2024年4月から「相続登記」が義務化されました。
相続登記はこれまで法律上の義務ではなく,実際に行われない場合もあったのですが,それにより現在さまざまな問題が起こっていました。
今回は,相続登記が義務化になった理由や,手続きを行わなかった場合の罰則などについてお話しします。
相続財産には預貯金・現金や貴重品などのほかに,不動産が対象になるケースもとても多いと思いますが,相続に関連した不動産名義の登記変更手続きのことを「相続登記」といいます。
この相続登記が,令和6年(2024年)の4月から不動産登記法が改正され義務化されました。
所有権の登記名義人について相続の開始があったときは,当該相続により所有権を取得した者は,自己のために相続の開始があったことを知り,かつ,当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に,所有権の移転の登記を申請しなければならない。
不動産登記法第76条の2第1項
遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も,同様とする。
相続登記とは,お亡くなりになった方から不動産を相続したときに行う不動産の登記上の名義を変更することをいいます。
これまで,相続登記は法律上の義務ではなく,実際に行われないで放置される場合もありましたが,さまざまな問題が起こり,これまでは任意だったこの相続登記が,法律で「義務」とされるようになったのです。
義務化されたということは,要するに親や親族が亡くなった後に,土地や建物の名義を新しい所有者,つまり相続人に変更する手続きを,必ず行わなければならないということになります。
実は現在,相続登記をしないまま放置される不動産が年々増加していて,誰のものかわからない土地がたくさん存在しています。
国土交通省の資料によると,国土交通省調査と法務省調査を統合した推計から,所有者の所在が判明しなかった土地の割合は,あくまでも試算の結果ですが,29%にも及んでいるようです。
(参考:所有者不明土地の実態把握の状況について|国土交通省)
たとえば,親から土地を相続したけれど,登記をしないまま何十年も経ってしまったというケースや,そもそもその不動産があることを知らなかったというケースです。
現在,所有者不明の土地については,地方公共団体によって土地の情報を調べる地籍調査が行われているものの,今後さらに所有者不明土地は増えていくと予想されており,各地で社会問題になっているのです。
登記には公示力というものがあり,そこに名前が書いてある方が公的には所有者というように見えてしまいます。
しかし,真実は誰かがその不動産を相続して所有権が移転していたとしても,相続登記がされていないと,公的にはその土地や建物の現在の所有者が亡くなった方のままであるように見えます。
結果的に,相続した真の所有者であっても,登記名義が変更されていなければ,その土地を売ることも貸すこともできませんし,場合によっては固定資産税の支払い義務も曖昧になってしまいます。
さらに,相続人が複数いる場合,時間が経つとその相続人が亡くなることで新たな相続が発生して,相続関係が複雑化してしまいます。
それだけでなく,所有者不明の土地は管理されず放置されてしまうことが多いため,近隣住民への悪影響になる可能性もあります。
相続登記の義務化は,放置されていた不動産をしっかりと管理できるようにするのが狙いです。
国や自治体も,土地の利用や課税の計画を立てやすくなりますし,土地の有効活用も促進されることでしょう。
過去に相続が発生している場合も,今回の義務化の対象になります。
親や祖父母の相続登記をこれまでしていなかったとしても,これからはそれを遡って登記しなければなりません。
相続登記を怠った場合,罰則が科されることになります。
中略 第76条の2第1項若しくは第2項又は第76条の3第4項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは,10万円以下の過料に処する。
不動産登記法第164条1項
ただし,今回の義務化には2027年3月末まで猶予期間が設けられていて,猶予期間内に手続きを行えば特に罰則は科されません。
そして,猶予期間が過ぎた後も相続登記を行わなかった場合には,罰則が科されることになります。
手続きができない正当な理由がなく,期限内に申請しなければ,10万円以下の過料となります。
ここで示す正当な理由とは,法務局によると「相続人が極めて多数にのぼり,戸籍謄本等の資料収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケース」などとされています。
しかし,これらの理由に該当しない場合でも,法務局の登記官は個々の事情を総合的に考慮し,具体的な事案に応じて「正当な理由」の有無を判断するとのことです。
(参考:
(参考:相続登記が義務化されました~なくそう所有者不明土地!~|東京法務局
相続登記の申請義務化に関するQ&A|法務省)
相続登記の期限と手続き
相続登記の義務は,相続が発生した日から3年以内に行わなければなりません。
つまり不動産の相続を「知った日」から,ということになります。
その日がカウントの起点となり,3年以内に手続きを完了させなければならないということです。
また,今回の義務化で,過去に相続した不動産でも,2027年4月1日までに登記を完了しなければならないこととなっています。
相続登記の手続きは不動産の所在地の法務局で行います。
申請方法としては,窓口,郵送,オンラインの3つがありますが,オンライン申請には電子証明書が必要なため,一般的には窓口での申請が推奨されています。
手続きには,亡くなった方の戸籍謄本や住民票,固定資産評価証明書などの書類を集める必要があります。
それから申請書を作成し,法務局に提出します。
手続きが完了すると「相続登記識別通知」が発行され,これが正式な相続登記の完了を証明する重要な書類となりますので,大切に保管する,という流れです。
けっこう複雑な手続きなので,弁護士や司法書士などの専門家に依頼する人が多いかと思います。
法務局のホームページでも手続きの流れを詳しく説明していますし,無料の相談窓口もありますが,相続登記をスムーズに進めるためには,まず早めに専門家に相談することをおすすめします。
また,相続登記にかかる費用は,基本的には登録免許税として,不動産の評価額の0.4%がかかります。さらに専門家に依頼する場合には,その報酬も別途必要です。
相続登記の手続きには発生してから3年という期限があり,期限をすぎると原則として罰則が科されてしまいます「知らなかった」「忘れていた」ではすまないので,相続のときに不動産をしっかり把握して,できるだけすみやかに相続人同士で協議の上,登記手続きをすることが大切です。
相続登記の義務化は,私たちの生活に大きな影響を与える可能性がある重要な制度変更です。
不安な点があれば,早めに専門家に相談することをおすすめします。
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