逃げてきた人」はこれに含まれていません。これが日本で難民認定が少ない理由の一つでもあるのです。
そこで,ウクライナ情勢などを考慮して,この規定されている難民には該当しないものの,戦争から逃れた人たちを受け入れるという目的で「準難民」という制度を設けようとしているのです。

ただ,戦争は個人の責任ではなく,個人の意思とは無関係に起こってしまう上に,そこから逃れないと生命や財産が失われてしまう恐れがあるため,私としては,従前の定義でも「政治的意見を異にして」という定義に当てはまるとは思うのですが,そのように解釈せず,わざわざ新しいカテゴリーを作ったのです。
とはいえ,これまでの入管法では対応できなかった戦争から逃げてきた人たちを受け入れやすくなるという点では,名目はともかくとして良かったと思います。

新しい改正案、まだ残る問題点

しかし,これだけでは問題は問題は解決しないままです。
新しい改正案でも,2021年の改正案で取り下げとなった理由の問題点である,ノン・ルフールマン原則に反するという点がそのまま残っているのです。
すなわち,難民申請できる回数を原則として2回を上限として申請回数が3回以上になった場合強制送還できるようにするという点は変わっていないのです。
私たちは,この点は条約違反であると強く主張しています。
私としては,日本という安全な場所に難民として逃れた人たちはもっと積極的に受け入れるべきだと思います。
さらに,強制送還に従わないなどした場合は刑事罰を受けるとい制裁措置が強化されている点も問題です。
確かに不法に入国した場合などに厳しく対応することは必要ですし,それはアメリカでもヨーロッパでも厳しく行っています。
しかし,難民の場合は,別だと思います。
しっかりと事情を考慮して,人権侵害にならないように,そして逃れてきた人たちの生命を守るように,日本としても先進国として責任を持って対応して欲しいと願うばかりです。

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