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高齢者を狙う「押し買い」に注意!弁護士が解説

『コトニ弁護士カフェ』2025年5月30日放送分

最近「押し売り」ならぬ「押し買い」のトラブルが増えているそうです。

「押し買い」とは言葉の通り「押し売り」の反対で、特に売却の相談などもしていない家に突然押しかけて、強引に不動産や貴金属などを買い取ろうとする行為のことです。

特に一人暮らしの高齢者が狙われやすく、中でも不動産の押し買いに関するトラブルが増加しているようです。

今回は、高齢者を狙う「押し買い」について解説していきます。

【押し買い】60歳以上の自宅売却に関する相談件数

国民生活センターのデータによれば、自宅の売却に関する相談のうち、契約当事者が60歳以上であるケースは、2016年から2020年の5年間でおおむね600件前後で推移しており、件数自体に大きな増減は見られず、全体としては横ばいの傾向が続いています。

年度相談件数
2016571
2017564
2018657
2019616
2020610

しかしながら、より高齢の世代、すなわち70歳以上の方からの相談は、近年増加傾向にあります。

年度60歳未満60~69歳70~79歳80歳以上
201635.6%28.2%20.6%15.6%
201735.0%25.5%21.9%17.6%
201834.8%19.9%26.1%19.3%
201934.5%19.6%25.5%20.4%
202030.1%17.6%30.4%21.9%

契約者の年代別の相談割合を見てみると、60歳未満および60代の割合は年々減少している一方、70代以上の割合が徐々に増加しており、2020年には70~79歳が30.4%、80歳以上が21.9%で、両者を合わせると過半数を占める52.3%を占めています。

これは、自宅売却トラブルの中心が徐々に高齢層へと移りつつあることを示しており、特に70代以上の方々が押し買いなどの不当な取引に巻き込まれるリスクが高まっていることがわかります。

参考:国民生活センター「高齢者の自宅の売却トラブルに注意」

不動産「押し買い」業者の狙いと手口

不動産売買に関わる押し買いの目的は、相場よりも安く買い、その上で家賃を取り、利益を得ることです。
家を不当な安値で買い叩かれた上に追い出されてしまうケースもありますし、「売却後もそのまま住めますよ」と安心するようなことを言い、その物件に関して今度は売主と賃貸借契約を結び、元の持ち主に貸すこともあります。

つまり売ってしまった方は、相場以下の安い価格で売ってしまった上に、さらに家賃まで払い続けることになってしまいます。

一つの例ですが、業者はまず「終活のために、お住まいを売却しませんか」といった提案を持ちかけるそうです。後日、数人の従業員が訪ねてきて、自宅を数百万~数千万円で買い取りたいと告げ、「手入れをせずに引き渡すか、内部を新しくするかで価格も変わる」といった旨を繰り返し話し、買い取り価格の根拠の説明はしないそうです。

そして、特に高齢者が聞きなれないとする「リースバック」の提案を持ちかけます。

リースバックとは?その特徴と問題点


リースバックとは、物件の売却と同時に、売主がそのまま住み続けられるよう賃貸借契約を結ぶ不動産取引のことです。たとえば、自宅を売却した上で、同居住物件を賃借することで、売却資金の確保と同時に住み続けることができます。

自宅のリースバックなら、思い入れのある住まいから転居する必要がなく、生活環境を維持しつつ資金を調達できる、また固定資産税の支払いも不要になるというのがメリットになります。

ただ、デメリットもあり、売却価格が相場より低くなったり、いつまで家を借りられるかは不明瞭であったり、クーリングオフ対象外であるといったことが挙げられます。

似たような用語に「リバースモーゲージ」というものがあります。これは主として銀行が提供しているサービスですが,自宅を担保に入れて老後資金を借り入れるというもので所有権に変更はなく「リースバック」とは異なるものです。

参考:リバースモーゲージとリースバックの違いは?メリット・デメリットを解説!

 

不動産売買はクーリングオフが適用されない

不動産の取引を取り締まる「宅地建物取引業法」は、住民が売主となる場合、クーリングオフできるという規定がありません。また、違法な訪問購入を取り締まる「特定商取引法」でも、不動産の訪問購入は適用の対象外となっています。事業者もわざわざ「クーリングオフの適用はない」と説明する義務はないですから、クーリングオフができるかどうか、ということに注意を向けることもなく、契約してしまうケースが多いようです。

高齢者が狙われやすい理由

こういった悪質な「押し買い」について、高齢者の方が狙われやすい理由は、主に3つあります。

1. 情報格差による知識不足

高齢者の方はテレビは観ているかもしれませんが、インターネットやスマホなどは利用しない方も多く、最新の犯罪手口や防犯対策について、あまり知識がないケースがあります。

そのため、あたかもプロフェッショナルのように専門用語を使って説明をする業者の話を信じてしまいやすいのです。

2. 老後の不安を煽る巧妙な手口

高齢者ならではの老後に対する漠然とした不安につけ込まれてしまうケースもあります。
「早く終活しないと」「子どもに迷惑がかかる」「現金にしておいたほうがいい」などと、高齢者が感じている不安を言葉巧みに煽り、「今売却すれば安心ですよ」と不安をなくす解決策を提案することで、契約を成立させてしまいます。

3. 孤立による相談機会の欠如

一人暮らしの高齢者や、家族との連絡が少ない方は、すぐに相談できる相手がいない状況にあることも理由です。
誰にも相談できず、詐欺であることに気付かないまま契約が成立してしまうケースもあります。

こうした背景から、高齢者は押し買いのターゲットにされやすいのです。

押し買いを防ぐための対策

こうした「押し買い」の被害に遭わないために、気を付けておきたいポイントがあります。

知らない業者・聞きなれない言葉に注意

まず、知らない業者からの突然の訪問や電話には絶対に応じないことです。「終活したほうがいいですよ」や「今のうちに現金化を」など、一見もっともらしい言葉を並べてきますが、実際にはこちらの不安や弱みにつけ込んでくるケースが非常に多いのです。

次に、リースバックなど、聞きなれない用語が出てきた場合は、その場で即決しないことです。わからない言葉や条件が出てきたときは、一旦保留にして、信頼できる家族や第三者、あるいは法律の専門家に相談するようにしてください。

業者は「今すぐ決めないと損をする」といった心理的な圧力をかけてきますが、そのような焦らせ方自体が、信頼できない証拠といえます。

事業者情報と契約内容をしっかりチェック

どんなに信頼できそうに見える業者でも、「宅建業の免許番号があるかどうか」「事務所の所在地が実在するか」などを必ず確認するのも重要です。正規の業者であれば、こうした情報は国土交通省や都道府県のサイトなどで簡単に調べることができます。

査定価格や契約条件を曖昧にしている場合も要注意です。

「このままでも買えるが、修繕すればもっと高く売れるかも」など、言い方を変えて価格を釣り下げようとする手口も報告されています。契約書をよく読まずにサインしてしまうと、後から取り返しのつかない事態になることもあります。

家族や友人とコミュニケーションを取っておく

身近なご家族や友人と日頃からコミュニケーションを取るようにし、何かあったときにすぐに相談できる、おかしな気配に気付けるような人間関係を築いておくことが大切です。

「最近、変わったことはない?」「こういう詐欺が流行ってるらしいよ」と、日常的な声がけや情報交換ができるといいでしょう。

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